16話 センタク(ヒテイ)
「ところで映司、何で勝負とか続けてたんです?」
「うっ」
フリンが痛いところを突いてくる。
とてもじゃないがフリンの前で言える事ではない。
いくら俺でも、幼女に対しての配慮だけは持っている。
「エイジは、ワタシに勝ったら一夜を共にしたいって言って……」
「フェリぃー!?」
幼女の前でなんてことをぶちまけやがるんだ……。
いかん、これはいかん。
ああああどうしようどうしよう。
「この尻尾が暖かそうだから、きょうだい達にもよく一緒に寝てくれと言われたものだ」
「なるほどです。確かにモフモフしてて一緒に寝たいです!」
セェェフ。
「映司お兄ちゃん、ちょっと後で話が」
ソッと風璃が耳元囁き、ゾッと殺気が首元に伝わる。
アゥアゥ!
「ええと、自己紹介がまだでしたね。あたしは尾頭映司の妹で、尾頭風璃です」
「私はフリン! 異世界エーデルランドの神です! ゴッドです!」
軽くお辞儀をする風璃と、えっへんとふんぞり返るフリン。
それに返礼するように頭を下げるフェリ。
「ワタシは……フェリという名前になったらしい。あまりかしこまらないでもらいたい……悪名だけが一人歩きしてしまっているが、戦いは好まないから……」
「そっか。じゃあフェリちゃん、よろしくね!」
恐るべき妹のコミュ力。
俺も見習わなければいけない。
「もう夜も遅いし、今日は寝て明日色々話そうか」
「ふぁ~い」
「フリン、今日は風璃の部屋で寝なさい」
俺はニッコリと言い放った。
その顔はきっと菩薩様もびっくりの慈愛に満ちた笑顔だろう。
風璃が阿修羅の如く顔で睨んでくるが……許せ! 男にはやらなければいけない時があるのだ!
「あ、エイジ。一夜を共にするのは良いが、ワタシは寝相が悪いぞ?」
「大丈夫! がんばる!」
「……なにを?」
そりゃ、朝ちゅんコースですよ!
俺は、フェリと一緒に部屋へと消えた。
* * * * * * * *
朝が来たチュンチュン。
スズメさんが言っている。
太陽さんが眩しい笑顔で言っている。
ああ、朝がきたんだ。
「映司お兄ちゃん、いい加減起きなよ……朝ご飯冷めちゃう……よ……」
……はは、風璃の声が聞こえる。
俺の部屋のドアが開かれる。
普通なら、風璃の目にはお色気シーンが飛び込んできて──。
「ぎゃーーー!?」
黄色い悲鳴だろう。
だが、今聞こえているのは絶叫。
たぶん、関節が変な方向へ曲がりまくって、部屋の隅に泡を吹きながら転がっている物体を目撃したからだろう。
具体的には俺という存在である。
いつの間にかベッドはフェリに占領されて、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきている。
「やぁ……我が妹よ……。ちょっと両手両足が脱臼していて動けないんだ……ヘルプ」
「ふ、フリンちゃん来ちゃダメ! これは15歳以下には見せられない! というかあたしも15歳以下だから見たくない! グロい意味で!」
とりあえず助けてくれないかなマジで……。
まさか寝相が悪いとは言っていたけど、近付いた瞬間──全身の関節を外した上で部屋の隅へポイされるとは思わなかった……。
童貞を捨てるには、もっとたくましくならなきゃいけないんだな。
* * * * * * * *
ポイッと転移陣に投げ込まれ、ちょっとしたエクソシストのアレみたいな間接のおかしい格好で異世界に転がった。
辺りに人の気配は無く、木々の擦れる音だけが聞こえてくる。
ここは適当に指定した林の中。
「傷を癒せ、ヒール」
魔力を身体のダメージ部分へ送り込み、脱臼すらも治してしまう無茶苦茶な回復魔法。
本当は骨を入れる時はすごい痛いが、ヒールはそんなもの微塵も無い。
これを地球で治そうとすると地獄の苦しみを味わうことになっただろう。
ありがとう異世界。
ありがとう魔法。
試しに手足を動かすが、問題無く平常時の体調だ。
……それにしても、昨日と今日で随分と力について思い知らされた。
星1つ滅ぼすほどのチート能力を得たと思ったら、そんなもの丸っきり効かないフェリが現れたのだ。
この分だと、まだまだ強い奴がいそうだ。
もっと強くなる必要があるかもしれない。
主に、フェリの寝相に勝利して童貞を捨てるために!
困った時のユグドラシルだ……早速聞いてみよう。
頭の中でユグドラシルのオペレーターである巫女に呼びかける。
『はい。ユグドラシルオペレーターです。いかがなされましたか?』
「強くなる方法を教えて欲しいんです」
『そちらの状況はモニターさせて頂いてますが、それはフェリ様以上の力を持ちたいという事でよろしいでしょうか?』
「そうですね、それくらいの力です」
うーん、と考え込むオペレーター。
それは珍しかった。
万能のユグドラシルの意思をただ伝える役割であるはずの存在が、返答を悩むという意味。
「もしかして、無理ですか?」
『いえ……映司様なら可能な事は可能ですが……』
歯切れ悪く、言葉に詰まり詰まりになってしまっている。
ユグドラシルとしては答えを提示しているが、人間としての巫女が伝えるべきか悩んでいるのだろうか。
『具体的には3つあります』
「3つ?」
『1つ目は、地道に数十年、数百年と人間としての力を伸ばしていく事です。可能性は低いですが、フェリ様を越える事も有り得ます』
さすがに気が長すぎる話だ。
しかも、それだけやっても十分に力が付くか分からない。
『二つ目は、フリン様の加護の力を高める事です。方法は様々ですが、異世界序列を上げるのが一番手っ取り早いと思います』
なるほど、俺が持っているチートをさらに強める方向か。
これは今の目的とも合っているし、自然と高まっていく感じでいいかもしれない。
『三つ目は……あまりお勧め出来ません』
「聞くだけ聞いてみたいので、話してもらえませんか?」
『……主神オーディンのように、ミーミルの泉に対価を捧げ力を得る方法です。今や映司様の価値は計り知れないものとなっています。それを捧げれば……』
異世界運営に関わったから──フリンの信頼を得たから、同時に俺の価値も高まったという意味でいいのだろうか。
俺株が暴騰しているわけだ。
そして、その俺が何かを生贄に捧げれば……。
『それに、フェリ様とは相反する存在になってしまいます。もし、親睦を深めるためなら、それは──』
「心配してくれてありがとうございます」
普段は、ただの役割として従事してくれているオペレーターさん。
だけど今日は何だか、相手の心が見えたような気がした。
『……いえ、こちらにとってもお得意様ですから』
「大丈夫、強さのために何かを犠牲にしたりはしませんから。……でも片眼くらいなら……なんてね」
『力への渇望というものは底知れません。もっと大切なモノを対価として捧げてしまう方も多いんです』
「なるほど……フリンを悲しませるような事は避けないとなぁ」
いつか、俺も力のために……眼以上に大切な何かを捨てても良いと思う時がくるのだろうか。
それはせめて、恋人や子供が出来た時にしたいものだ。
【スキル更新】
【シンカ:消費コスト──アナタノタイセツナモノ】




