110話 フェリとの戦闘で出来たクレーター(その後)
次は、何の変哲も無い、だだっ広い平原へと案内された。
周りにある物と言えば、申し訳程度の雑草や、辛うじてテーブルとして使えるかもしれない水平な岩がいくつか。
……いや、もう一つだけ特徴的なモノがあった。
「このクレーター……。フェリと最初に出会って戦った場所か」
「正解! あたしとフリンちゃんは、家で出前食べてた時の」
「……俺は草を食っていたな」
「あはは、ごめんごめん」
この平和なエーデルランドには不釣り合いな、特大クレーター。
「ここらへんは歴史ある遺跡が埋まってるから、あまり荒らすなってイーヴァルディの息子がぼやいてたよ」
「そういえば、アイツはドヴェルグだから地下関係には詳しいのか」
まだあれから数ヶ月しか経っていないため、あまり形は変わっておらず、超広範囲に深くえぐられた地面から植物が少し生え始めている程度だ。
「今思えば、まだ『天上の階位』で中級くらいだった俺が、上級のフェリと戦おうとしていたんだよな」
「昔と変わらず、び~っくりする程に無謀ですね。映司さんは」
あきれながらも、少しだけ楽しげに目を細めるランドグリーズ。
「あの時はフェリの大きな胸にやられてしまって、不可抗力だったんだ!」
「……映司さん、いつもいつも胸胸って――」
笑顔から一転、怒気のこもったランドグリーズの声と視線。
風璃が、それを止めに入る。
「ランちゃん、さっきも言ったけど今日は我慢! どんなアレな話題でも我慢で!」
「うぬぬ……!」
とうとう、アレな話題と認定されてしまっていたのか。
おっぱいには気を付けよう……。
「あ、でも……」
俺は、ふと思い出した。
フェリと初めて、ここで出会った時――。
「綺麗な金色の瞳だなって、最初に見て思った」
「へぇ、映司お兄ちゃんでも、女の子の胸以外で感想を持つんだ」
「いや、酷くないかそれ」
「まぁ、この場にフェリちゃんがいたら、最初の胸の話題でどん引きだろうね~」
これも気を付けよう……善処します、しますよ。
「そ、そういえば映司さん。さっき話題に出てきた『天上の階位』について知っていますか?」
さすがに話題を変えたいのか、ランドグリーズがかなり唐突に切り込んでくる。
再び流れ弾でオタルも目のハイライトが消えているので、さっそく善処する事にした。
「いや、詳しくは知らない。強さの基準になっているという事くらいかな」
「そうです。一番弱いのが下級第三位で、一番強いのが上級第一位です」
確か全部並べると、下級第三位、下級第二位、下級第一位。
中級第三位、中級第二位、中級第一位。
上級第三位、上級第二位、上級第一位。
こんな感じだったはずだ。
「この基準の元になった存在がいるんです」
「ええと、なんだっけ……どこかの神様か?」
「いえ、原初の白き神と黒き神に仕えたと言われる、天使達です」
原初の白き神と黒き神は、ユグドラシルを作った存在とはどこかで聞いたな。
「普通の天使が下級第三位、割と人間に近い存在とされています。下級第二位が大天使で、下級第一位が権天使……と続いていきます」
「そういえば、神は存在するけど、天使はまだ見たことが無いな」
「……唯一、天使と共にあったとされる白き神と黒き神がお隠れになってからは、一緒に存在を消したと言われています」
なるほど。
天使達は消えたけど、その基準だけは強さの指標として現在も残っているという事か。
俺が耳を傾け、感心している最中──女子二人は小声でヒソヒソと話し始めた。
「……風璃、映司さんがこういう話好きだって当たってたね。聞き入ってる」
「でしょ? 好きな話になるとチョロい」
ランドグリーズと、風璃が少し小さめの声量で話している。
まぁ、本人にモロ聞こえだが……。
「たぶんフェリも、上級第一位か」
「熾天使と同等の強さですね。もしかすると、三対六枚の羽根を持つとされる『明けの明星』とも渡り合えたかも知れません」
何やら仰々しい例えだ。
「といっても、最強を表す上級第一位は、それ以上計れないというだけでピンキリですけどね。フェリさんや初代オーディン、ヴィーザルさん等は別格の強さです」
「そこが、俺の目指すところか」
俺は、フェリ以上の力を得て、しなければならない事がある。
異世界序列も無事に上がり、フリンが自分の意思で成長しようとしてくれた今、残る目的はそれくらいだ。
「……映司さん、無謀ですよ」
「ああ、分かってる。今でも、ここでフェリと戦った時の圧倒的な強さは覚えている」
フェリ自身も恐ろしく強いが、その特性である神殺しはさらに恐ろしい。
たぶんグングニルを持った俺でも、お互いが全力なら勝率は低いだろう。
しかも、まだまだ底が見えない状態でそれだ。
「戦乙女として……いえ、私個人として頼んだら、やめてくれますか──?」
真剣だが、どこか泣きそうな弱気が入り交じっているランドグリーズの懇願。
そんな顔で頼まれたら、きっと俺は火の中にでも飛び込めるだろう。
だけど――。
「ごめん、藍綬。フェリを助けたいという気持ちは止められないんだ」
「そうですか……、そうですよね。オーディンとフェンリルは相容れない存在。ですが――映司さんは、本当に困ってる誰かのためなら……」
彼女は、悲しそうに笑った。
どこか最初から諦めていたかのように、俺の答えを予知していたかのように。
「映司様、藍綬とは?」
不思議そうな顔をするオタル。
「ん、ああ。ごめん。言い間違いだ!」
俺は、頭をかきながら笑った。
「もう、映司お兄ちゃんったら~」
風璃も笑っている。
だが、どこか作り笑いが混じっている気がした。
さてと、さっきまでのパターンだと、ここで俺の腕に誰かが抱きついてきそうだ。
何となく分かってきたが、俺に気を遣って、気を紛らわせたり、喜ばせたりするように仕掛けてくれたのだろう。
露骨に胸の話題をしても、風璃が速攻で止めに入らなかったのもそれだ。
オタル、風璃ときたので、次に腕組みしてくるのはランドグリーズのはず。
出来れば成長した戦乙女バージョンの方が感触的には喜ばしいが、彼女達が気を遣ってくれているのだ。
その気持ちだけで、どんな姿形であっても嬉しい。
「映司お兄ちゃん、ソワソワしちゃってどうしたの?」
「ん? いや、何でもない。何でもないぞ~」
自然に、超自然に腕を組みやすいように、手を腰……くの字型に腕を曲げて待機する。
ポーズについて突っ込まれたら、風呂上がりに牛乳を飲むポーズの練習をしていたとでも言おう。
ついでに、ランドグリーズが照れないように、別の方向に顔を向けておく。
完璧である。
さぁ、バッチコイ! サプライズ!
「いや~、良い天気だな~」
そんな白々しい台詞で待機していると、腕に何か感触が。
力強く、俺を求めるような。
普段は大和撫子的な性格だが、こういう時は情熱的だな……。
「ランドグリーズ、そんなに強くしなくても俺は逃げないぜ」
つい語尾が『ぜ』になってしまったぜ。
精一杯のダンディズムを込めて、俺も情熱的にランドグリーズの方に振り向くぜ。
「オレはリバーサイド=リングッ! 勇者だッ!」
腕に抱きついていたのは、鍛え上げられた筋肉を持つ青年であった。
鼓膜を突き破らんとする大音量の名乗りで、俺は呆気にとられていた。
よく考えると身長的な位置が違うし、腕と腕がクロスしている感覚が、丸太のようにぶっとくて硬い。
ランドグリーズの可愛いぷにぷに二の腕とは大違いである。
あとテンプレのような濃いアメコミ顔の野郎と顔が近い。
実際、唾が飛んできている。
このまま爆発四散したい気分だ。
「風璃、コレなに?」
辛うじて残った理性で、我が妹に問いかける。
「この場所で初めて出会ったフェリさんを連れてきたかったけど、いなかったから代わりにここで初遭遇の人」
悪びれた感じもなく、淡々と答えられてしまった。
「……せめて、そこはシィでも」
「シィちゃんに頼んだら、『やることもあるし、異性として見て無いから密着とかパス』だって」
あ、なんか二段階に精神ダメージ受けた。
「オレはリバーサイド=リングッ! 勇者だッ!」
放置していたため、二度目の名乗りが飛んできた。




