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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック
最終章 主神が消えた日

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106話 映司の料理は(世界一!)

 あれからしばらく経ち、時間がある程度は心を落ち着かせてくれた。


 それでも、嬉しくもあれば、寂しくもある。

 そんな複雑な感情を持つのは、俺がまだオーディンという存在に成り切れていないからだろうか。

 フリンの旅立ちを笑って見送ってやるのが一番だとは分かっているが、何というか……。


「映司お兄ちゃん、ちょっと泣きすぎだと思うんだけど。娘を嫁にやる父親じゃないんだから……」

「だ、だぁってだなぁぁああ」


 転移で移動するので、尾頭家のリビングでの見送り。

 駅や空港なら、それなりの雰囲気かもしれないが、家で見送るというのも変な感じだ。


「ほら、今日はいっぱいお客さんも来てるんだから」


 見送りの人数的に、また少しだけ家が手狭になっている。


「映司さん、気持ちは分かりますが落ち着いてください」


 前、フリン宛てに送られてきた神器『ブリシンガメン』と一通の手紙。

 そこには、フリンの祖母であるフレイヤという女神の言葉が書かれていた。

 まぁ、祖母と言っても、外見はピッチピチのお姉さんらしい。

 是非、1度お目に掛かりたいもの──いや、話を戻そう。


 内容はこうだ──。

 異世界序列の最下位にまで陥ったエーデルランドを、仲間と協力して二位まで順位を上げた。

 そこで、約束していた二代目フレイヤの件を考えてやる。

 先にブリシンガメンを送ってやるから、仲間に威力を見せびらかして楽しめ──、と。


 女神様の清らかなイメージと違って、割と、何というか、その……発想が面白い人である。

 スリュムからの情報も後押しして、俺の女神象はわりかし崩壊しかけていると言っても過言では無いだろう。

 というか、まともな神はクロノスさんくらいしか知らないレベルだ。

 フレイという神なんて、フリンに餞別代わりで教えた黒き炎剣関連を激怒してきたし。


 ……ま、まぁ今考えると、アレは本人をぶっ倒す宣言が入っている詠唱だけど。


「映司、そんなに泣かなくても、またいつでも遊びに行けますです」

「向こうでは好き嫌いせずに何でも食べろよ……。歯を磨けよ……。それからそれから……」

「異世界序列第一位──神の国(アースガルズ)では神の状態を維持するので、心配無用です!」

「あ、ああ。うん……。そう、だよな……もう何かを食べる必要も無いよな……」


 目の前には、出合った時から少しだけ背が伸びたフリン。

 最初に抱えていた、お爺さんとの死別の悲しみを少しでも忘れさせてあげられただろうか。

 ……いや、少しずつでも傾国幼女は成長している。


 今も、フレイヤの元へ赴き、その跡を継ぐための修練をしに行こうというのだから。

 自分の意思で、立派に行動する少女だ。

 最初は『私の勇者!』とか言ってくれていたが、もう俺は必要無いだろう。


「あ、でも──」


 フリンは、少しだけ大人びた微笑みを見せた。


「映司の料理は世界一ですから、食べたくなったらまた作ってくださいです」

「……ふ、フリィィィン!」

「ちょ、ちょっと。映司、抱きつかないでくださいです!? 持ち上げないでくださいです!? くるくる回さないでくださいです!?」


 妹のようであり、娘のようであるフリン。

 つい感極まって、お巡りさんに見付かったらやばそうな愛情表現3コンボを決めてしまった。


「映司さん、フレイさんが凄い眼で睨んでますから、スキンシップはそこらへんで」

「あ、うん」


 ランドグリーズから止めが入った。

 フレイの表情がどうなってるか確認するために顔を向けると、咳払いを一つされた。

 また激怒されるかと思ったが、一応は神様としての立ち振る舞いを維持している。


 全裸にマントと腰布だが。


「フリン……。亡くなったお爺さんがいなくても、フレイヤさんがいるんだからいっぱい甘えてこいよ」

「え? おじいさま、生きてますよ?」

「なん……だと?」


 おかしい、確かに天国(とおく)へ逝ってしまったと……。


「遠くの神の国(アースガルズ)へ行ってしまって、会えなくなっていただけです」

「しまった……フリンに気を遣いすぎて、踏み込まずにいた事が仇になったか」

「映司、いつも私の事を大切にしすぎです。たまには叱ったり、厳しくしてもよかったん、です……よ?」


 不思議と二度目のような感覚が襲う。

 だが今、このセリフを──目の前にいる涙を潤ませたフリンに言われたのは、初めてのはずだ。


「えいじぃぃいい!」

「ふりぃぃぃぃん!」


 お互い、(せき)を切ったように感情と涙が溢れ出て、抱き合ってしまう。


「これじゃあ、どっちが子供なんだか」


 風璃の呆れ声が聞こえてくるが、どこか優しさが混じっているような雰囲気だった。


「道中気を付けろよおおお!」

「うん~! フェリもいるからだいじょーぶだよ~~!」


 そういえば、フェリも神の国へ用事が出来たから、途中まで一緒に行くと言っていた。


「しばらくはワタシも一緒だし、向こうではあのフレイヤが師として付く。あそこ以上に安全な所は無いと思う」


 フェリは、こちらのテンションの高いやり取りに苦笑いをしている。


「ワタシは、向こうでの事が済んだら、普通に戻ってくる」

「うん、そう言っていたな」

「だ、だから別に、そういう事はしなくてもいいんだぞ?」


 何かに期待するようなソワソワした表情を見せられた。

 もしかして、抱きしめて行ってらっしゃいした方が良いのだろうか。

 うっかり胸とか密着させて幸せな気分になってもいいのだろうか。


 い、いや、だがこの場でそれをやる勇気が無いヘタレ高校生だ。


「そ、そういえば、どうして神の国へ行くんだっけ」


 誤魔化すに限る。


「そうだな、敢えて言うのなら、逃げるのを止めた」


 キリッとした表情に戻るフェリ。

 天真爛漫なフェリという少女と、終焉をもたらす神殺しフェンリルの二面のギャップが大きい。

 今、美味しい物でも差し出したら、またダラッとした表情に戻るのだろうか。


「フリンがエイジ達から様々な事を学んだように、ワタシもエイジ達を見てきて変わった。初代オーディンとは戦わず、逃げず、対話をしてくる。──例えそれがどんなに困難でも、ワタシを縛る鎖のような運命に抗う」

「そうか、平和的で良いと思う」

「前に初代オーディンと対面した時は、ワンパンして逃げ出してしまったからな。その時の事も謝らなければならない!」


 ……許してくれるのかな、それ。


「フェリが良い狼だというのは、私も一緒に伝えるから平気です」

「うん、フリンありがとう」


 フリンの頭をガシガシ撫でるフェリ。


 フレイヤの孫であるフリンが伝えれば、発言力的に平気なのだろうか?

 やはり、少しだけ心配になってしまう。


「エイジ、そんな顔をするな」


 気持ちが表情に出ていたらしい。


「これはワタシが決めて、ワタシがやらなければいけない事なんだ」

「そっか……」

「安心しろ。本当に助けて欲しい時は、エイジの名前を呼ぶ。あの時のように!」


 う……赤面しそうになるくらい恥ずかしくなってしまう場面が頭をよぎる。

 黒妖精の国で、派手に空から登場してフェリを助けて、そのままガルムと殴り合いからの、死ぬほど思い出したくない発言による公開羞恥処刑。


 さすがにアレみたいなのを二度目というのは……うぅむ。


「そうですね。私もピンチの時は、また名前を呼びます! 映画館でもそんなアニメやってましたし!」


 フリン的には『よい子のみんな~! 映司を呼ぶんだ~!』なノリだろうか。


「映司君、大丈夫ですよ。二人は、私達が責任を持って護衛しますから」


 フェリの脇に控える2人の神。

 ヴィーザルと、テュール。

 最初はスリュムの警戒心もあり、胡散臭い奴だと思っていたが、結局は黒妖精の国の事は色々と助かったし、意外と良い奴かも知れない。

 過去にフェリを助けているし、ここは任せてしまっても良いだろう。


「頼みました。ヴィーザルさん、テュールさん」

「ふふっ。前も言いましたが、もっと砕けた感じで良いですよ。──いえ、私達は愛する隣人になる運命のようなものなのですから、そうして欲しいですね」


 不思議な言い回しだ。

 だが、仲良くなりたいという事なのだろう。


「わかった。それじゃあ、フェリの事は頼んだ。ヴィーザル」

「はい、頼まれました。映司」


 異世界序列一位の管理神と呼び捨ての仲。

 その顔に張り付いたような笑みも、今となっては特徴的なだけと感じる。


「おや、ところで霧の巨人の王は? この前の事もあったので和解したかったのですが」

「スリュムも、1度巨人の国に用事で戻るとか言ってたかなぁ」

「ふふ、そうですかぁ……」


 一瞬、俺の失われた左目で視るヴィーザルが──黒に染まったような気がした。

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