19話 ハッピーエンドへのサインポスト(1)
「こんにちは! フリンです!」
現在、平日の日中。
私は1人寂しく、風璃の部屋でクマの人形と遊んでいた。
「こんにちはだ、フリン! 俺クマっちは胸の大きな女にしか興味が無いんだ!」
ちょっと声のトーンを落として、自分でクマ役を演じてみる。
セリフに片寄りがある気もするが、参考にした人物がアレだからだろうか?
……さすがに1時間近くこれをやっているので飽きてきた。
「暇です……」
この間、手に入れた異世界アダイベルグも、意外とオタルという女の子が優秀で運営には問題がなかった。
というか、優秀すぎて異世界序列も駆け上がっている。
それに比例するかのように、我がエーデルランドも順位を爆走である。
フェン……じゃなかった、フェリを撃退したという話が広がり、別の異世界からの襲撃にも鮮やかな対処という評価が拡散されたのだ。
確かに神の天敵である狼を人的被害無しで追い返し、それを仕掛けてきた異世界を吸収したのだ。
それくらい評価が上がってもおかしくはなかった。
と、ここで普通なら私も忙しくなるはずだった。
だが、あの時から実質的な力は使えなくなっているし、運営やトラブル対処に関しても映司とオタルがバリバリとこなしてくれている。
そんなこんなで、平日の日中は映司も風璃も学校という所に行っていて居ないし、フェリも散歩がてらの食い歩きで家を空けている事が多い。
たまに帰ってきたと思ったら『イギリスを滅ぼしてくる』とか言い出す始末。
あの国でよっぽど何か不味いモノを食べたらしい。
というわけで、現在は暇で暇で仕方が無い。
「何かゲームでもやろうかな……」
棚を漁り、薄っぺらい円盤に記録されているゲームという楽しい物を探す。
……探すが、1人で遊ぶものはどれもクリア済みだった。
残っているのは、年齢制限がついたものだ。
1度、やってみようとしたところで映司に止められた。
そこに書いてある年齢に達していない状態でプレイすると、白と黒の馬車に乗った世界の理に囚われると。
罪人の証であるというシルバーのブレスレットも見せてくれた。
何か分からないが、とてつもなく恐ろしくなり1人でトイレに行けなかったくらいだ……。
「はっ、そうだ!」
私は、ゴッドなナイスアイディアを思い付いた。
「1人の年齢でダメなら、2人の年齢を合計してプレイすればいいんです!」
我ながら会心の答えである(※注、ダメです)。
* * * * * * * *
「というわけで、今日はこのゲームを一緒に遊ぼうです! 眞国!」
「フリン、このゲームってオトナじゃないと遊んじゃいけないんじゃ」
善は急げと言う事で、お隣さん家の同い年くらいの男の子──眞国の部屋に転がり込んだのであった。
本当は小学校というところにいっている時間らしいが、最近は休みがちだとか何とか。
非常に都合の良い事だ!
「1人の年齢でダメなら、2人の年齢を合計してプレイすればいいんです!」
「な、なるほど……」
やはりこの理論には一分の隙もない……。
「プレイボックスUはあるです?」
「あ、うん。そこに」
「じゃあ、この『蒼穹の捨て犬ナイトなマギカの謎』をセット! 暴力的な描写があり12歳以上が対象っと……2人ならオーケーです!」
「何かタイトル長くない?」
「それだけボリュームがあるって事ですよ、たぶん」
パッケージ絵は、可愛い格好の魔法少女達や、格好良いヒーロー達が描かれている。
これは楽しそう、期待が持てる!
「では、すいっちょん!」
電源ボタンを押すも、自動ではゲーム自体始まらないので地味にコントローラーで操作して開始させる。
このちょっと待たせる間も堪らない。
地球のゲームとは素晴らしいものだ。
ましてや、このゲーム機は最新機種。
きっと素晴らしく美麗なグラフィックで、実写と見間違う程のワクワクをもたらしてくれるだろう。
禁止されていたモノを手に取る誘惑……禁断の果実の味……ああ、神よ許し給え。
「フリンちゃん、このゲームバグってない?」
「えへへ……きっとバーチャルでリアリティなゲームが……アレ? 何か画面がカクカクしてる」
モニターに映ったのはタイトル画面。
だが、それを構成するのは小さい四角の点々だった。
「あ、もしかして……。これ聞いた事ある。ドットってやつだ」
「ど、ドットとは何です?」
「古いゲームで使われた手法らしいよ」
「なるほど……」
そういう物なのか。
それならとりあえず遊んでみよう、と思いスタートボタンをポチッと押す。
使用色が異常に少ないドット画面で、かろうじて人と分かるようなプレイヤーキャラが画面中央に立つ。
「えーっと……色から推測するに、パッケージ絵の主役っぽいですね」
「あ、フリンちゃん。横から弾が飛んできて……死んじゃった」
「……え? 一発で死んじゃうんです?」
チープな爆発音。
人体って爆発するのだろうか。
残り2機と出たので、クローン人間とかロボットの類かもしれない。
だが、異常な程の弾の速度で全ての残機を失いゲームオーバー。
その瞬間、ドット画面から切り替わって妙にリアルな死亡画面が映った。
『め、冥界道場~。げふっ、ごっふぁ!』
「うわ……」
リアルにアニメーションし、口から吐血をしている。
血の質感はドットの時とは違い、ネットリとした赤黒い液体表現もばっちりだ。
どこに制作費をかけているのだろうか。
『弾は……避けろ』
そう言い終わるとガクッと力無く動かなくなってしまった。
タイトル画面へ戻る。
「これクソゲーってやつじゃ」
「クソゲーですね」
電源を切ってディスクをへし折りたくなる衝動が襲ってくるも、タイトルにアドベンチャーモードというのがあるのを発見して、グッと思い留まった。
「こっちにしてみますです」
カーソルを合わせてスタートボタン。
ドットから、綺麗な2Dグラフィックのアニメっぽい絵へと変わった。
プロローグが始まり、世界観などが説明される。
「ええと、危険にさらされてる少年少女達を助けていく内容みたいです」
「選択肢を選んでいくだけみたいだから、さっきみたいに死んでゲームオーバーは無さそう。きっとそう」
私と眞国は、ワクワクしながら最初の選択肢へと辿り着いた。
何か白く可愛い小動物と出会うシーン。
『僕と契約して魔法少年になって、みんなを助けよう!』
「つまり、パワーアップしてちゃっちゃと助けると……もちろんイエスで!」
『契約完了。あ、一戦すると魂電池を消費して死んじゃうから』
BADEND。
画面全てがモザイクかかっている状態で死んでいる主人公。
「……」
「……」
無言でリセットし、選択肢の場面までやり直す。
『僕と契約して魔法少年になって、みんなを助け──』
「……いいえ、で」
『うわぁ、変身してない身体で戦うから、横から飛んできた弾にやられちゃった。こいつぁミンチより酷いや』
BADEND。
画面には『くっ、アクションゲームで弾を避けてクリアしていれば……』と表示されている。
私と眞国は無言になった。
真顔のまま、タイトル画面へ戻ってアクションクソゲーをスタートさせた。
最初の地点では敵が一体だが、進めば進む程に数が多くなり難易度が上がる。
そして立ち止まっていようものなら、カウントダウンされる数字が重圧をかけてくる。
──三時間後。
「フリンちゃん、何か僕BADENDが快感になってきちゃったかもしれない」
「気を確かにもつのです……」
本当の地獄はここからだ。




