14話 絶対的化物(ワールドディザスター)
「よう、一緒に雑草食べない?」
それが狼少女と交わした最初の言葉だった。
不思議そうな顔をされてしまった。
だが、警戒はしていないようだ。
「いいの?」
「一緒に食べた方が美味くなるだろ」
「そうなんだ」
俺の手から1束受け取り、口へ運ぶ。
黙々と咀嚼。
眼を線のように細め、呻き声のようなものと一緒に飲み込んだ。
「にがぁい……」
「はは、そうだろそうだろ」
俺もパクリと一口。
苦いし、繊維質100%という感じで、食べ物としては適していない。
「なんでこれを食べてるの?」
狼少女がそんな疑問を投げかけてきた。
「他に食べる物が無かったから仕方なくな」
「あれ、もしかしてワタシのせい……? ごめんなさい」
……意外なほどにスッキリと非を認めてしまった。
実は良い子だったのか?
そう思うと、急に可愛く見えてきた。
黒に近い紺色の長い髪、しょんぼりと垂れてしまった狼耳、悪戯を叱られたような可愛い表情、伏し目がちな大きな金色の瞳。
そして、それに不釣り合いな巨大な胸が、ピッチリとした謎の素晴らしい素材の服のシルエットで丸わかりである。
琴線に来てしまった。
「ええと、つかぬ事をお伺いしますが……歳は16より上?」
「わ、ワタシ!? う、うん……」
「一夜を共にして頂けないでしょうか」
本心である。
もちろん、女性であれば誰にでも発情するわけではない。
眼を見ての直感。
あと、ちゃんと妙齢の女性でなければいけない。
胸が大きければ尚良し!
「あ、あの……そういう経験無いからご期待に添えないと思うんだけど……」
何を恥じているのか、照れくさそうに返してきた。
むしろ素晴らしいでは無いか。
そうでなかった場合でも一向に構わないが。
「俺は、君がいいんだ。そんな些細な事はどうでもいい」
「わかった」
何というすんなりとした展開。
これ何てエロゲー?
「ワタシと戦って勝てたら良いよ!」
一瞬にしてふくれ上がる、狼少女の膨大な魔力。
たぶん色として見えていたら、一瞬にして雲を貫き、空を染め、天を蹂躙しているだろう。
これ何て格ゲー……?
そんな時、助け船のようにフリンから通信が入る。
『あ、映司。今回の相手は主神クラスでさえ手を焼く相手だから、様子見だけして逃げてきてね。もっとも、人間の映司が敵対される事なんて、挑発でもしないとありえないけど』
フリンは、満腹になった後の杏仁豆腐を食べつつ映っていた。
「あのあの……もし敵対しちゃった場合はどうすれば?」
『映司の力は神の加護だから相性悪すぎ。相手の特性は神に対して超強力だから全力で逃げる事かな。まず逃げられないけど……モグモグ』
切れる通信。
俺の命の綱も切れる音が聞こえてきそうだった。
「さぁ、キミとワタシの勝負を始めようか!」
この狼少女、やる気満々である。
今ならまだ、ファイティング土下座でもすれば許してくれるだろうか。
意外と良い子みたいだし。
……いや、だめだ。
男としてダメだ。
雄として駄目だ!!
こんなに好みで可愛い女の子が目の前にいるのに、簡単に諦める事なんて出来るだろうか?
命を賭ける、漢になるには必要な事だろう。
それくらいのモノを犠牲に出来る覚悟がなくて、童貞が捨てられるか?
否ッ!
「ああ、始めようぜ」
俺は、心の底から沸き上がってくる闘志が表情に表れ、自然と笑みがこぼれていた。
身体は武者震い、頭は冷静に──祈るように戦闘へ没入させる。
「このカンスト突破のステータス、受けてみろ!」
相手が規格外のバケモノというのは全身全霊で体感している。
初っぱなから全力の攻撃を放つしかない。
この異世界エーデルランドを1度滅ぼした、全世界規模の魔力を凝縮させたバニッシュデイ。
それを一点集中で1人に使ったらどうなるか。
イメージを整合させ、さらに魔力を増幅させていく。
普段は影響しないはずが、今回だけは大気を振るわせ、潮流を思わせる空気の流れを作っている。
「へぇ、すごいエーテルだねキミ。……いや、こっちでは魔力っていうんだっけ」
狼少女は、嬉しそうに金の瞳を細めて、こちらを観察している。
どうやらこれを見ても余裕らしい。
それなら安心して全力攻撃できる。
そして、相手に合わせてのスパイスを一振り。
「いくぞ! 審判を下せ──バニッシュデイ!」
俺のチートじみた魔力が圧縮、凝縮、濃縮されて純粋な光のエネルギーとして発射される。
大気すら変質させ、視界をぐにゃりと歪ませた。
理を無視する魔法に影響されて、世界そのものを無視しているかのように。
「どれどれ」
狼少女は愉快そうな表情を浮かべ、ただ手の平を前につきだした。
片手で受け止めるつもりなのだろうか。
先ほど見せた自信と一致するモノだった。
だが、それで良い。
俺は読み勝った。
直進する極太の光は、急激に角度を変えて狼少女の斜め後方へ──。
刹那、鏡で跳ね返されたように狼少女の背中へ方向転換して直撃。
「やった!」
轟音──爆風で塵が舞い上がり、視界全てを覆う程の煙幕となった。
我ながら凄まじい威力だ。
晴れてくる視界に、巨大なクレーターが見えてくると実感が沸いてくる。
だが、あったのはそれだけはなかった。
「あの威力の魔法を2度も曲げるなんてすごいね」
砂埃で汚れてはいたが、無傷の狼少女。
「魔法を構築する時から、そうなるようにしておいた」
「キミ、もしかしてワタシの行動を読んでいたの?」
「ああ、絶対的強者の行動は読みやすいからな」
「いいね、そういうの好きだよ」
お手上げだ。
ガードをしていない背中に全力の一撃を当てたのに、こうやって余裕を持って立っている。
「神じゃなくて、悪魔や巨人の力だったらクリーンヒットだった。土壇場でこんなトリッキーな事が出来るって本当にすごいと思うよ」
褒められてはいるが、神の加護でカンスト突破ステータスしている俺は詰みという宣言でもある。
「どうする? 降参?」
そうだな、降参が良いだろう。
戦って勝てないのだ。
どうやっても無理なものを続けてどうする。
エーデルランドの問題としても、既に解決しているのだから。
このまま帰ろう。
無様に逃げ帰ろう。
いいじゃないか、俺らしい。
「そうだな──」
次の一言を言おうとした瞬間、砂埃が完全に晴れた。
あらわになる狼少女の身体。
砂埃で背徳的に汚され、立体感が800%増しになった大きな胸。
そう、それはおっぱいである。
視界からそれが吸収され、脳髄をぶん殴り、心と精神を滾らせた。
情熱、加熱、伝熱、身熱、赤熱、爆熱──熱血熱血熱血熱血熱血!!
俺の中の全てが燃え上がった。
「お前を諦める? そんな選択肢があるわけないじゃないか!」
──そんな言葉が勝手に出ていた。
だが、どうする。
正攻法では勝てない。
意表を突いても駄目だった。
ならば──。
「俺の家に来い──そこで勝負だ!」




