3・5話
【ウルズより近く、スクルドより遠く、ヴェルザンディより高く】
フリンと共に転移陣に乗った直後、不思議と夢のようなものを見た。
明るくもあり、昏くもある空間。
そこで、さっきまで手を繋いでいたはずの幼女は、中学生くらいにまで成長していた。
思わず見惚れてしまう、宝石すらも色あせる程の美しい少女。
──そして、語りかけられる。
【神言は愛を最も好む者から、目覚めたる者へ靡き、凪となる】
「フリン、何を言って……」
幼かった頃からの面影はあるが、その表情はどこか悲しげだ。
まるで誰かを哀れむかのように。
【目覚めたる者よ。この箱庭のようなエーデルランドは簡単に、獣声に怯える神のようになってしまいます】
「フリン……だよな? ここはどこだ?」
あの幼女がこんな言葉を使ってくるとは思えない。
【泡沫に見る夢のようなものです。これから話すことも、全てあの子に干渉されて忘れてしまうでしょう】
「そっか。夢ならフリンが立派に育っていてもおかしくはないか」
そのまま、成長したフリンが話を続けてくる。
夢なら楽しんだ方が良いだろう。
【運命に縛られし魔女、英雄を育む国、機械の国の人間、霧の巨人の王、実体を失いし乙女──】
何やら聞き慣れない言葉が羅列されていく。
【彼の存在を救ってあげてください。殺さないでください】
「おいおい、いきなり物騒だな」
【剣を向けてくる相手に──】
俺は面倒臭そうに遮った。
「フリンの前でそういうのは無しだ。俺もしない。当たり前だろ?」
【ふふっ、あなたはいつもそうでしたね】
成長したフリンは、やっと笑ってくれた。
【たまには叱ったり、厳しくしてもよかったんですよ?】
「本当にやっちゃいけない事をした時だけそうして、後はユルく楽しくやるさ。異世界運営も」
彼女は俺の言葉を聞いて、安堵の表情を見せながら、瞳を潤ませていた。
【もう時間はありません。最後に白き加護を授けます。……とても弱く、とても小さく、生まれたばかりのひな鳥、紛い物のルリツグミのように……】
「フリンからもらった力とは違うのか?」
【ステータスや、表面上には一切現れません。これは、運命に選択肢を介入させるだけの力。ユグドラシルにも見破れない──】
急激に夢が覚めていくような感覚。
もう終わりは近いのだろう。
「なぁ、これから俺はどうなるんだ?」
自分の未来、誰だって気になるだろう。
こんな機会があれば聞いてみるもんだ。
【そうですね。これから色々、異世界の事について説明されて面倒臭かったから、大体は聞き流したと言っていました】
「おい、俺大丈夫か……」
【それと、いつか魅力的な奥さんと、可愛い双子の男女の子供が──】
そこで夢の時間は終わった。
俺は、ここでの出来事は何一つ覚えていない。
最後に見せた、彼女の微笑みも。