127話 巫女の予言(その5)
「でも声や雰囲気は……フリン、なの、か?」
【半分は当たりで、半分は外れです。でも、今はフリンとして話してくれると懐かしくて嬉しいです】
「さっきまでのは何だったんだ……」
シィの地下室にいたはずの俺は、いつの間にか悪魔のような行動を取るオーズへと豹変していた。
そして今は、この何も無い──明るくもあり昏くもある空間だ。
【貴方の未来と過去だったもの──とでも言うのでしょうか。理解出来るように、正確に言葉にするのは難しいですね】
「でも、シィの話ではただの有り得た未来を観測した結果だろ……?」
【観測者が出現した時点で、それはもう実在性を発揮します。多少、差異はあるかもですが例えるのなら──】
白いワンピース姿の、中学生くらいまで育っているフリン。
少しだけ悩んだ仕草をした後、空想の剣を持ってぶんぶん振るようなポーズを取った。
【これです、これ! 映司に教えてもらったこれで例えましょう!】
こんな場所でも、何か間の抜けた雰囲気がフリンっぽさを醸し出している。
だけど、半分がフリンで当たりというのなら、もう半分は何なのだろうか?
【もちろん、わかりますよね? これです!】
「ええと……剣技……なんて俺も出来ないし教えてないから──黒き炎剣か」
【当たりです! 50ポイント差し上げます!】
「何のポイント……」
【50ポイントで肩たたき、100ポイントでキスとかどうでしょうか? 俄然、やる気が出てきたでしょう?】
目の前のフリンは、たぶん客観的に見るとびっくりする程の愛らしさと、成長過程の神秘さ、血筋からの綺麗さを持っているだろう。
一言でいうと宝石すら色あせてしまいそうな美しい存在。
だけど、俺からしたら、いつまでもあの小さな傾国幼女だ。
「5億ポイントくらい貯めて、一生肩たたきをさせるか」
【ふふ、ひどい。でも、いつもの映司ですね】
たぶん、俺の死相が浮き出ているような、疲れ果てていた表情でも見たのだろう。
それを気遣って、いつものように接してくれた。
ありがとう……と言いたいが、フリンにそう言うのも癪なので黙って置いた。
【んふふ。んーと、それで話を戻します。黒き炎剣は、神々の黄昏に出現するとされる炎の巨人──スルトの加護を一時的に得て、発動させる魔法です】
「確か、実物の勝利の剣は、フレイさんが持ってるんだよな」
【そうですね。最初の巫女の予言──北欧神話とされるものでは、フレイが婚姻のために勝利の剣を手放し、スルトが神々の黄昏でそれを使うともされています】
そんな大切な剣だから、あのイケメン裸マント神様は普段、鹿角なんて使っているのだろう。
【では、まだ起こっていない事なのに、なぜスルトが持つとされる黒き炎剣の魔法が使えるのでしょうか?】
「そういえば、そうだな……使えていた」
つまり、そのスルトの加護が得られる程に、安定した実在性がある未来だったという事なのだろうか。
【同じように、観測者が観測した二度目の巫女の予言、三度目の巫女の予言も存在していた世界と定義されるのです】
「……やっぱり完全に理解はできないけど、実際に使えていたモノがあると納得するしかないのか……」
【そんな感じでオーケーです】
つまり、俺は三度目の世界で実際に大量に殺したし、四度目の世界では殺していないというあやふやな上に存在しているのだろう。
シィを圧死させた時の感触も、きちんと手に残っている。
──罪は消えないのだろう。
【そうかも知れないですね。でも、それと同じくらいに今回のあなたは周りに良い影響を与え、世界を救っているとも言えます】
「……もしかして、考えてる事とか覗かれてる?」
……フリンの唐突な受け答え的に、そうとしか思えない。
【あっ……。け、決してツンっていた映司が、心の中でデレっていたとか見てませんよ! 見てません!】
「……18禁妄想でも垂れ流してやろうか、コノヤロー」
【や、やめてー!】
さすがにうら若き女性となりつつある成長バージョンフリンに、そんな汚らわしものは見せられない、うん。
代わりに、一人でトイレに行けなかった場面を思い出しリピート。
【うぎゃあああああ】
のたうち回り、悶絶するフリン。
もはや神々しさの欠片も無かった。
【え、映司がいつも通りで安心……ヒック……しました……ふぇぇん】
涙目になっているフリン。
成長して多少なりとも一般常識を身につけたせいか、過去の醜態のダメージは高いようだ。
【もうこんな所にいないで、そろそろ現実に戻ってください……】
「いや~、寂しくなるな~。はっはっは」
【ええい、小さな私とはまたすぐ会えるだろうし、この私とも未来でいつか会えると思います! 後の事はシィさんが説明してくれま──】
一人で寝られず一緒の布団に潜り込んできたフリン。
多数の貴族達に足を舐められたフリン。
エーデルランドに何となくドラゴンを呼び出したフリン。
【もおおおおお! ここから出ていけぇー!】
霧の巨人の王に自らの身を差し出し、さよならなのです、と言ったフリン。
俺が死んだと思って、本気で泣き崩れてしまったフリン。
生きていた俺に助けられ、安心した顔をしていたフリン。
死地に赴くとき、無事に帰ってきてね、と言ってくれたフリン。
ボロボロで戻った時、おかえりです、と出迎えてくれた……いつも、はた迷惑な幼女様──フリン。
【またです! きっときっと、また会えます! だって映司は、私の──】
俺は、いつもの通りに──傾国幼女に優しく笑って見せた。




