2話 ネット通販は神の間でも届く(送料無料)
さすがに気付いてしまった。
いくら最新のCGでも、アップにして凝視すれば本物か偽物か分かる。
それにこの異様な空間や、地球での途切れた記憶。
いくつかが組み合わさり、現状の答えを導き出す。
「あ、あの……幼女様……もしかして本当に神様なんですか?」
「最初からいっておるではないかです」
自慢げに答えられたが、微妙に口調が安定していない。
実は数百歳のロリババアでした! とかではなく、本当に幼女っぽい知性しか感じられない。
その幼女知性体によって、異世界の大地は蹂躙され尽くされ、どう見ても絶滅の危機を迎えていた。
「ちょーっと一般人には理解しがたい状況なので、説明を頼めるでしょうか幼女様」
「幼女様、幼女様って……私はフリンって名前があります!」
幼女の名前が不倫。
ひどい組み合わせだ……。
とか口に出したら地球まで破壊されそうなので黙っておくべきだろう。
幼女と不倫とか口に出しても、警察が急行してきそうな勢いだ。
いや、そもそも俺は同年代の高校生くらいの娘が好きだ。
幼女の扱いには慣れているが、それは妹の小さい時からの経験故だ。
「あ、それで説明ですね! 説明!」
「はい、お願いします。フリン……ちゃん? いや、神様だからフリン様?」
「勇者と神の仲じゃ! 特別にフリンと呼び捨てでいいですよ!」
「う、うっす」
そういえば、俺は何故か勇者扱いか。
「先日、おじいさまから神権を受け取ったのです」
「親権? フリンの権利的な?」
「神の権利です! ひらたくいうと、この異世界エーデルランドを滅びぬように導く存在……管理者たる神として、呼び出した勇者と、世界樹ユグドラシルをフル活用して……えーっと、がんばる感じです」
いきなりわからない用語が出てきた。
「世界樹ユグドラシルとは何ですか?」
「何だろう……何か……便利な……ええと……ユグドラシルに聞いてみて!」
ぶん投げた! 説明をぶん投げた!
幼女様の知能やべぇ!
「それじゃあ、直接話すんで手段をお願いします」
「こう、頭の中でユグドラシルに呼びかけると……」
フリンが一瞬目を瞑ると、次の瞬間に不思議な声が響いた。
『はい、こちらユグドラシルオペレーターです』
俺にも聞こえるという事は、スピーカー的なものがどこかについているのだろうか。
「あ、すみません。突然フリンに呼び出された尾頭映司です。色々と情報不足なので説明を頼めますでしょうか?」
『わかりました。状況を確認するので、そのまま少々お待ちください』
何か意外と丁寧な対応だ。
綺麗な女性声だし、どこかのサポートセンターとやりとりしている感じがする。
これ、電話代とかはどちら持ちなのだろうか。
フリン持ちだとしたら、ちょっと悪い気もする。
いや、そもそも電話なのかこれ。
遠い昔にあったらしいダイヤルQ2的なものとは違うよな。
『お待たせしました。まず、ユグドラシルとは……お客様の文明で言うところのコンピューターみたいなものですね。規模は全ての世界の全空間に見えない根を張っています。原初の白き神と黒き神がお造りになったそれを、巫女であるオペレーター達が手となり口となり──』
「はぁ、なるほど」
なるほど、さっぱり分からん。
だが、話が進まないので先へ行こう。
「それで、この異世界に勇者として呼ばれたらしいのですが、俺はどうすればいいのでしょうか?」
『そうですね……基本的にはそこを管理する神、今はフリン様ですね。その頼みを聞くのがいいでしょう。大体の神は、その世界を滅ぼさずに安定、向上させていく事が目的ですが』
ふむ、つまりフリンをサポートするのが勇者という事か。
俺がすべきこと……まずはフリンに異世界の何たるかを教えなければならないだろう。
「オペレーターさん、ここまで地球のネット通販って届きますか?」
ダメ元で神世界の超パワーに頼ってみる。
『はい、その程度の権限はフリン様なら可能です』
……マジかよ。
本当に頼めるならクレカか代引きか。
フリンはクレカ持ってなさそうだし、多少の手数料はかかるが代引きにしよう。
「では、これから言う本をお願いします」
異世界を救うための本、あれしかないだろう。
* * * * * * * *
「なにこれ! おもしろーい!」
1080円と代引き手数料を支払い、異世界へ転移する内容のラノベを手に入れた。
ちなみに送料は無料だ。
さすが大手ネット通販。
「それを参考にして異世界を立て直せばいいんじゃないかな」
我ながら無責任な発言である。
だが、このまま幼女様の無垢なる傍若無人パワーに振り回されたら、勇者である俺への鬱展開の連続だろう。
このまま半壊した異世界へ送り込まれて、何とかしてね~的な事で放置されたら詰みだ。
「この、ステータスってなに?」
「人間の強さを数値化した物……ええと、その数字が多ければ多いほど強い! という感じ」
「へ~、じゃあ。勇者さんのもそれっぽくしちゃおう! ユグドラシル、これみたいなのお願いします」
ユグドラシル酷使されてんな~。
まぁ大体は思惑通りだ。
フリンに渡したのは、ステータスがある異世界チートハーレムハッピーエンド物。
幼女相手なので、流血とか性描写とかは皆無なものをチョイスした。
俺も血とか苦手だし、無責任に異世界で性行為をしても責任を取れる自信が無い。
「おず……えいじ。これが勇者さんの名前なんですね。その下にあるステータス……」
空中に浮き出たステータスはこうだ。
尾頭映司。人間。17歳。
職業:勇者LV1。
スキル:巻き込まれ体質
HP:5
MP:0
筋力:2
器用:2
頑強:1
俊敏:2
知性:5
精神:5
CHR:30
「映司、何か地味ですね」
「うん、自分でもビックリ」
正直へこんだ。
一般人を数値化してしまうと、割とこんな感じなのだろう。
知性と精神が少しだけ高いが、日本の教育のたまものだろう。
この突出しているCHRってなんだっけ……洋ゲーとかで見た事あるけど。
「よし、ステータスも作った事ですし、映司は異世界へ旅立って──」
「ちょ、ちょーっと待ってフリン! このまま異世界へ放り出されたら野犬に襲われて死んじゃうレベルだから!」
「え~、じゃあ次はどうすればいいんです~?」
明らかに不満そうな顔をしてくるフリン。
やばい、幼女様やばい。
まともに話していては命がいくらあっても足りない。
数千年かけて世界を平和にしました、みたいな超大作になってしまう。
「そ、その本にも書いてある通り、主人公を強化すれば楽になる!」
「あ、チートってやつですね! よろしい! 数値アップをポチポチ……」
フリンは、上マークな矢印がついているボタンを連打し始めた。
最初は嫌々ながらというのも残っていたらしいが、段々とリズミカルに楽しく押し始めた。
幼女様は単調な反復行動がお好きなのだろう。
リズムというより、もうビートを刻むという勢いになってきている。
「あれ、99で止まっちゃった」
「あ~、カンストってやつかもしれない」
「ユグドラシル、もっと押したいです!」
カウンターストップすら解除し、幼女様はひたすらボタンを連打する。
一心不乱、狂気の所業。
俺のステータスは三桁を突破し、四桁。
「あ、これテープで固定したら楽かも知れないです!」
酷い神様を見た。