28話 名探偵シィ(頭脳は魔術師、服装はアイドル)
光沢のある赤い可愛い屋根に、真っ白な壁の一軒家。
家全体が木の継ぎ接ぎを集めたような凝った外観。
当時、立地的に良かったから選んだので、個人的な趣味とかではない。
さてと……どうしたものか。
僕がシィ=ルヴァーだとバレたら非常に面倒臭い事になる。
王国からの手配は、盗んだ物を一つ以外返還して取り消してもらった。
まぁ、実際は魔術を目の前で見せての脅迫に近かったが。
そこからほとぼりが冷めない内に、僕の家で殺人事件。
しかも、本人が捕縛者であるリバーと一緒に仲良く到着。
これでは、あらぬ疑いをかけられても仕方が無い。
僕だけならまだしも、リバーに迷惑がかかるかもしれない……。
どうしようか……。
でも、嘘を吐いても後が面倒だし、正直にいってしまうという手も。
「あれ、そちらの御方……どこかで……。失礼ですが、もしかして魔術師シィ=ルヴ──」
まずい、兵士が僕の事を勘ぐってきている。
手配書か何かで特徴が伝わっているのだろうか。
いや、ここに住んでいる時、地元兵士に一度挨拶したような気も……。
仕方ない、やはりここは正直に──。
「いやいや、待つんだ」
リバーの助け船。
もしかして、僕の事をかばって──。
「名は知らぬが、オレの大切な仲間だ!」
「そうでしたか。確かに、呪われし魔術師と呼ばれているシィ=ルヴァーが、そんなに可愛い服を着た方のはずはないですよね」
……リバー、本気で言っているのだろうか。
結構な日数、一緒にいるのに名前を知らないとか。
だけど、僕は『若人』としか呼ばれていない気がする。
いや、それよりも、この感じ……本当の事を言い出せない雰囲気。
今、正体がバレたら──無駄に可愛い服を着る趣味を持つ、呪われし魔術師シィ=ルヴァーとして噂が広まってしまう。
さすがに憤死物だ。
「さてと、ギルドで事情は聞いた。このリバーサイド=リングに任せたまえ! 中に入れないのだろう……それなら扉を! 壁をぶち壊すのみ!」
やめろぉおおおお! 僕の家を破壊して入る事しか考えが浮かばないのか──この脳みそ爆発物野郎があああ!
……くうっ、口を出しては目立ってしまうが仕方が無い。
「ちょっと待つんだリバー」
「どうした、若人よ」
名前を知らないから、若人呼びという悲しい現実……だが、これはこれで好都合か。
「これは魔術師の家、つまり魔術師の僕に任せて欲しい」
「ふむ……一理ある」
僕は、適当にそれっぽい仕草で家を調査するフリをする。
うろ覚えだが、家の事は大体わかってはいる……。
「これは、凄まじく強力な魔術師の家らしい。素晴らしい結界が施されている」
「ふむ?」
「わかりやすく言うと、魔力に反応する結界を家の外壁に張り巡らせて、外からの魔術をシャットアウトしている。入り口の扉は本人の魔術をキーとする物。それらが直前にかけ直されたり、破られた形跡もないから──」
何となく、それっぽく指を突き出すポーズをしてみる。
「外部から魔術的干渉は受けていない! 物理的なものだけで、中の殺人は行われたという事だ! ちなみに内部からは物理的な鍵操作だけで開け閉めできるらしい!」
「おぉ~」
兵士達から歓声があがる。
ふふ……決まったか。
ちょっと格好良かったのかもしれない。
「何か可愛いぞあの子」
「可愛いな……」
「さすがは勇者のPTだ。可愛いし賢い」
……そっち方面で見られていたの。
急に恥ずかしくなってきた。
慣れてない事にプルプルと身体が震え、顔を赤面させてしまう。
い、いけない。
話を進めなければ──。
「ていっ」
パリンとガラスの割れる音。
──はっ?
「よし、入れるようになったぞ!」
窓ガラスを割って中へ進入するリバーの姿が目に入った。
「あああああああ!?」
「ど、どうした若人よ」
透明度の高い対魔ガラスは高価なんだぞおおおお!?
それに飛び散ったガラス片とか誰が掃除すると思ってるんだよこのやろおおおお!
「い、いや……魔術師の家だし、兵士さん達がそうしなかったのもね。その、危険な事が起きるかもしれないと思っての……ね」
「ははは! 大丈夫! オレはブレイブマンだ!」
そうか、こういう奴だった。
やばい……中の研究機材まで壊されては取り返しが付かない。
それだけはまずい。
「お、怪しげな装置が置かれているぞ。壊しておくか」
やめてえええええええ!?
「勇者殿、現場検証もあるので……まずは中から鍵を開けて欲しいのですが」
ナイス兵士!
実は言うと、僕だけが使える魔術をキー代わりにして開くんだけどな!
そして中からかける鍵が物理的なものなのは、その魔術を二回使うのが面倒になったから!
あれ、でも……それじゃあ……。
何か忘れている気がする。
「おー、すまんすまん」
中から鍵が開けられた後、兵士達数人が入って調査が開始された。
出入り口は正面の扉一つ。
部屋の中は物色された形跡有り。
死体は背がかなり低く、腐乱によって男女か不明だが、身につけていた物は高級品が多い。
死因は不明。
「この死体がシィ=ルヴァーならつじつまが合うんじゃないか? 密室だが、事故か自殺か何かで」
「いえ、魔術師シィ=ルヴァーはもう少し背が高かったらしいです。傷跡等の詳しい特徴は、極度の引きこもりだったらしく不明ですが……」
あー、そういえば、魔術を極め始めた頃から物を食べなくても平気になって、引きこもり研究生活に没頭していたっけ……。
たまに外出する時も、フードを超目深に被ったり……。
「密室、謎の死体、魔術師シィ=ルヴァー……これはもうお手上げかもしれないですな」
「う、うん。そう! こんな無駄な事に労力を使わず、もっとモンスター退治とか健全な事をした方がいいって!」
目一杯の同意をしておく。
このまま事件が流れれば僕的には解決だ!
「ちょっと待った!」
どこからか聞こえてくる声。
「この異世界何でも屋こと、尾頭映司に任せてもらおうか!」
「ここの料理は美味いと聞いて駆け付けた」
げぇっ!
尾頭映司とフェンリル!?




