31話 自称上級者様の意見を聞いたバランス(崩壊)
私──フリンの数日前の記憶から始まる。
いつも通りに優雅に暇を持て余していた、有能リトルプリンセスフリンの昼下がり。
いや、持て余していたのではない、暇を支配していたのだから暇を用いていたとでも言うべきか。
さすが私である。
そんな事より、某狩りゲーを遊びながら、真剣に異世界の事を考えていた。
私にも何か出来る事があるのではないかと──。
そう、モンスターを狩る人達の意見でも、面白可笑しく聞いてみようと思い立つ!
この世界で冒険者と呼ばれるハンター達、彼らが集まる冒険者ギルドへ耳を傾ける。
盗撮映像の如くウインドウ越しから聞こえてくる、不満の声。
『いや~、俺クラスになるとさ~。もうこの辺りじゃ敵無しなんだよね。あの伝説の、巨大猪だって追い返したくらいだし』
『さすがっす! ランク10熟練冒険者さんぱねぇっす!』
木製特大ジョッキで泡立つ液体を飲みつつ、そんな会話をする冒険者2人。
──ふむ、エーデルランドに足りないものはこれです!
早速、冒険者達が求めるものを配置することにした。
* * * * * * * *
──数日後。
『うぎゃああああ!? なんでこんな所にドラゴンがああああ!?』
『この平和な世の中にドラゴンなんてありえないだろ!?』
阿鼻叫喚、盛り上がってくれて大変嬉しい。
町の付近に配置したドラゴンを、冒険者総出で討伐しようとするも、お前が行けよお前が行けよじゃあお前が、という状態で誰も近寄れなかった。
──あれ? もしかして強すぎた?
と、その時、先代勇者であるリバーサイド=リングが冒険者ギルドの要請に応えて参上して、ドラゴンを軽々と倒してしまったのだ。
──その後の冒険者ギルドでの会話。
『い、いや~、俺クラスになるとさ~。ドラゴン程度じゃ本気を見せるか迷ったんだよね。誰も持ってない知識とか、ピンチの時に発動する能力とか内密にしておかないとさ~……』
『さすがっす! ランク10熟練冒険者さんぱねぇっす!』
またあの冒険者2人。
バランス調整というモノは難しい……。
次こそは、この冒険者達を満足させるモンスターを配置しよう。
困った私は、眞国の知恵を借りることにした。
そんなわけでお隣宅の眞国部屋へ直行。
別に、彼が真面目に学校へ行き始めた後の様子を見に来たわけではない。
決して、そんな事は無い。
「というわけで眞国! モンスターをハンターする相手をハンターしたいです!」
「え、ええと……意訳すると、強い敵を考えて欲しいって事だよね?」
眞国は異世界の事も知らないし、そこらへんはゲームの話としてはぐらかしてある。
「モンスターをハンターすると言えば、これかな」
眞国が持ってきた一冊の本。
そこに写っていた物は、何か緑色のデカイ車だった。
「竜退治が飽きられたなら、やっぱり戦車でしょ。ついでにエルフも狩れるし」
「なるほど……こんなモンスターが……」
「え、モンスターなの? それじゃあ猫の野良バスみたいに、これにも猫耳をつけて──」
* * * * * * * *
「どやっ!」
私の異世界運営の手腕に感服し、映司は声も出ないようだ。
──ふふ、私も成長しているのですよ。
「フリン、お前の回想長いからってフェリは食べ物探しに行ってしまったぞ」
「え~」
「とりあえず……だ」
何故か頭を抱える映司。
「ドラゴンとか配置するのは止めなさい。また異世界序列下がっちゃうから……」
「でもでも、冒険者さん達はもっと強いのと戦いたいって……」
「大抵は自分が気持ち良く勝てるのとだけ戦いたくて、自分が負けたら文句を言い出すから聞かなくていいと思うんだ」
よくわからない、謎の心理を説かれてしまった。
「えーっと、それじゃあ今日配置したのを最後に止めておきますです……」
「もしかして、さっき言ってた戦車を──」
その時、フェリが食べ歩きから返ってきた。
背後に巨大な物体を引き連れて。
「エイジ、これ食えるか? 途中で拾った」
「いや~、10式戦車は食えないと思うぞ」
にゃ~んと、震えた声で鳴く緑色のクルマ。
てっぺんに付いた猫耳が不安げにしょげている。
「フリン、一応聞いておくが……モンスターはこれだけだよな?」
ぎこちない笑顔を向けられた。
私は、それに満面の笑みで答える。
「ベルグ提案のモンスターも配置しておいたです!」
唐突に響く地鳴り。
遠方から山と見間違うくらいの物体が進撃してくる。




