26話 辿り着いた桃源郷(手錠)
勝利者……そう、俺は勝ったんだ。
この長く険しい巨人族の試練に打ち勝ち、真の勇者となる資格を得た。
普通の野郎共には為し得ない権利。
「く……くくく。ふふははは!」
この遥か高み、自然と笑いが漏れてしまう。
「エイジ殿、公共の場ではお静かに」
「あ、はい。すみません」
ベルグと一緒に立つこの場所、それは伝説の混浴というエルドラドの脱衣所だ。
ここと、戸一枚隔てた空間に待っている。
乳! 尻! 太股!
おっと、いかんいかん……。
混浴だとは知らずに入った風体を装わねば。
あくまでクールに、悪魔のように偽るんだ。
チェック。
服は脱いでいる。
フリン対策に腰にタオルも巻いている。
表情もシュッと、シュッとだ!
自然に……江河に広がる大自然の水墨画のように、何もかも達観した自然体。
ラッキースケベの神よ、力をお貸し下さい。
俺は、戸に手をかけた。
──いざっ!
勢いよくスライドする楽園への扉。
その先に見えたモノは──。
「あえ?」
男、男、男、お婆ちゃん、男、おばちゃん、男、お婆ちゃん。
うら若き女性はいなかった。
「どうした、エイジ殿?」
全裸にヘルメットのベルグが横に立ち、フルチンで聞いてくる。
俺もそれに問い掛ける。
「ここ、混浴だよね?」
「うむ」
「混浴って、女の子と一緒に入れる温泉だよね?」
「うーむ……どうやら若い女性には不人気のようで、結局は男湯みたいな感じになってしまっているのだ」
「しょんなぁ……」
俺は力無く倒れ込んだ。
いや、でもそうなると女性陣はどこへ……。
「ちなみにオタル達は、普通に女湯へ行ったから安心するのだ」
絶望の中、とりあえず身体を洗ってから湯船に浸かることにした。
残念な事は残念だが、目の前に温泉があるのだ。
とりあえず、入らなければいけないと日本男児の血が言っている。
途中、おばちゃんと目が合って、照れながら視線を逸らされてしまった。
「死にたい……」
「どうしたエイジ殿、何か悩みでもあるのか?」
結局、ベルグと仲良く並んで湯船に浸かっているのであった。
「フェリの素肌を見られるかなーと思ってて……」
「なんだ、そんな事か。それなら、代わりに我の素顔を見せてやろうではないか! エイジ殿のお望みなので、特別にな!」
「……いや、出来れば女の子のですね」
ベルグは、謎の煙を出しながらヘルメットを複雑に稼働させ、ハゲ頭だと思われたパーツが割れて素顔が現れた。
そこにいたのは、艦長や、司令官という肩書きが似合いそうなフサフサ美中年であった。
無駄に顔が整っていて、瞳がキラッキラしている。
「ベルグ、中身は意外とイケメンなんだな」
「ふむ、これをイケメンというのか……。我としては威厳がいまいち足りぬ。厳つさがもっと欲しい所だな」
何だろうこの雰囲気。
ホモルートにでも入ってしまうのだろうか。
何か不思議とドキドキしてき──。
いや、違う。
視界の隅に映っていたのだ。
「あ、エイジ様。偶然ですね。偶然、ぐ~ぜん混浴でお会いしましたね」
バスタオルすら付けていない、一糸まとわぬ姿のオタルが混浴内に入ってきていた。
さすがに吹き出しそうになった後、慌てて目を逸らした。
中学生くらいでまだ小さいとはいえ、女の子の裸というのは、ちょっと色々とまずいと思うのであった。
あからさまに見せつけられているので、湯煙ガードや謎の自然光が無い今は描写すら危うい。
「お、オタルさんんんん!? ど、どどどどどぉおおしてここに!?」
凄まじく冷静に、オタルに向かって問い掛けた。
大丈夫、誰から見ても冷静だ。
「ふふ。エイジ様も、結局は胸以外もちゃんと見てるじゃないですか」
あ、ああああああかん。
いいいい色々とあかん。
ききっきいいいんきゅう自体だ!
俺はとっさに転移陣を空中に作りだし、それに向かって飛び込んだ。
座標は──この辺りを適当に指定した。
「あ、逃げられちゃった」
……ふとオタルは、周りから集まる視線に気が付く。
「う……」
急に恥ずかしくなり、表情は自信満々のドヤ顔から180度変わり、残念な涙目に。
軽いパニック状態に陥り、とっさに真っ赤な顔を両手で隠した。
──ベルグから、そっと手渡されるコスプレマスク。
* * * * * * * *
「ふぅ、危なかったぜ……フリンに顔向け出来ない所だった」
「私にです?」
何故か聞こえてくるフリンの声。
これ、どこに転移したんだろう……?
「映司お兄ちゃん、ここ女湯なんだけど……」
木桶を構える全裸の風璃。
小さい頃と変わらず、いつも通りぺったんこである。
「エイジ、これは悪戯ではなく犯罪だ。罰しなければならない」
フェリ……嗚呼、ボリューミーな二つの……。
「ウボァッ!?」
お目当てのフェリを視界に入れた瞬間、俺は神殺しのエーテルに吹き飛ばされて成層圏近くまで上昇していた。
そして、全裸のまま街の中へ落下した。
──その後、警官に捕まっていた所を、オタルが事情を話して何とかしてくれた。
何故か手にベルグのコスプレマスクを持ち、その顔は真っ赤だった。
* * * * * * * *
後日。
家の女性陣の誤解も解こうとしたが、なかなか機嫌が直らずで、家での風呂の時間は手錠が装着される事となった。
ちなみに、あのスパ的な物も機械部分を魔法でアレンジし、エーデルランドに取り入れられた。
アミューズメントパークの如く繁盛し、異世界序列の順位に貢献してくれた。
【異世界エーデルランド】
【現在、異世界序列53381位→50121位】
【名所獲得:巨人式混浴温泉】
とある巨人の国発祥とされる温泉。
特徴としては、ジムや球技場等の施設があり、食事も巨人式の娯楽性が高いものとなっている。
過去に覗きが発生した時は、防犯装置によって犯人は即逮捕されたという話もあり、セキュリティは万全であるらしい。




