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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック
最終章 主神が消えた日

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152話 別れの挨拶(レシピメモ)

 再びエーデルランド──俺、尾頭映司は呆気にとられていた。

 ヴィーザルはそれ以上の衝撃を受けているようだ。


「ヴィーザル、どう? この人間──呪われし魔術師によって(たばか)られた気分は?」

「まさか、お前が……お前如きがこれを? 私の策を打ち破ったというのか……」


 動揺しているヴィーザルの意識が、種明かしを行おうとするシィに向けられた。

 これが最初で最後のチャンスだ。

 気を逸らすやり方は二度目だが、完全敗北させたと思わせてからの天丼。


 無敵の黒き加護を突破されている、今の心理的な揺れ幅は最大級──それは神であれ、精神を持つ者ならどうしても影響が出るはずである。

 それに俺達と違って、ヴィーザルには心を許せるような本当の仲間はいない。

 客観的な視点を得られない時ほど、付け入りやすい時はない。


 俺は、俺の作業に集中する。

 後はシィに任せた。

 神々を翻弄する真のトリックスター、預言の巫女に。


「以前のわたし──呪われし魔女のままなら、未来が視えていてもどうする事も出来なかったでしょうね。止めるための人脈が無かったわけだし」


 運命を変えるような行動も出来なかったため、というのは俺に注意を向けさせないために言わなかったのだろう。


「なるほどな……いつの間にか霧の巨人の王(スリュム)や、異世界序列を作りし時の魔術師(クロノス)とも関係を持っていた訳か」

「ええ、そうよ」


 確か家をたまり場として、遊びをカモフラージュに何やら色々やっていた気がする。

 非常に迷惑だった。

 お前の家でやれ──と言いたいが、フェリが全焼させてしまったので言うに言えないという地獄のような状態。


「ヴィーザルが視ていたのは三度目の巫女の予言まで。その時のわたしと随分違って油断していたかしら?」

「だが、ガルムは始末したはず……いや、そうか。私は、ランドグリーズとテュールに頼んだ、確かそうだった」


 ヴィーザルの視線は、ばつが悪そうなテュールへ。


「すまん。孫が一人で決着を付けたいと言ったので、先に帰って最後は確認していない」


 爺さんというのは孫に甘いのがデフォなのだろうか……。


「貴様ランドグリーズ! 最初からこのヴィーザルを裏切るつもりで予言の巫女とも通じていたのか!!」


 結果的に二重スパイというやつだったのだ。


『最初から理解してるんだよ、あたし達はそういう関係だってな。だから面白そうにかき混ぜただけさ』


 おおっと、視線が、注意がこちらの黄金鎧──ランドグリーズへ向いている。

 一端、作業を中断。


「でも、まさかお隣の眞国(まぐに)パパ──(とおる)さんが雷神だったとは気が付かなかったよ。シィ、さすがだな」


 話題をシィに擦り付ける。


「え、ええ。まぁ、あれはクロノスが勝手に引き入れただけっぽいけど、あんなエースカードが紛れていたとはね。もういっそのこと、ジョーカーとしてロキでも来てくれないかしら」

「く、くくく……それはないな」


 ヴィーザルは何か知っているような反応だ。

 だが、注意は()らせた。


「さてと、わたし──シィ=ルヴァーがやった事を説明していきましょうか」


 おさらい、まとめ。

 それで時間を稼いでくれるらしい。


「まずは──」


 三度目の巫女の予言を知って変えられない運命に絶望していた。

 そこへ尾頭映司が現れてから、大きく運命が分岐した。

 何故か一部の制限を残して、自由に行動が出来るようになった。


 行った最後の未来観測──四度目の巫女の予言の後に、すぐにソレを親機ごと封印。

 シィしか知らない未来が誕生した。

 それへの対策を立体映像で録画して、何とかなるように人脈を築いていく。


 といっても、時間が進むにつれて強制力の高い事柄の一部……ほんの一部を除いては尾頭映司とヴィーザルが未来を改変しまくってしまったために、完璧な対策とまではいかなかった。


 後はこのエーデルランドの異変が起こる前に、スリュム達には直接指示しておいて配置。尾頭映司には計画がうまく進むようにギリギリで録画映像が伝わるように。

 異変後は、人死にを極力避ける事によってフリンとフェリの心が壊れる事を避ける。

 同時に、適度に人間が抗うことによって希望を抱かせ、人間への好感度アップを狙う。


 疑似天使の行動パターンの一つ。ヴィーザルの到着時刻に合わせるために、進軍速度を相手に合わせられてしまうというのも理由だ。

 下手に逃げ回っても進軍速度が上がるだけで、結局はぶつかり合う時間があまり変わらない。

 ようするにジワジワなぶり殺して恐怖を与えるために、人間は舐めプレイされていたのだ。


 それを逆手にとっての地形利用での完全無血防戦。

 割と死者が出るのを覚悟していたが、連れて来たドヴェルグ達が思った以上に優秀だったらしい。

 ここまでは特にアクシデントも無く……まぁ、冒険者が暴走して突っ込んだアクシデント程度で済んだ。


 ──でも、そこからが問題だった。

 最後の鍵となる、尾頭映司への転移座標送信を、転移陣にビーコンのように打ち込む方法。

 自らを生贄にして成し得る、人工的なミーミルの泉のようなやり方で成し遂げようとしていた。


 だが、転移陣の揺らぎによる時間指定や、反射魔法による実行プログラムには相手側の強力なエーテルが必要と非常にシビアだった。

 時間指定に合わせて上級疑似天使のエーテルで実行しようとするも、相手のエーテルが弱すぎたために失敗。

 魔力切れを起こして死にそうになった所を、予定よりかなり早く到着したヴィーザル達に助けられるという皮肉。


 そこからは、最後のチャンスであるヴィーザルの攻撃を利用して、エーテルを改変、出来たビーコンを巨大転移陣へ打ち込んで、向こう側で待機していた尾頭映司へと知らせたのだ。


「なるほどな……最後のカウンター、あれは外したのでは無く、狙い通り転移陣へと打ち込んでいたというのか」

「そういう事よ、ヴィーザル。あなたは数ヶ月前……予言していたわたしに、その時から負けていたのよ」

「ふ、ふはは……どうやら本当に見くびっていたようだ。呪われし魔術師……いや、予言の巫女(シィ=ルヴァー)! お前は優秀すぎる! やはり殺しておこう!」


 黒い殺意を込めたヴィーザルの視線。

 それは見つめた者を確実に殺すという意思表示。


「ヴィーザル、残念だがもうそれは無理だ」

「何だと映司!?」


 俺の視界の隅に、転移によって消えかかっているシィが見える。


「じゃーね、神様達。人間によってグッチャグチャにされた後は、そっちで最後を締めくくるのが神話ってもんでしょ?」

「こ、これはどういう事だ!? ──エーデルランド中が!?」

「あ、それと尾頭映司──いえ、四人目の主神(ラストオーディン)。この先の未来は既に観測できない程に混沌としている。でも、わたしは予言する」


 いつになく真剣なシィの表情。


「女難の相──あんまり女の子を泣かせるんじゃないわよ」


 最も神々を混乱させた少女は、転移によって姿を消した。


「それ、予言か……?」


 予言というより、アドバイスというか、占いの1コーナーのようだと突っ込みたかったが間に合わなかった。




「映司……キミはいつの間にこんな大規模な転移を」


 何度も意表を突かれたヴィーザルは若干、顔に疲れが出ていた。


「そりゃ、シィが場をかき回している最中に、疑似エーデルランドの生命全てをターゲットしておいて、順次転移させていっただけだ」

「く、くくく……何度、私は巫女の予言に振り回されればいいのだろうか」

「さてと、この周辺以外は既に転移完了させてある。ここらも合図一つですぐ転移だ。──だが、お前と俺だけはここに残る。意味は分かるな?」

「は、ははは……ッ! 実に分かりやすい。最後の別れになるだろう、多少は待っててやる!」


 さすがに逆の立場を考えたら、少しだけ同情してしまう精神への揺さぶり方だろう。

 冷静さを失っている時は、ですます口調が消えている。

 いやぁ、悪いことはするもんじゃないなと思う。




「あ、オタル。もう起きても良いぞ」


 すっかりと忘れていた、狸寝入りをしている機械の少女に話しかけた。

 すると、首だけをこちらに向けてきた。


「あの、映司様。辛うじて平気なだけで、身体自体はそんなに動きませんから……」

「頑丈なボディに感謝だな」

「ええ、まぁ……。ベルグが骨格だけは、映司様から渡されていた金属(ミスリル)にしておくと譲らなくて。これが無かったらバラバラでしたね。──というか、いつから私がこんな身体だと気が付いていたのですか?」


 注意して見れば、穴の空いた胴体から金属の骨が覗いているのがわかる。

 でも、それ以前に──。


「俺とお前の仲だ、それくらい分かってたさ」

「え、映司様……! そんなに私の事を!」


 前、黙ってスリュムに完全擬態した時のリアクションからで、その後も徐々に気が付いていき──とかは言えない。

 無断での完全擬態なんて絶対に怒られる。

 ただでさえ、これが無事に済んだらもう一つ怒られそうな事を頼まなければいけないのだから。


「風璃を支えてくれて感謝する。向こうで安心して待っていてくれ」

「……はい! はい、映司様! ご武運を!」


 オタルを本当のエーデルランドへと転移させた。

 消えるその瞬間まで、俺へ向けられていた飛びっ切りの笑顔が眩しかった、眩しすぎた。




「えーっと、リバーサイド=リング」


 ぶっ倒れたままの青年。

 うつぶせになって倒れているため、その表情は見えない。


「やはり、最後はお前が持っていくか」

「まぁな、シィと仲良くやれよ」

「ああ」


 その短いやり取りだけで、野郎同士というのは大体伝わる。

 男としては尊敬する先輩勇者を転移させる。




 さてと、残るは我が家の問題児三人。


「風璃、よく頑張ったな」

「ちゃんと見てくれていて、いつも最後には助けに来てくれる映司お兄ちゃんがいるんだから……しょうがないじゃない」


 当然よ、という声で返してくる。

 内心、信頼されすぎという感もあるが……。


「でも、映司お兄ちゃんはあたしが見ていない所だとすぐ無茶をする」

「そんな事はないぞ」


 ……そういえば、風璃にはまだ最初に捧げた左目の事は話してなかったな。

  

「いーえ! あたしも映司お兄ちゃんの妹なんだから、それくらい分かります! ……だから、もうそういう事をしないで、ちゃんと帰ってきてね。あ、もう一人のランちゃんもね!」

『うん……ありがとう風璃』


 答えるランドグリーズの声は、藍綬本人のような儚さだった。


 風璃は、今の状態をはっきりとは理解していないのか……。

 でも、立ち入って聞いてこないというのは、風璃なりの気遣いなのだろう。

 今はそれもありがたいが……同時に辛くもある。


「ああ、もう何も失うこと無く、事を終えたら二人で帰るよ」

「うん、待ってる。……待ってる、からね!」


 言葉とは裏腹に、風璃はどこか心配そうな表情だった。

 やはり、風璃にはお見通しなのだろう。

 そう思いながら転移させた。




「フリン……」


 泥だらけになった、白い法衣を着ている幼女──いや、もう少女と呼んだ方が良い顔つきだ。


「映司、私強くなったです! 立派に神器を使いこなす二代目フレイヤです! これでおじいさまにも胸を張って……」


 その両手は必要以上に強く握られていて、震えていた。

 その体勢は必死に背伸びをするように、強がっていた。


「フリン、強くなったな」


 俺はいたたまれなくなって、そのとても小さな身体を包み込むように抱きしめた。


「強くなったです……天国のおじいさま、おとうさま、おかあさまにも届くくらい強くなったです……」


 この幼い身体でどれほどの死を乗り越えてきたのだろう。

 きっとそれは俺にも想像が付かないくらいの辛さだろう。

 それでも出会ってから元気に振る舞えていたのは、たぶん家族から与えられていた愛情あっての事。


 でも──。


「強くたって、泣いても良いんだぞ」

「えいじ……えいじ……おじいさまが……おとうさまが、おかあさまが──」


 フリンは静かに泣いた。

 いつも元気なフリンは自分の事では泣かない。

 でも、前に珍しく泣いたときがあった。


 それは俺のため──俺が死んだと思われた時。

 俺は思う。

 フリンは元々、誰かのために泣くことの出来る強い子だと。


「大丈夫、後は俺に任せろ」

「で、でもヴィーザルはすごく強いですよ!」


 フリンは顔をあげて、心配そうな表情──鼻水と涙ですごい事になりながら言ってきた。

 俺は思わずそれを見て笑ってしまった。


「平気だ平気。この尾頭映司、お前が選んだ勇者なんだからな!」

「……そう、ですね! では、二代目フレイヤとして、正式に任命します。四人目のオーディンとして!」

「分かりました。俺の小さなフレイヤ」


 紅葉のように可愛い手の平を差し出される。

 俺は、それをそっと手に取り──。


「恥ずかしいです……」


 手の甲に口付けをした。

 暖かく、なめらかな白い肌。


「手だぞ、手。口でのファーストキスでもあるまいに」

「じゃあ、お返しです!」


 俺の体勢は低くなっていたために、フリンとも頭の高さが近くなっていた。

 頬に感じる柔らかい感触。


「可愛いキスだな」

「えへへ」


 もう涙一つ無い、俺がよく知る傾国幼女の悪びれもしない笑顔。


「あ、どうせフェリも言うと思いますが、帰ったらごちそうを作ってくださいです! みんなで一緒に食べましょう! なんたって映司の料理は世界一ですからね!」

「ああ、分かった」

「約束です!」

「約束だ」


 無邪気故に、一番辛い事を言わせていると気が付かないのだろう。

 内心、苦笑しながらフリンの転移を完了させた。




「フェリ、いつも鎖に繋がれてるな」


 その狼少女は憔悴していても、意思の光を黄金の瞳に宿している。


「そんなことより、お腹減った」


 聞き慣れた言葉、本当にいつものフェリだった。


「そうだ、フェリ。シィの家を覚えているか?」

「うん? ワタシが焼いちゃった所?」

「そう、あそこには地下室があるんだ。詳しくはシィに聞くと良い」


 何を言っているの? という表情をされてしまう。


「そこに俺の全レシピをメモっておいた。紙だけは余ってたからな、あそこ」

「あ、前に料理教えてくれるっていったやつだよね。でも、どうして……」

「ごめんな、フェリ」

「待ってエイジ! ワタシ言わなきゃ! ワタシは──」


 俺は──誰よりも愛している神殺しを転移させた。




「悪いなヴィーザル、待たせた」

「いえいえ。でも、フェリとの別れはあんなにあっさりで良かったのですか?」

「フェリとの約束を破ったら、その場で殺されてしまうからな」


 俺とヴィーザルは苦笑いした。


「さてと」

「それじゃあ」


 疑似エーデルランドには俺とヴィーザル、そして戦意を失っているように見えるテュールしかいない。

 つまり実質的に──。


 雌雄決する二人だけとなった。


 となれば、やることは一つだろう。


「映司、存分に(あい)し合いましょう」


 ヴィーザルの歪んだ愛、それは相手を殺すことでも達成出来るのだろう。


「ああ、ヴィーザル。本気を出して戦ってやるよ」

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