20話 ハッピーエンドへのサインポスト(2)
私──フリンは地球にきて、しばらくした後に彼と出会った。
彼は小学生で、映司のお隣さんのサラリーマン家庭の息子だった。
映司達がいない平日の日中など、色々とお世話になっている。
名前は眞国。ちょっと変な響きではあるが、性格などは至って普通。
学校での成績は優秀……いや、優秀すぎたらしい。
全ての教科において飛び抜けてナンバーワン。
よく少女マンガに出てくる完璧王子様のようなスペックだった。
だが、性格は普通。
そんな普通な彼が、天才的なスペックを持ったらどうなるか。
答えは、眞国が平日の日中に家にいる事で、既に出ている。
優秀な人間は、優秀な性格まで求められる。
優秀な性格とは何か?
「だああああああああああ!! このクソゲーぶっ壊してやるです!!」
「お、落ち着いて!」
百回近く繰り返した、理不尽な攻撃によるゲームオーバー地獄。
運良く難所を抜けても、増えて行く敵と、無常にそれを打ち砕く一発のドット弾。
そして、また時間をかけてのやり直しだ。
「このトーヘンボク円盤に足を舐めさせてやるんです!! 真上からバキって! バキッテエエエエ!!」
「何か言葉遣いまで変になってるよ!?」
風璃のアレや、オタルの毒舌の影響かも知れない。
そうだ、眞国の言うとおりいったん落ち着こう……。
「ふぅ~、ふぅ~っ」
獣の威嚇の如く鼻息が出てくる。
「どーぅ、どーぅ」
眞国も、それに合わせてか調教師みたいな落ち着かせ方である。
これはいけない……神としての威厳が。
何とかせねば!
「ま、まぁ茶番はここまでにしておきましょう。私には腹案があります」
「あ、それ政治家が言うフラグ……」
ぐぬぬ、何も考えていないのがバレてしまった。
ここは……困った時の……。
「ちょっとトイレ!」
* * * * * * * *
「というわけで、ユグドラシルお願いです!」
トイレの個室の中で浮かぶウインドウ。
映るのは困り顔のオペレーター。
『えーっと、ゲームがクリア出来ないから助けて欲しいと……』
「うん!」
『そうですね……ゲームの改造等というものは容易いですが……』
「出来るんです!?」
『それではゲームに対して失礼になります。クリア出来るゲームなら、改造せずにクリアするのが良いでしょう。私もそのゲームクリアしましたし』
意外とプレイされてるんだ、このゲーム……。
『ですが、フリン様にとっては少し時代が違うのかもしれませんね。分かりました、ゲームの難易度はいじらない程度に異世界バージョンアップしましょうか』
「やったー!」
* * * * * * * *
「フリンちゃん、何かゲームが……」
部屋に戻った私は、恐ろしい光景を目の当たりにした。
ゲームオーバー画面で放置していたのだが、その場面で倒れている主人公がモニターの外に出ている。
まるで実在の人間のようにリアル……。
「え、えーっと、思い出した。これインターネット経由で自動バージョンアップしたんです……裸眼3Dってやつです」
「そ、そうなんだ」
部屋の中心に、吐血しながら『弾を避けるんだ……』と言い続ける主人公。
異様な状態である。
もしかして、ユグドラシルは見た目だけいじったのだろうか。
年齢制限がさらに上がりそうだ。
ちょっと引き気味だった私に、眞国は冷静な顔を向けてきた。
「フリンちゃん、僕考えてみたんだ」
「どうしたです?」
「このゲームのクリア方法を」
もうあれだけ敵の弾を突破出来ないと試したのに、まだ何か手があるのだろうか?
「ちょっと僕にプレイさせて」
そう言うと、眞国はコントローラーを持ちゲームをスタートさせた。
あの地獄のアクションクソゲーの方を。
主人公に必要最低限の動きをさせて、その場からほとんど動かずに弾だけを避けている。
スタート地点なので、敵が一体のみで攻撃をしのぐことは出来ている。
だが、その先はどうするのか。
「眞国、このままじゃタイムアップになっちゃうよ」
「物事を攻略すると言う事は、多様性と洗練性だと思うんだ。僕達はまだ簡単な事を試していなかった」
とても小学生とは思えないような言葉遣いで進めていく。
「この減って行く数字──ゼロになったらタイムアップとは、どこにも関連付けるワードは出てきていない。アクションゲームという枠組みの錯覚に囚われていたんだ」
数字が減り続け、ついにはゼロになった。
「こ、これは……」
その瞬間、画面外から他のキャラらしきドットが現れた。
そして『助けに来たぞ!』の文字が表示されてステージクリアーとなった。
「後は簡単、制作者達の姿がゲームから透けて見えてくる」
そこからはトライアンドエラーの繰り返しだった。
アドベンチャーモードの理不尽な選択肢によるBADENDと、アクションモードによるトンチじみた開発者との知恵比べ。
だが、前と違って無理ゲーというものではなかった。
やっていけば何とかなるという、着実に進めていけるゲームとなった。
「眞国、すごいです! ハイスペックです!」
「すごい、か。学校じゃ、その言葉は気持ち悪いとしか意味を成さなかったかな……」
眞国は顔をうつむけて、ぽつりぽつりと語り始めた。
その表情は、私には分からない。
「テストで百点が続いた時はカンニングかと疑われ、百メートル走のタイムでは奇異の目で見られた」
何故かは分からないが──私はその言葉を聞いていて、耐えられなかった。
そして自然と感情的な、大きな声を出したい衝動が溢れてくる。
もしかしたら、これは映司の影響かも知れない。
「私は……、ッ私は! 良いと思ったものは称賛し、駄目だと思ったものは全力で止めてあげます! だから──」
私は、うつむいていた眞国の顔をグッと掴み、無理やり真っ正面に向かせた。
ほぼ密着状態で対面する2人、眞国の瞳には私が映っていた。
「眞国がつまらない事でめげているのを止めさせます! 死んでも眞国を元気にしてみせます!」
「う、うわわっ!? ちょっとフリンちゃん!?」
顔を真っ赤にする眞国。
そういえば気が付いたが、吐息すら感じてしまう距離で力説しているのだ。
あと少しでも近付いてしまえば──。
「ひゃああっ!?」
私自身も驚いて、そのまま飛び退くように距離を離してしまう。
赤面し、お互いに背中を向けてしまう2人。
「も、もしかしてフリンちゃん。今日も僕を元気づけようと……?」
「そ、そんな事ないですよ……。本当に暇だっただけです……」
ゲームはその後も続き、BADENDを数十パターンは見せられた。
だが、それらを乗り越えての──最高のHAPPYENDが待っていた。
「僕、BADENDも好きになったかも。これがあるから幸せが分かるんだなって」
「リアルにBADENDは勘弁です!」
私は家に帰った後、ゲームを持ち出した事がバレてBADENDを迎え……そうになったが、ユグドラシルから『神年齢と人年齢は基準が違うので』とフォローが入ってNORMALENDとなった。




