40話 再会(鋼の意思)
「ネット通販のお届けでぇ~す」
映司殿のふざけた声が響く。
スリュムの館は、猫殿の主砲と体当たりによって、見るも無残な姿になっていた。
ドールハウスの前面開放して、中が見やすくなっている状態のようだ。
我と猫殿は、館の外で待機を命じられていた。
例え──映司殿がどうなっても、フリン殿を乗せて逃げるまでは動くなと。
作戦はあると言わんばかりに自信満々の表情で。
我にとって世界一心強い証であった。
絶対に上手くいくはずだ。
あのスリュムの館に殴り込みをかけ、ここまで来ているという順調さもある。
「お荷物は、玄関開けて2分でお前らを半壊させる事が出来る──祝いのクラッカーだ!」
猫殿から、ありったけの火器を持ち出して降車した映司殿。
構えるのは、右肩にずっしりと載っている多連装式ロケットランチャー。
「な、何だあいつは!? スリュム様の館に乗り込んでくるとか正気なのか!?」
警備兵らしき者達が、我らの奇襲にざわめいている。
その中に吸い込まれていく爆薬。
耳をつんざく衝撃音。
さらに館の原形が無くなっていく。
「いってぇー! クソッ! こんな時に本隊はどこだ!」
「フェンリルにまわされているって話だ! それより執事ごっこやってる警備隊長は!?」
人型サイズでも巨人なので、致命傷にはならないようだ。
映司殿が、そのくらいの威力の武器を選んだというのもある。
だが、精神的にはダメージが大きいようで、蟻の巣に天敵が襲来したかのような騒ぎになっている。
「有料会員には即日配送も承っておりまーす!」
左手に持つ手榴弾のピンを口で引き抜いて投げつけ、右手で抱え込むように重機関銃を撃ち続けている。
……確かあの銃は反動がすごいはずだが、ものともせずに扱っている。
心なしか、黒マントで包まれた映司殿が逞しく見える。
これで、そのままフリン殿を救出できれば!
「あ、映司です。映司~!」
映司殿の攻撃が届かない位置の扉から、フリン殿を連れたメイドが現れた。
良かった、フリン殿は無事なようだ。
映司殿はどうにかして、攻撃に巻き込まれないような計算をしていたのだろう。
「おい、メイド! 何故、フリン様がここにいる!? スリュム様のお気に入りだぞ!?」
「あ、あの……警備隊長から連れてくるように言われて……」
「そんな命令出ていないはずだぞ!」
指揮系統も混乱しているらしい。
何たる幸運、何たる映司殿の運命。
この世界の全てが味方をしている。
後は、フリン殿を乗せて脱出するだけで──。
「フリン! こっちだ!」
奇跡的な再開を果たした二人。
スリュムに連れ去られたが、やっと取り返すことが出来るのだ。
映司殿は重機関銃を投げ出して、フリン殿の方へ走り出し──。
「……がはっ」
どこからか飛んできた一発の銃弾が、映司殿の胴体を貫く。
それでも映司殿は、走るのを止めない。
背中に背負っていたソードオフショットガンで反撃しようと取り出すが──。
「映司ィー!!」
フリン殿の前で、鉛玉を何十発も受けて倒れた。
「チッ、しぶとい奴だ。もしかして人間じゃねーかもしれねぇ。エーテルが維持出来ないくらいに、念入りに身体を破壊しねーとな」
黒髪の警備兵が、火炎放射器を構え、それを映司殿に向けて噴射する。
粘り気のある特殊燃料は倒れた身体にまとわりつき、消えない炎を燃え上がらせた。
「そん……な……」
近寄ろうとするも、燃え上がる映司殿から引き離されるフリン殿。
映司殿が動かなくなったのを見ると、そのまま崩れ落ちて泣き出してしまった。
──我は、映司殿から約束された。
例え、映司殿がどうなっても、フリン殿を乗せて逃げるまでは動くなと。
すまぬ、映司殿。
我は、映司殿に恩義がある。
独りよがりの世界に気付かせてくれ、一番大切な者の存在すら思い出させてくれた。
あの哀れな機械の──いや、人の子を。
ならば、我も機械ではなく、一人の熱き血潮が通う巨人として! 命令ではなく自分の意思に従おう!
例え、恩義ある映司殿の最後の頼みであっても、この漢泣きを止める事はできまい!
弱い我でも、身体を銃弾の盾にしてフリン殿を連れ出す事くらいは出来よう!
「うおおおおおお! 映司殿ぉー! 我もそちらの世界にいきますぞぉー!」




