156話 必滅せし魂響の神槍(オウズグングニル)
俺の中に力が溢れてくる。
ランドグリーズが死者の館を制御して、その中に存在するエインヘリヤルとなった亡者の魂達。
数は──異世界序列全滅までに殺した数と同程度。
俺の罪の数。
その憎しみは俺に罰すら与えることが出来ず、力を貸すエインヘリヤルへ。
今は背負った重さに崩れ落ちる事はしない。
俺が死んだ時に、身体でも魂でも持っていけば良い。
それまでは使わせてもらう。
この事で後悔するって言ったんだろう、ランドグリーズ。
でも、お前のおかげで進める──。
進むよ──、誰も罰せない……最後の罪化段階へ。
「これでお前に見合う主神になったか? 『必中せし魂響の神槍』」
『そうじゃな、お前の魂の半分が戻り、単純にキャパシティは倍になった。さらにエインヘリヤル全ての力を受け取り、そのエーテルは今や歴代オーディンの中でも飛び抜けておる』
「そうか、じゃあ──」
俺は自分へ突き刺していた神槍を、さらに深く深く。
「俺自身を、お前に──生贄として捧げる」
『ワシ自身を、お前に──生贄として捧げる』
循環するエーテル。
円二つが溶け合い、無限となるように。
神槍は俺に、俺は神槍に。
お互いの全てを極限まで引き出す。
ヒトの形をした、もっとも純粋なエーテルに近い存在。
「贈り物の鎧のデザイン、格好良いな」
それは昔、白き神と呼ばれたモノの姿に似ているらしい。
『オウズよ、絶対防御障壁が開くぞ』
「ああ、優しき軍神の行為は無駄にしない。これまでの主神達の遺志、継がせてもらう」
開かれた眼前には死してなお、藍綬を守っているテュール。
それをひたすら切りつけていたヴィーザル。
「何故だ! 何故どかない!」
醜い声をあげている、黒き加護の元英雄。
それに向かって言ってやる。
「──良いぜ、ヴィーザル。代わりに教えてやるよ」
「ようやく戻ってきたか映司ィ……」
「それは自分を生贄に捧げても何かを守りたいという意思。いつの時代も主神が持つべきものだ」
俺は、ヴィーザルに向かって一歩。
「な、なんだその姿は!? そのエーテルは!?」
本能だろうか、奴が後ずさる姿が見える。
「俺の大切な家族二人が遺してくれたモノだ」
俺の今の姿──。
前の黄金色の鎧では無く、戦乙女の清らかなる意思のような、全身白銀。
アクセントで蒼──いや、深い親愛を感じさせるような藍色が舞っている。
それは、とても白く藍く美しく、まるで夜空を裂くオーロラを集めたような──贈り物の全身神器。
戦乙女と恋乙女──二人の少女の想いが詰まった鎧。
「ヴィーザル、一撃だ。一撃でお前を倒す」
俺がその意思を持つ限り、絶対に負けはしない。
倒れている藍綬と、軍神の遺体を一瞬で元の世界へ転移させる。
ユグドラシルの制約も、今はカミを破るより容易い。
「く、くはは! フェンリルに負けるはずのオーディンが何を言う! 私は、私はフェンリルを倒せる唯一最強の大神ヴィーザルだぞ!」
「人々の希望ではなく、絶望を力とするお前は──俺と同類だ」
「元人間の……偶然選ばれただけの貴様が戯言をォォーーッ!!! 映司ィーーーッ!!!」
ヴィーザルは先ほど放ってきた、必殺の跳び蹴りの準備に入った。
全てのエーテルを足先に集めている。
『クカカッ。のう、オウズよ。お前は偶然選ばれたらしいぞい?』
「ん? 違うのか?」
俺も足先にエーテルを集め始める。
『あのダーツは初代オーディンのグングニル。そして、密かに設定されていた必中対象は、地球で一番強い素質を持つ者』
「……それで俺が選ばれるのはおかしくないか? だって、お隣にはすげぇ強い雷神トールが昔から住んでいて──」
『最初から必然だったかもしれないのぉ。雷神より強い素質を持つお主が、生贄に捧げた半分の魂を取り戻した今、それが証明されたのじゃ』
俺とヴィーザル、両者は限界までエーテルを高め終わった。
「最初から、そうか。最初からグングニルに選ばれていたのか」
『それはそうとオウズよ、気になったのじゃが。今はもうお主と神器一体になった、グングニルを超えたグングニル。別の呼び方が欲しいのじゃ』
「そうか、それなら──」
即興で考えた、新たなる名を伝えた。
「──なんてどうだ?」
俺の提案に、元『必中せし魂響の神槍』はやれやれと言った風に返してきた。
『相変わらず名前のセンスはないのぉ』
「ああ、まったくだ」
いつものように、しょうがないと思いながら──地を蹴った。
高く高く飛び上がり、同じようにこちらを見据えているヴィーザルに向かって、左目に藍いエーテルを迸らせながら、不敵に笑みを浮かべてやる──。
「異世界序列のために……いや、女の子のために本気出す!」
──互いに必殺、放つ。
「──絶対勝利、ただ其れだけの為、黒き終焉を打ち貫く楔と成れ。四人目の主神の名において──我放つ──」
「──絶対破滅、ただ其れだけの為、白き目覚めを踏み付け礎とせよ。終焉狼の殺し手の名において──我放つ──」
俺は疑似空間を──三千次元も切り裂きながら進んだ。
新たな宇宙を創り出しながらの光景は、まるで夜空のオーロラ、少女の願いを込めた流れ星。
その力を、新たなる名の全身神器によってぶつける。
「──『必滅せし魂響の神槍』!!」
「──『蹂躙せし黄昏の跫音』!!」
光と闇が混ざり合い、疑似エーデルランドは──疑似異世界序列は消滅した。
* * * * * * * *
勝負は終わった。
疑似世界の外は、さっきまでの戦いが嘘のようにエーデルランドが残っていた。
ちょっとだけ、全壊の罪悪感から住人達には目を合わせにくいが……。
「映司! おかえりです!」
出迎えてくれたフリン。
無傷の俺は、ボロボロで意識もエーテルも無いヴィーザルを蹴り転がした。
そして、俺を選んでくれた、小さな二代目フレイヤに向かって──。
「ただいま、フリン」




