129話 巫女の予言(その7)
『ええと、撮れてるかな……。どこからだっけ、途中で止めちゃうと設定が面倒で……』
誰もいない地下空間に呼びかけて、録画を再生させた。
再開されたシィの姿──何か髪とかが濡れているため、風呂上がりなのだろうか。
紫生地の金刺繍ローブもビショビショだが、バスローブ代わりに使っているのかもしれない……。
万能の衣服なのか、ただ他に服を持っていないかは謎である。
「風呂上がりの姿なら、下には何も付けていないかも知れぬのぉ……」
いつの間にかムササビ形態になって、自立歩行をするグングニル。
トコトコと可愛く歩く仕草で、シィの立体映像の足下へと向かおうと──。
「おいおい、そんな変態みたいな事は止めろよ。持ち主の俺まで誤解されてしまうだろう」
靴で小動物を踏みつけて制止しておいた。
「録画して後で回してやるぞい?」
「……うん、動物虐待は良くなかったな」
足をスッとどかし、グングニルを見送った。
なぁに、録画の立体映像を録画するだけだ。
それはもう録画で録画な録画っぽい録画。
つまりただの録画、完璧な録画理論だ。
『はぁ、録画止めてオヤツのドライフルーツ買いに行ってる最中に雨降ってきて、びしょ濡れになっちゃったし……タオル~タオル~』
意外! それは風呂上がりではなかったらしい……。
「映司よ、青と白の縞模様の下着を履いておった」
知ってる。
儚いノーパンという未来予測は崩れ去った。
『あ、それで続きだよね!』
テンションガタ落ちになっている俺。
立体映像を見上げて無言のグングニル。
『ふふ、あんな事実を知っても、うまく感情を処理したようだね』
ちょっとボーイッシュで、シリアスっぽい話し方をされたが、今のテンションはこう……ラーメンを食べたかったけど店が閉まっていて、急遽ソバに変更したみたいな気持ちだ。
だが、それでは話が進みそうにない。
男子高校生には辛いが……悶々とした気持ちを切り替えて話を聞くことにした。
『まさか、一瞬で立ち直るなんてね……。その鋼のような精神は見習いたいよ』
未来の可能性だった記憶に物凄い影響されて、絶叫しながらグングニルを発動させる直前までいったのだが、その後のアレで安定しただけだ。
どうやら、シィによる巫女の予言でも、そこは見通せていないらしい。
何かこの録画でも、俺の行動が当たってたり当たってなかったりするし……。
『たぶん、私が見たのと同じ内容を思い出したのなら、最後の方に出てきた人物──いや、キミからの視点からじゃ黒い靄がかかっていた名無し』
唐突に黒い靄の男の事を言われた。
確かいつの間にか、俺やフェリ、フリンの間に入り込んできた奴だ。
シィから見たら、また違う感じに見えるのだろうか。
例えば、靄がかかってもなく、ちゃんとしたヒトの姿で見えるとか。
『そいつが様々な事を仕組んで、三度目の巫女の予言で世界を滅亡へと追い遣った』
「仕組まれていた……?」
『地球の管理局──クロノスの部下に手を回して、キミにプレッシャーをかけて焦らせ、間接的に僕を殺させた奴さ』
そういえば、やたら突っかかってきたのがいた気がする。
今の俺は、割と気軽に対処したらからプレッシャーみたいなものは与えられなかったが。
『そして、僕は呪われし魔術師。自分を殺害した相手に目一杯の呪いをかけて死んだのさ!』
……三度目の巫女の預言の記憶の俺が、あそこから異常に歪んでいたのは、つまり……。
『そりゃもう、どうせ死ぬのだからと命を全て消費するような、相手の精神へ深く深く突き刺さるような呪いを……いやぁ、我ながら、その……うん、何というか』
シィの立体映像は照れくさそうで、誇らしそうに、ごまかし笑いをしていた。
俺はそれを半眼で見つめる。
『い、いや。これを見てるキミはたぶん今、とても複雑そうな表情をしているだろう! でも、でもだよ? 未来が見えていて、どうやってもあらがえなくて結局殺されてしまうという、ボクの苦悩というか──』
わたわたと、何かを否定するかのように手を前に押し出す仕草。
若干可愛いかも知れないが、俺の表情は特に変わらない。
「オウズよ、この盗さ──もとい、ただのムササビ視点の録画映像の録画映像はどうする? 地球の流行ではインターネッツに流すというのもあるそうじゃが」
ムササビがインターネットで盗撮映像を流そうと提案するとは世も末である。
「よし、顔とプロフィール付きで異世界序列全てに」
『まぁ、その……ね! ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 今のキミは、私を逃れられない死の運命──巫女の予言から救ってくれて、リバーとも巡り合わせてくれた!』
シィは深々と頭を下げた。
……そういえば、俺が魔術師のダンジョンをローション漬けにした事で助かったのか。
確かに圧死よりはマシだと思うが、感謝されて良い行動なのだろうか、アレは。
我ながら、もうちょっとスマートな助け方は無かったかと思ってしまう。
『私の死はかなり強力な確定要素だったから、たぶんキミが放置しても、依頼を受けたリバーと、意固地になっていた私がぶつかって死んでいたと思う』
「ローションで馬鹿馬鹿しくなって、運命が変わり生き残ったという事なのだろうか……」
「まさしくジョークグッズというわけなのじゃな」
何がまさしくだ。
『ええと、それで私が死んだ場合の三度目の予言の続き。カザリが死んだ原因、氷使いの魔術師を使ったのが黒い靄の男』
確か、オタルが調べていて、誰かから依頼されたようだとか言っていたな……。
それが黒い靄の男という事か。
『そこから、キミが雪だるま式に悪い方向へ向かっていく最中も、それをコントロールするかのように仕組み続けていたんだよ。巫女の予言を使ってね』
巫女の予言を使って……?
『公開されている巫女の予言は、最初の一回目のみ。キミ達の言う北欧神話。二回目、三回目は直接覗き見たのはボクみたいなのがいるけど、そこで機械の神の呪いを受ける事になる』
シィは苦々しい表情を見せる。
『その呪いは、絶対的な制限。重要度の高いモノ等に関して、発言が出来なくなったり、行動が出来なくなったりする』
「……でも、俺に色々と喋っているような」
『今、黒い靄の男の正体が言えないのも、名前を言おうとすると──正体は……むぐぐっ! となってしまうから……』
シィが途中で口をふさがれた時のようなリアクションをしたが、それが呪いという奴なのだろう。
あのダンジョンで死んでしまうという可能性だかも、それの行動制限バージョンみたいなものかも知れない。
『この録画も数十回、喋れないNGが出たリテイク版だからね……本当に苦労したよ。それでも、このタイミング周辺でしか喋れず、キミの時間も取れなかった』
……知ってるなら最初から全て話しておけよ、とか思ってたなんて言えない。
『ついでに言っておくと、呪いと似たようなもので、運命の強制力みたいな未来の決まったパターンがある。その最もたるものが、フェンリルとオーディンが戦う事。特別だった二回目以外はたぶん確定事項だ』
「つまり、今回もフェリはオーディンと戦う事になる?」
シィは少しだけ伏し目がちになり、それでも、と意思を固めたように言い切った。
『そして、今回は四人目のオーディンとなったキミが、フェンリルに殺される可能性が高い』




