125話 巫女の予言(その3)
『さて、問題です。神のごとき力を手に入れた少女は、巫女の預言で世界の半壊を知った時、どうしたでしょうか?』
「どうしたって、そりゃ……一度世界を救ったような奴なら、今度はそっちを止めようと──」
『そう、巫女の預言を変えようとする』
録画と話しているはずだが、こちらへの的中率が上がってきている気がする。
俺が、シィの思考や話の流れに引き寄せられているのもあるだろうか。
『本当なら“神の数式”を用いて、完全に予測された巫女の預言をどうにかしようなんて不可能。だけど、それを生み出し、原初のトネリコを植えた本人の加護があるのなら別』
「本人の加護……? 誰の加護だ?」
『名の存在しない白き神と黒き神。この少女、フィン=シュラインは白き神──正確には白黒両神の加護──通称『光陰の魂』をその身に宿していた。どうして加護を受けられたのかは、血筋だとか、気高き心だとか、ただの気まぐれだとか諸説あるね』
何とも適当な予測だ。
もし、ただの気まぐれで選ばれるとかだと、まるで最初にダーツで選ばれた俺のようだ。
『だけど、彼女はしょせん人間。『光陰の魂』を使った代償として、寿命はそう長くは無かった』
「可哀想だな」
『そこで、絶望の未来を打ち砕くための手段だけを残し、短い余生を恋人と送ることにした。それくらい最後のワガママも許されるだろう』
その短い寿命を終えるとき、最後は幸せな顔をしていたのだろうか。
フリンに似ていた少女だったため、少しだけ感情移入してしまう。
『幸せだったかって? 子供ができたらしいから、それなりに人の幸せを享受できたんじゃないかな。羨ましい……』
ここで心を読まれたような感じになると若干恥ずかしい……。
『まぁ、それは置いておいて。今もその絶望の未来を打ち砕くための手段は続いているんだよ』
「今も……?」
五千年前から続いていて、最初の北欧神話とされる“巫女の預言”と違う部分。
……もしかして。
『異世界序列システムさ』
各異世界の動向によって順位が決められ、上位に行くほど名誉とされる指標。
『これによって、神も巨人も、白き神の依代が作った栄光を手に入れたくなって、傍若無人な争いを徐々に収めていったわけさ。わかりやすいのが、今も生きている霧の巨人の王の存在とかだね』
本来の神話ならスリュムは、トールのミョルニルで殴り殺されていたはずだが、そういう部分が歯止めになって今があるというわけだろうか。
『その異世界序列を白き神の依代の死後も、シシャス──いや、クロノスと偽名を使った彼が一歩引いたところから守っていたんだよ。もっとも、引っ張り出されて結局は代理でも地球の管理神として祭り上げられてしまっているけど』
ただの胃が弱そうな神様だと思ったら、そんな過去があったのか。
『この時点での未来観測──“神の数式”を使った二回目の巫女の預言は、ずっと完璧な平和……とまではいかないけど、大きな争いは無く、神も巨人も人間も楽しく暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。だったわけだよ』
だとしたら、どうして……こんな事態に陥っている?
そこに何かがあるのだろうか。
頭の中に、知っているはずだが、思い出せない違和感が浮かんでは消える。
これは何だ……?
『だけど、ある日……突然に未来は変わった。三回目の巫女の預言──ある人間が深く深く絶望に墜ち、接点を持っていた重要な存在までもが連鎖的に黄昏へと豹変した』
気分が優れない。
『その人間は、ある少女のため、過去に自らを生贄に──』
魂とも言えるエーテルがグルグルと回る。
それは胃の中の物がせり上がってくるような感覚。
『終焉の狼と同調し、黄金の瞳によって神との契約を殺され、心を取り戻し──』
耳鳴りがする。
シィの声は聞こえている、意味としては理解できる。
だが、本能がそれを拒絶しようとする。
『幼き女神が投げ放った、グングニルによって選ばれ──』
聞きたくない。
『妹を助けることが出来ず──』
知っている。
『機械の国を滅ぼし──』
知っているよ。
『巨人の国とエーデルランドを生贄に捧げ──』
俺が一番よく知っている。
『黒妖精の国を蹂躙し──』
そう……。
『自らの戦乙女となった藍綬を殺し、フリンを、フェンリルを殺戮者へと堕とし、神となった男の名──オーズ。キミだ』
尾頭映司──俺だ。




