126話 巫女の予言(その4)
『時間が必要だろうから、キミが呼んでくれるまでコレを停止させるよ。向き合うのは辛いだろうけど、必要な事だから……』
シィの立体映像が消えた。
物音一つしない地下室、俺の荒くなる過呼吸のみが響き……耳障りだ。
なぜ、やってもいない未来の予測が、こんなにもリアルに思い出せるのだろうか。
ただの、かもしれないという、それだけなのに。
何かの扉が開いたように──そこにあったかのように鮮明に蘇る。
* * * * * * * *
最初にフリンと出会い、連れて帰るまでは何一つ変わらない。
だが、そこからが問題だった。
開幕から地球の管理局に責められた……執拗に。
得た力の重圧に押しつぶされそうになり、口数が少なくなり、どうして良いのか分からなかった。
だが、相手の力と、自分の力の差を感じ取れた時──。
相手は、自分よりずっと脆弱な存在だと気が付いた。
少し力を振りかざすだけで、相手を恐怖で歪ませて支配できてしまい、バランス感覚を失うような気持ちに。
とにかく、そいつは逃げるように上司を呼んできた。
その上司──クロノスさんと話す時も、地球の神と対等な立場になったと言われ、俺は精神を安定させるためか自分に言い聞かせた。
俺には力がある……だから大丈夫だ……失敗しないで上手くやれる。
ただの人間が持つには大きすぎる、星の殺戮すら可能な力、神の加護。
震える手を押さえながら、エーデルランドに降り立った。
最初の行動は、呪われし魔術師──シィが作ったダンジョンをどうにかする事だった。
俺が選んだのは、絶対に失敗しないようにと思って──相手を魔力で観察しながらダンジョンごと圧壊させる事だった。
呪われし魔術師とやらを……人命第一で助けることも考えたが、確実性を重視。
──簡単だった。
地下700階程度の深さなんて、フリンの加護があればサーチも出来るし、それをそのまま上から押すだけだ。
まるで最下層を、その場で見ているかのように、触れているかのようにシィの肢体を感じられる。
ローブで姿を隠しているが、少女独特の華奢でいて柔らかそうな肉体。
その綺麗な顔は、理不尽な死の運命を悟っていて……沈みきっていた。
『何度も変えようとしたけど、結局は巫女の予言からは逃れられない……。未来を知ってしまって、希望すら許されないなら……』
その何かを呪うような艶めかしい表情、声を観察しながら──、グッと押した。
手のひらで、砂の城を潰すようなイメージ。
それだけで、ゆっくりと700階層にも及ぶ魔術師のダンジョンは下へ圧縮されていった。
ある程度の圧力には耐えられるようになっているのか、すぐには崩れなかった。
そのおかげで、釣り天井のように潰されていく少女を最後まで苦しめながら──。
『脚が潰れた、もう歩く事もできない。手が潰れた、もう誰かの手を握ることも出来ない。お腹に穴が空いた、もう美味しい物も食べられない。でも、まだボクはここに存在している』
響く、砕ける、飛び散る、流れる。
『だから最後に呪う。希望が許されない未来。そんなもの、消えてしまえば良い──』
殺した。
これで良い。
絶対に失敗しないように、きちんと殺せた事は確認できた。
達成だ。
俺は、その時どんな表情をしていたのだろうか。
達成感から、どんな表情をしていたのだろうか。
『映司、笑ってるです。今の楽しかったですか?』
俺を見たフリンが言ってきた。
俺は笑っていたのだろうか?
笑っていたのだから、楽しかったのだろうか。
俺は成功させたのだ。
何も引け目を感じることは無い。
命が重いなんて嘘だ。
こんなにも軽く、達成率を上げる選択肢として選びやすかったのだから。
だから、次からも達成率を上げるために、きちんと正しい選択肢を選び続ければ良い。
命なんてそんなもの──。
* * * * * * * *
『風璃、死んじゃいましたね』
風璃の様子がおかしかったが、エーデルランド住人の不満解消の達成率のために放っておいた。
そうしたら、いつの間にか死んでいた。
きっと、昏い嗤いを浮かべるようになった俺を心配して、風璃なりに異世界に降り立って協力しようとしたのだろう。
街の中で氷柱に潰され、晒し者のように放置されていた全裸の死体。
その目は恐怖で見開かれ、まだ水分の残っている眼球にハエが止まっていた。
貴族達は汚物を見る様な目で通り過ぎ、貧しい子供達は身につけている物を全て奪っていったが、まだ氷は溶けきっていない。
犯人『達』を殺すという達成率を上げるため、街ごと破壊することにした。
雷の魔法をたった一撃。
──神に祈っていただけの人間の街──。
対国家級出力。
──中身はただの利己主義者──。
見渡す限りの地は極光と共に砕け去り、生物は消し炭となり、魂はミーミルの元へ送り込んで生贄とした。
──そう、もはや生贄動物でしか無い──。
『映司、また笑ってるです。けど、泣いてるです。楽しいのと、悲しいのどっちです?』
フリンからの問いかけに、俺は感情の無い声で答えた。
たの、しい──、と。
* * * * * * * *
あれから食事を作らなくなった。
金はこの力でいくらでも稼げるし、食い物も簡単に高級品を手に入れられた。
フリンと二人だけになった食卓。
味気ないので、酒に逃げた。
飲み慣れていない不味い液体だが、少しだけでも何かを忘れさせてくれる。
だが、加護のせいか酔いは一瞬で覚めた。
目の前で観察した死、救えなかった妹──忘れるなと呪いのように。
たぶん、クスリに手を出しても同じように逃げることは出来ないのだろう。
もう戻れないのかも知れない──。
『映司、また笑ってる。楽しいですか?』
いつものように答えた。
『そっか、これが楽しいという事なんですね』
フリンも笑ってくれた。
……さぁ、進もう。
* * * * * * * *
フェンリルと出会った。
騙しやすそうな性格だったので、上手く利用する事にした。
『ワタシは騙されていたのか……? しかも、そんな悪い異世界に』
機械の国アダイベルグという場所の事を、印象をなるべく悪くする方向で説明した。
フェンリルをけしかけ、その手で潰してもらうために。
同時に、そうならなかった場合のために工作もしておいた。
管理者であるベルグと、その片腕であるオタルと言う少女。
それに不満を持つ住人達の一部に、支配後の地位を後押しするとちらつかせ、内部からも崩せるようにしておいた。
──それは功を奏した。
最初の印象通り、甘い性格だったフェンリルは、ベルグを戦闘不能にしたが殺さず放置していた。
そこへ陽動役の住人を導き、弱っていたベルグとオタルを始末した。
その様子をフェンリルに知らせた。
『そんな……ワタシはそんなつもりじゃ──』
『だけど、フェンリルが殺したようなものです』
フリンの楽しそうな言葉に、崩れ落ちるフェンリル。
自分で殺したわけでも無いのに、脆い奴だ。
『後悔してるのなら、映司と一緒に弔いをしましょう!』
『どう……すれば?』
俺は答えた。
二人を殺した悪い住人を、殺して生贄に捧げてやれば良い、と。
フェンリルは戸惑い、返事を躊躇した。
俺は有無を言わさず、二人を連れてアダイベルグに転移して──それを実行した。
神の加護による一方的な虐殺。
ただ、アダイベルグは人口が少なかったため、あまり生贄としては適さなかった。
こんな料理では腹八分目にもならない。
『エイジ、どうしてこんな事を……』
俺は笑った。
フェンリル、キミのためだ──と言いながら。
心の隙に付け入り、共犯のような心理を与えてフェンリルを手に入れた。
……もっと、もっとだ。
生贄を捧げて力を。
神と巨人が争っていた時代なら、大義名分で殺し尽くせたというのに。
異世界序列、本当に邪魔だ。
* * * * * * * *
アダイベルグを崩壊させたという事に激怒して、霧の巨人の王が攻め入ってきた。
スリュムは強かった。
肝心のフェンリルは、何だかんだと理由を付けて誰かを殺してしまう事を拒んで役に立たなかった。
『弱い、弱いな人間よ! 特に心が弱いのじゃ!』
俺を嬲りながら、スリュムはそんな事を言ってくる。
このままでは本当に殺されてしまう。
フェンリルは助けてくれない。
俺を見殺しにするのは良いのかよ。
焦った。
初めて自分より強く、殺意をむき出しにしてくる奴と対峙している。
それに、すぐ楽にさせまいと全力を出していないのが感じられる。
俺は仕方なく、自分の身体の一部──左目を生贄に捧げる事にした。
『貴方程度の左目には価値がありません』
生贄を受け取ったミーミルにそう言い放たれた。
事実、それを代償にして得られた力は、人口の少なかったアダイベルグ住人の生贄にも及ばなかった。
足りない、まだ足りない。
力が足りない──。
俺は思い出した。
エーデルランドの住人なら、殺しても時間を巻き戻して何とかなるだろうと。
……実行した。
『おぬし……本気か。守るべき民を生贄に捧げるとは、惨めにも程があるのじゃ……』
スリュムの眼は、殺意から、ただ相手を見下して哀れむようなモノになった。
俺は、それが煩わしかった。
『エイジ……なんてことを……』
味方であるフェンリルですら、似たような眼を──その黄金の瞳で見てくる。
見るな、その黄金の瞳で見るな、止めろ。
俺は何故か耐えられなかった。
喉の奥から振り絞るように、世界の全てが悪いとでも言うように叫んだ。
お前らがこうさせたのだ、と。
スリュムが追い詰めなければ、フェンリルが戦っていれば──。
『また……ワタシの……せい?』
『フェンリルの力は殺すためにあるのだから、最初からキッチリ殺しておけばこんな事にはならなかったですよ♪』
フリンの弾けるように、楽しそうな声。
俺は表情がうまく作れず、斜めに傾いた不格好な三日月のような笑みを浮かべながら同意し、スリュムとの戦闘を開始した。
* * * * * * * *
スリュムを瀕死まで追い込んだが逃がしてしまった。
次は絶対に殺す。
『エーデルランド、本当に滅びちゃいましたです。まぁ、別に良いです』
壊れたオモチャを残念がる程度のフリン。
ユグドラシルに時間の巻き戻しを頼んだが、断られてしまった。
どうやらあの巻き戻しは、地表に強い力を持つ者がいなかったためとか、今後の可能性や、行為が意図的なものか、異世界序列の順位等を考慮した特例だったらしい。
まぁ、別に良い。
スリュムが動けない間に、巨人の国の住人を報復と称して生贄に捧げた。
もう一人の巨人の王──ウートガルザロキの抵抗があるかと構えていたが、罠かと思える程にすんなり済んだ。
あの迎え入れているような感じは何だったのだろうか。
『唯一の安寧は死……だからワタシは終焉へ導くため魂喰らう』
フェンリルも最近は従順になってきた。
* * * * * * * *
『誰かを殺すなんてダメです! もう止めてください映司さん!』
ランドグリーズと名乗る戦乙女が、俺の目の前に現れた。
その姿は、俺が昔に守れなかった少女のもので、まるで本人に叱られているようで……まだ残っていたらしい良心へ突き刺さる。
『戦乙女は道具です。無理やりに従わせてしまえば平気なのです』
『これでエイジは、もっと殺せるようになるな。ワタシもエイジのためにもっともっと殺す』
俺は消え入りそうな擦れ声で笑った。
そして、肯定した。
『映司さん……』
ランドグリーズも、一緒に殺戮を繰り返していけば、二人のように心変わりするだろう。
神や巨人が殺し合う、それは自然なことなのだから。
* * * * * * * *
『映司さん、これは本当にあなたがしたい事なのですか……?』
ランドグリーズの鎧から響いてくる、悲しげな声。
俺は何も答えなかった。
元は黄金色だったはずの鎧は、血で汚れて赤黒く染まっている。
その血は黒妖精の国という場所の住人のものだった。
──前に滅ぼした巨人の国。
主は留守だったが、ウートガルザロキの居城で発見した情報。
武器製造が盛んだという黒妖精の国のデータ。
そこには膨大な希少金属の貯蔵、フェンリルを無力化させるという鎖や、オーディンが持つというグングニルが記されていた。
俺は丁度良いとして、神や巨人への反逆とも取れる武器製造が行われているというレッテルを貼り付け、虐殺をすることにした。
この神槍──イーヴァルディに人質を用いて、無理やり作らせたグングニルを使っての虐殺。
逃げるドヴェルグ達を絶対命中の能力で射殺す。
一投一万の死の祝福。
『映司さん……どうしてこんなに変わってしまったのですか』
あの少女と同じ声が響くたび、殺そうとする意思が揺らぎ、動きが鈍くなる。
それを振り払うように、孤児院らしき建物の中に入る。
人の気配が二つ。
幼い少年と少女が、お互いをかばい合うように寄り添い、震えていた。
俺は獲物を見つけた。
だからグングニルを握る手に力を込めて──。
『あの姿、まるで昔の映司さんと風璃のようですね……』
風璃……。
目の前にいる二人は、赤髪でドヴェルグ特有の尖った耳をしている。
俺達兄妹の見た目とは似ても似つかない。
ランドグリーズ──藍綬のコピーは、どこに類似点を見いだしたのだろうか。
『誰かを守りたいという心をお互いが持って、補い、支え合うような関係……』
風璃……、俺の何かを補っていたのだろうか。
罪や強さで埋めただけの、この空っぽの存在の何か大切なものを。
……俺は、興が削がれたと言って、そのまま引き返した。
* * * * * * * *
『映司に教えてもらった黒き炎剣で、説得しに来たフレイを殺してきたです。私が相手だとすごい油断してて、簡単に実物の神器レーヴァテインを奪って二刀流で八つ裂きです』
『ワタシも、何故か邪魔をしに来た妹のヘルを喰い殺してきた。巫女の預言では、一緒に世界を滅ぼすはずだったのに……全て異世界序列のせいだな』
この異世界を監視するシステムのせいで、俺達は目立ちすぎてしまったようだ。
今や、神も巨人も関係なく、誰からも敵視されている。
不思議とユグドラシルがこちらに味方するように動いているので、ギリギリで殺されずに済んでいるだけだ。
『もう止めてください映司さん。私は──この戦乙女ランドグリーズは、あなたのためになるのなら命でも捧げましょう。でも、これは本当にしたい事なんですか?』
前にも言われた気がする。
本当にしたい事……。
風璃なら、俺が何をしたいか導いてくれたのだろうか。
いつから、命を奪う事しか選択肢が無くなってしまっていたのだろうか。
『戦乙女風情が、エイジに──いや、オーズにそのような口を利くか?』
フェンリルから奔る、ランドグリーズへの殺意。
だが、ランドグリーズも視線をそらさずに真っ直ぐ見据えて一歩も引かない。
『やれやれ、今はそんな事をしている場合では無いですよ』
二人の間に入った、黒い靄に包まれた奇妙な人物。
柔らかそうな口調だが、その実力は奥底が見えない。
『ほう、止めるか? いくらお前でもこのフェンリルの機嫌を損ねれば──』
『ハハッ、オマケでついてきたガルムを処分してあげたじゃないですか。だから、ね?』
『……ふん。ランドグリーズ、覚えておけ。もう一人のお前と、生意気なお前の両方を殺すなんていつでも出来るぞ』
脅しでは無い、本気の言葉。
ここ最近、黒い靄に包まれた男からの情報で、スムーズに虐殺しすぎている。
奴はいつの間にか俺達に取り入り、確かな実力と情報で信頼を勝ち得ている。
まるで異世界序列の上位の管理者でしかあり得ないような存在。
『それで、大変なんですよ。どうやら、初代オーディン、フレイヤ、スリュムという、神と巨人の最高実力者達がこちら──エーデルランドに向かってきています』
* * * * * * * *
『この世の悪共よ! ワシの命を賭けた一撃を食らうがよい!』
開幕、何の遊び心も無く、慈悲も無く、ただ相手を文字通り必殺するためだけの拳。
スリュムは己の存在を生贄に捧げ、その一撃に全てを賭けた。
主神級すら道連れにするであろう、命を燃料にした一回だけ許された最強の物理攻撃。
それは住人のいなくなったエーデルランドの表を叩き、裏までエネルギーを優に貫通させるシロモノだった。
俺の身体に──中心に当たっている。
これでは刹那の後、身体はおろか、エーテル全てを消滅させられるだろう
死を確信した。
だが──。
『そんな男を守ってどうするのじゃ……史上最悪の殺戮神オーズを……』
『映司さんは……本当は優しい人ですから……』
死を迎えるはずの俺の身体は、不思議と無傷だった。
反対に身体が崩れていくスリュム。
『そうか……それならワシも、その優しい時に出会っておきたかったのじゃ──』
それが砂となったスリュムの最後の言葉だった。
『映司さん、無事ですか……?』
ランドグリーズの鎧は砕け散った。
その魂を犠牲にして、俺を救ってくれたのだろう。
どうしてだ? と俺は問い糾した。
『映司さんに与えられたものを、ただ返しただけです』
微弱に残ったエーテルで、辛うじて少女の幻を形作っている。
『私がまだ人間だった頃、最後に願ったんです。ただ星に願ったんです。せめて女の子らしい生き方をして最後を迎えたかったなぁ、って』
人間だった……?
『そしたら──』
俺は絶句した。
『それで──』
ランドグリーズは藍綬の人格をコピーしたのでは無い、藍綬本人の魂を持っていたのだ。
『ほら、それで今やっと、女の子らしい死に方をしている最中じゃないですか』
どこがだ……。
『大切な人を守って死ねるんです、これ以上の事はないですよ』
迷惑だ……。
『ですよね……。私は結局、風璃の代わりにもなれなかったし、他の誰かとして映司さんの心を救う事も出来なかった』
急に死ぬ間際に藍綬だとか……迷惑だ。
『やっぱり、もっと一緒に言い合ったり、喧嘩し合ったり出来る方が映司さんにはお似合いですよね』
藍綬……また消えるのは迷惑だ……行かないでくれ。
もう風璃もいないんだぞ……。
『はぁ……。最後に言いたいことがいっぱいって……私、計画性無いですよね』
最後なんて止めてくれ……。
『私は映司さんを責めません、どんな映司さんでも。悪いのは……、あらがえない黒き運命と、最初に原因を作ってしまった私かもしれないですね』
待て、待ってくれ。
何か助ける方法があるんだろう。
『ありますが、それは映司さんが使っちゃいけないし、私が私では無くなってしまいます』
死者の館、そうだ。
あれなら──。
『さよなら映司さん。いつか向こうの世界で、風璃と一緒にまた──』
藍綬のエーテルは消滅した。
残ったのは、地面に散らばった鎧の破片。
「藍綬……俺はまた藍綬を失った……のか……。ハハ、ハハハハ……」
俺の心も砕け散った。
これは夢か現かの区別も付かない。
『映司、私と一緒に世界を滅ぼしましょう。映司を見てきて学びました、殺戮はすごく楽しいです』
無邪気な笑顔のフリン。
フレイヤを殺して奪ったブリシンガメンを弄びながら──俺を見下す。
俺は、散らばってしまった藍綬を笑いながら集めていた。
『エイジ、ワタシもこの異世界序列を全て喰い尽くすと決めた。初代オーディンを失った今、世の希望──光の主神は潰え、終焉の炎で焼き尽くすのは容易いこと』
鋭い爪に、まだ乾かぬ初代オーディンの血を付着させながら、半獣人のような恐ろしい姿になってしまったフェンリルは冷笑する。
その金色の瞳は世界への憎しみが充ち満ちていた。
『さぁ、この世で最も生命を消したキミよ。このまま数人になるまでふるいをかけようじゃないか。私の力も完全擬態で得ると良い』
黒い靄に包まれたヤツは、握手を求めるように手を差し出してきた。
俺はその手を掴み、エーテルを読み取った。
流れ込んでくる黒、黒、黒。
『素晴らしいだろう、黒き神からもたらされた加護は──』
黒い靄に包まれたヤツは、フェンリルを抱き寄せて口付けをした。
『くくく……これで“神殺し”と“巨人殺し”を受け継ぐ子供を作り、真なる神々の黄昏は達成される』
それから先は。
邪魔なモノすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶみんなみんなみんなみんなみんなみんなころしてころしてころしてころしてダレもカレもヤツもオレも──生贄に捧げた。
哀愛Eye藍──も何もかも、残ら、ず。
ひたすら殺戮のための力を得て、流血するほど強く握りしめた罪の証したる『必罰せし魂響の黒神槍』で──。
* * * * * * * *
「あ、アァあ……ッあぁァぁああああアアアアアァァァァア!!!」
獣声。
俺は『必中せし魂響の神槍』を召喚。
最大級のエーテルを注ぎ込み、全てを殺戮せんがために投げ──。
【映司は、本当にそんな事をしたいんですか?】
気が付くと何も無い空間。
そこに、フリン──。
いや、白の依り代フィン=シュラインの姿があった。




