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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック
最終章 主神が消えた日

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143話 ただ一匹の最強(熾天使、相まみえる)

 透き通る黒い燐光が放射状に放たれ、前方の空間を支配する。

 それに包まれた疑似天使が炎上、地に墜ちる事無く燃え尽きる事で、それが初めて炎だと認識できる。

 世界の終わりに現れ、神々の黄昏の結末を飾る照影存在。


 全てを焼き尽くし、神秘世界を殺す裏切りの枝──黒き炎剣(レーヴァテイン)

 実物では無いが、威力と範囲はかなりのものだ。


「流石と言ったところかな~」


 ワタシは、それを仰ぎ見ながら地上──森の中を跳ぶように走っていた。

 射角的に、どうしても地上付近の疑似天使は撃ち漏らしてしまう。

 そのため、ワタシが密かにフォローする事にしたのだ。


「地上の敵は……50くらいかな。全箇所把握、いくよっと!」


 自らの身体にエーテルを巡らせ、面倒くさい現実のルール(ぶつりげんしょう)を無視する。

 稲妻の如くスピード近づき、眼前の見えていない目標を把握して、遮蔽物の大木ごとぶち抜く。

 相手は命の無い存在なので、躊躇無く首をへし折る。


「中級は脆いなぁ」


 頭と胴を引き千切り、その二つを投擲。

 砲弾となって別の疑似天使を粉砕する。

 投擲の方角からこちらの位置を割り出した疑似天使達は、上級疑似天使辺りが指揮をして、統率の取れた軍隊のように戦略を繰り出そうとしていた。


 基本である包囲、下級疑似天使達による特攻戦術、その上からの味方の犠牲を問わない範囲攻撃。

 周辺の数十が、こちらを殺そうと敵意を剥き出しだ。

 縄張りに入られた野犬達が、群れを成しているかのよう。


 だけど、こちらは一匹狼である。

 ただ一匹の、最強の狼。


「命無き存在に手加減は──しないよ」


 疑似権天使(プリンシパリティ)の時間魔法を頼りに、十体ほど防御を捨てて特攻してきた下級疑似天使達を一蹴。

 天上の階位に差がありすぎて、ワタシへの時間支配の秒針は届かない。


 大ぶりに回し蹴りを繰り出すようなフォームで、エーテルで作り出した手足の爪を振るう。

 出来損ないの天使達は触れる前に千切れ飛び、溶け、内部構造を曝け出す光景が視界を支配する。


「ほんと残念──」


 その場に叩き込まれる魔法弾──中級、上級天使達による熱量の嵐。


「──自分を弱者と分かってないんじゃ、ワタシ相手の戦略は立てられないよ」


 爆炎の中、何事も無かったかのようにゆっくりと歩く。

 全く手加減をしていないフェンリルという存在を理解していない。


「アハハッ!」


 遠くで撃っていた疑似能天使(エクスシア)に物理的距離を無視で一瞬にして取り付き、そのヘルムごと頭部を握り潰す。

 その横で茨の鞭を振るおうとしていた疑似力天使(ヴァーチャー)を、生えている薔薇の花と一緒に散らした、バラバラに。

 錫を持つ疑似主天使(ドミニオン)に至っては、動き出す前に首を噛み切った。


「次は上級と遊びたいなぁ」


 口元に付いた潤滑油を拭いながら、思わず笑みをこぼしてしまう。

 次の獲物を選ぼうとしていると、頭上から声が聞こえてきた。


「ちょ、ちょっとタイムです! 次の装填まで待つですよぉ!?」


 どうやらフリンは広範囲に黒き炎剣をまき散らしたが、上級疑似天使は倒しきれずに残ってしまったようだ。

 中途半端に手負いになった相手に迫られようとしていた。

 ワタシは丁度良いと思い、上空まで飛び上がる。

 魔法は使えないが、エーテルさえ使えれば何となく飛べたりは出来る。


「大半はさっきので倒したらしいし、残りの雑魚はワタシが引き受けるよ」


 フリンと、上級疑似天使の間に入る。

 相手は上級第一位──最強の神の使い疑似熾天使(セラフ)

 三対六枚の羽根をはためかせ、熾火のような真っ赤なエーテルを周囲に散らしている。

 それ以外はただの人間男性の外見に近い。


「私を雑魚と呼びますか? 終焉の狼よ」

「うん、雑魚。だって、あなたのコピー元の方が百倍強いんだもの」


 疑似天使は、元の天使達のコピー品だ。

 この疑似熾天使(セラフ)の場合は、最も有名な熾天使──いや、有名だった熾天使である彼をコピーしている。


「ほう、では実際に試して見てください」


 疑似熾天使(セラフ)は、文字が刻み込まれた短剣を構え、こちらに近付いてきた。

 ワタシは、ただそれを見つめていた。


聖なるかな(サンクトゥス)聖なるかな(サンクトゥス)聖なるかな(サンクトゥス)万軍の(ドミヌス デウス)主よ( サ バオ)天と地は(プレニ スントチエリ)あなたの( エトテル ラ)栄光に( グロリー)あまねく満ち渡る( ア トウア)


 歌が響き渡る。

 短剣自らが──信仰が歌っている。

 それを心地よさそうな表情で聴いていた疑似熾天使(セラフ)は、最後の数小節だけ自らの口を開いた。


「──天のいと高きところ救い給え(ホザンナ)


 短剣から派手にエーテルの炎が噴き出し、剣のような長さになる。

 そして、それでワタシを貫いた。


三聖頌(サンクトゥス)の刻まれた炎の短剣、これがあなたへの救いです」

「フェリ!?」


 フリンの悲鳴のような声が聞こえた。


「ん、だいじょーぶ」


 ワタシはそれに平然と応えた。


「なに……!?」


 驚く疑似熾天使(セラフ)は、手元をよく見ていないのだろうか。

 勝ち誇る前に、ワタシに当てているだけの炎の短剣とやらを観察していればよかったものを。


「地球にいた悪魔の……ええと、なんて言ったっけ。あ、明けの明星(ルシファー)だ! 本当の彼はもっと強かったよ?」


 薄すぎてワタシの身体まで届かない、エーテルの炎ごと短剣を掴み──砕く。

 エーテルとは魂──矛であり盾である。

 それを身に纏っている限り、双方に差があれば全てのルールを無視して貫くし、防ぐ。


「堕天してまで生きながらえている奴らが……奴らがそんな……」

「簡単に言えば、もうキミは意思も信念も誰かに与えられたものだから、自分では強くなれないんだよ。だから雑魚なの、つまらないの」


 ワタシはエーテルの爪で、作り物の熾天使を呆気なく切り裂く。

 天使の羽根が舞い散り、雪のよう。──そして燃え上がって綺麗に消滅した。


「どんな高位の存在より、強くなる未来を信じる弱者の方が魅力的だよ。例えばそう、人間とかね」


 人間は弱い。

 でも、いつかきっと神を殺し、時間と空間すら支配するだろう。

 ワタシは長い旅路の末、エイジ達にその可能性を見た。


 いつかきっと──ワタシを殺してくれる可能性を見た。

 戦いの衝動に怯える哀れな狼を殺してくれる存在。


 本来の役目であるヴィーザルが、その役割を放棄した。

 だから──。

 怖いけど、いつかエイジに。 


 その手でもたらされる、旅の終わりを望む。

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