17話 貴公の首は柱に吊されるのがお似合いだ(パパパパパゥヮードドン)
俺、フェリ、フリン、風璃での朝食。
材料は、風璃がコンビニで買ってきておいてくれたパンやソーセージなどだ。
フェリは、俺がソーセージを焼くのを物珍しそうに見詰めている。
そして、焼き上がったソーセージに眼が釘付けだ。
「焼きたてで熱いけど、食べたい?」
コクコクと首を上下させて反応してくる。
「どうぞ」
皿を差し出すと、フォークでツプッと刺して口へ運ぶ。
フェリの満足げな表情。
平和だ……。
「ねぇ、エイジ」
「パンか? トーストなら、もうちょっと待ってくれ」
「これ食べ終わったら、ちょっと異世界滅ぼしてくる!」
あまり平和じゃなかった。
フェリがいくら脳筋気味といえど、何か事情があるのだろう。
俺達は朝食を食べながら説明を聞いた。
「ワタシを騙した鉄巨人が納める異世界をね、滅ぼしてくるだけだよ?」
内容としてはこうだった。
フェリが偶然立ち寄った異世界序列最下位──アダイベルグという場所。
そこは食べ物が不味くて不味くて不味くて……という話が延々と続いた。
とにかく、ペースト状の味無し食料が配給されている世界だったらしい。
そこで異世界の主、鉄巨人ベルグに聞いた。
もっと美味しい食べ物は無いのか? と。
そこで返ってきた答えは『エーデルランドの食料は余って余って仕方なく、誰か食べきってくれる奴はいないかと探していた。ただ、あそこの住人は喜ぶときの感情の表現が荒っぽいから気にするな』……と言うもの。
「ええと、フェリ。それを信じたのか?」
「うん」
何という純粋さ、何という脳みそまでマッスル。
幼女であるフリンより何かが足りない気がする。
「こ、今度からは俺も一緒に判断してやるから、何かあったら話すんだぞ」
「う~ん。だって昔、あんな事があったのに、またワタシを悪意で騙す相手なんていないと思ってたんだもん。悪戯とかの楽しい嘘は家族柄、好きな感じだけど……」
──あんな事ってなんだ、あんな事って。
昔、何かをやらかしたのか。
フリンと風璃は、朝食を食べながら聞いているがどん引きの表情である。
まぁ常識的に考えれば、色々とそうなるよな。
「フェリちゃん、その異世界にも金目の物があるだろうし、ピンポイントでベルグっていうのだけぶっ殺さないと……」
「それに滅ぼしちゃったら、代わりの食糧その他も強奪できませんです!」
……どうやら、滅ぼすという以外は賛成らしい二人。
俺がどん引きである。
「あ、あのお二人。さすがに異世界に攻め込むっていうのはまずいんじゃ」
最後のストッパーである俺。
頑張るんだ、ザ・常識人。
「映司お兄ちゃんがいない間、色々と調べてたの。そしたら、エーデルランドと入れ替わりになった異世界序列最下位から──」
「フェリが送り込まれてるのを突き止めたんです! つまり、今回の異世界アダイベルグがそれです!」
なるほど。
上位への妨害行為、考えてはいたが実際にやる奴がいたのか。
それで再び俺達を引きずり下ろして、自分達の異世界の価値を上げる。
「というわけで、反撃してもいいと思うんです!」
「えーっと、マジ?」
「マジです!」
何か色々と面倒な事が起きそうである。
そういうのは平気なのだろうか……。
「ゆ、ユグドラシルさんに怒られたりはしないのかな? うん、きっと怒られるよね」
「卑劣な手段に対する報復は、細かい事は気にしなくていいんです、ってお墨付きをもらっていますです! デス! Death!」
何かフリンがヒートアップしている。
テンションで語尾がおかしくなっている……。
俺は、はぁ……と溜息を吐くしかなかった。
もうこの流れはアレだ、やるしかない流れだ。
せめて、舵取りだけはうまくしてやらないと、再び滅亡オチみたいになってしまう……。
「わかった、作戦を立てる」
* * * * * * * *
ここは異世界アダイベルグなり。
そして我は、主である鉄巨人ベルグ。
自分で言うのも何だが、非常に住みやすく良い世界だ。
ケイ素生物である我々とは相容れない、不潔な緑や生物を排除して、矮小な人間達も管理して生かしてやっている。
住むための家も与えてやっているし、繁殖も抑制して、食べ物も合成ペーストを一種類与えている。
なのに、ここまでやっているのに……なぜか万年、異世界序列で最下位だった。
最近では、我の思考をコピーした機械兵達を配置して、暴れる人間共を処理してやっているというのに……。
全ての人類は管理され、治安も完璧ではないか。
また見せしめで数百人を公開処刑した方がいいだろうか?
いや、さすがにやりすぎて人口が減ってきてしまっているか。
またある程度繁殖させんといかんな。
「おい、オタルよ。お前は繁殖したいか?」
「……ベルグ様のお望みとあらば」
この女──オタルは人間の滑稽さを忘れぬために身辺に置いている。
我に対して柔順で逆らえない人間。
確か生まれてから14年だったか。
ここ、帝都の中央コントロールセンターに連れてきたのは5歳くらいの時だった。
その時からこの柔順な性格。
正に人間代表という所だ。
この美しい金属によって構築された中央コントロールセンター。
そして帝都をぐるりと囲む80を越える鉄の要塞群。
そこに駐留する我のコピー達数十万体──その支配者たる我に直接仕える幸運故だろうか。
ああ、この異世界アダイベルグは素晴らしい。
すべて異世界序列の方が間違っているのだ。
「ベルグ様。人間達が食について不満を申しております」
「なんと、まだ満足せぬのか……。そうだな、食は視覚も重要と聞く。ペーストを青く変えてやろう」
「さすがです、ベルグ様」
我を褒め称えるオタル。
人間達全員が、このように素直なら問題が起きぬと言うのに。
「さしあたってベルグ様、私の食事の事ですが……」
「申せ、お前は我に仕える価値ある存在なのだからな」
「このようなベルグ様考案のペーストを施して貰っては、もったいのう御座います。私程度の虫けらには、おぞましい牛の死体の肉を、ハーブという雑草で香り付けして、汚らしい海から取れた天然の高級塩と、舌に苦痛を与え一年に300キロしか収穫されないドライライプ・ブラックペッパーで十分に御座います」
オタルは忠義心故か、早口で一気に捲し立てた。
我は信じられなかった。
どんな贅沢も許される立場にいるはずなのに、この恐ろしい程の謙虚さ。
「本当にそんな粗末な食でいいのか……? 何なら一足先に青ペーストを試食させてやって──」
「いえ、ベルグ様の御身に近付けるだけで、既に身に余る光栄。他の部分でさもしい思いでもせねば、この身が張り裂けそうに……」
「オタル……お前……」
思わず目頭を押さえ、眼からオイルが流れてしまわないようにするのに精一杯だった。
「なので、食事の件は絶対厳守したいと思います。あ、水分補給としてはどす黒い植物を握り潰したぶどうジュースという物で。似たようなアルコールが入っているワインという物はダメです。濃縮還元は無しで、ストレート果汁100%でオーケーですから。ちなみにメーカーは──」
いつも、妙に注文が細かいのは気のせいだろう。
こんな拷問のような食を、我の近くにいる幸せと釣り合いと取るために体内に入れようとしているのだ。
我が飲む超高純度オイルを勧めたときも、同じ様な理由で断っていた。
「聞いていますか? オイルぎたぎた頭のベルグ様」
「ん? オイルぎたぎたとは?」
「えーっと、人間用語で言うところの、超高純度オイルが似合う渋い鉄巨人ナンバーワンという意味で御座います」
人間達がよく使う、イケメンという奴だろうか。
まいったな、生物にまで美を褒め称えられるとは……。
「オイルぎたぎたのゲーハー頭、と組み合わせると更にランクがアップするようです」
「くく、存分に褒め称えるが良いぞ。外装の良さでは巨人の王にも引けを取らぬと自負しておるからな!」
我の磨き抜かれた、光り輝くヘッドパーツ──やはり毎日手入れしているかいがあるというものだ。
「そうですね、今日も木偶の坊っぷりが凛々しいです」
「フハハ! 確かそれも最高の賛辞だったな!」
「はい、人間用語で流行っているらしいです」
──だが、そんな日常は一瞬で壊された。
鳴り響く警報、状況を伝えるモニターには爆発が映る。
「な、何事だ!?」
「この帝都中央コントロールセンター以外の人間が消滅させられたようです。広範囲にエーテルの痕跡があるため、何者かの攻撃の可能性があります」
「つまり……対エーテル障壁が稼働しているここ以外の人間共が……」
一瞬の事で理解出来なかった。
世界規模の魔法を使うなど、よほど上級の神や巨人でもないと有り得ない。
少なくとも我には到達出来ない境地。
「それと同時に、帝都周辺の要塞群が破壊されています。一つの要塞につき数秒のペースで」
「な、何か通信系のミスでは……?」
「いたる所から、巨大な狼が超高速で移動しているデータが観測されています」
狼? どうしてそんなバケモノがここに。
その時、出入り口として使われている分厚い鉄扉が弾け飛んだ。
「あんたがここのボス、ベルグだな」
そこには、恐ろしい程のエーテルをほとばしらせた、目つきの悪い黒髪の少年が立っていた。
「貴公の首は柱に吊されるのがお似合いだ!」
訳の分からない事を言い放たれた。




