48話 恋する乙女(守銭奴な妹)
「かざりんよ、邪魔するのじゃ」
「はーい、どうぞ。スリュムちゃん」
……風璃とスリュム、いつの間にこんな呼び方をするくらい仲良くなっているんだ。
というわけで、今度は我が家の風璃の部屋へ来ていた。
間取りは俺の部屋と一緒で、家具類もほぼ同じだ。
女の子らしい物と言えば、大きなクマのぬいぐるみが置いてあるくらいである。
「あ、それ気になる?」
俺の視線に気付いたのか、座っているベッドにぬいぐるみを抱き寄せる。
太股の上に乗せて丁度、あごが乗るくらいの大きさ。
何か見覚えがあると思ったら、俺が昔あげたやつだ。
「聞きたいのは映司お兄ちゃんの話だったよね? 丁度、それをくれたのが──」
だが、何か引っかかる。
あれは誰かと買いに行った気がするが、それが誰だったか思い出せない。
……風璃、ではないよな。
何をあげたらいいかの相談をして、そのまま買いに行ったはずだ。
風璃本人にそんな事をするはずがない。
そうなると消去法的に俺と風璃、共通の知り合いであった……あの子か。
「──でね、その時に映司お兄ちゃんがお節介にもぬいぐるみをくれてね、邪魔ったらないってのに」
風璃は意外に饒舌で、ちょっと顔も上気してきている。
巨人の国ヨトゥンヘイムで買ってきた、体温で色が変わる長袖の服とやらも青系から赤系に変化中だ。
熱でもあるのか、もしかして風邪なのか?
「捨てちゃおうかなーっていつも思うんだけど、クッション代わり程度には住まわせてやろうかなーって……スリュムちゃん?」
俺は、話を遮るように風璃の額に手を当てていた。
「何か顔が赤くなっておるのじゃ。ぬいぐるみの事を語るだけでそうなるとは、具合でも悪いのかと……」
「あ、あはは……具合は平気」
「では、なぜなのじゃ?」
問い掛けると、風璃の顔は再び赤くなった。
少しだけ躊躇しながら、ぽつぽつと語り出した。
「えと……あの……たぶん思い出してた」
「のじゃ?」
仏頂面のような表情を見せた後に、勘弁したかのように声のトーンを強めた。
「映司お兄ちゃんに! ……その……ぬいぐるみもらった時の思い出とか……! 異世界でも助けてもらった時の顔とか……!」
俺、何かしたっけ?
ぬいぐるみは渡しただけだし、異世界の魔女から助けた時もごく普通の事をしたくらいだ。
何やら普段、俺はロクな扱いを受けていないと思っていたが、意外とこちらへ心象は良いらしい。
もうちょっとだけ踏み込んで聞いてみるか。
たぶん、金になるとかそういうオチが待っているだろう。
それが風璃だ!
「それは映司が格好良いという事かの?」
「まぁ……格好良いんじゃないかな。あたしのピンチをいつでも助けてくれるし……、ずっと見守っていてくれるって言われたし……、あたしもそうしたいと思ってるし……」
急にモジモジし出してしまった。
いやいやいや、何か悪い物でも食ったのか。
こういうキャラだったっけコイツ……!?
かなりの動揺が襲ってくる。
そういう事じゃないぞ!?
違うぞ! 何が違うのかも、もう分からないくらい混乱しているが!
「あ、あはは。何か部屋熱いね。ごめんねスリュムちゃん、あたし異世界へ用事があるから、もう行かなきゃ!」
俺がグルグルと眼を回している間に、風璃は逃げるように部屋を出て行った。
横を通る時の、フワッと薫る石けんの匂いにドキッとしてしまった。
……死にたい。




