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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック
第四章 神槍精製

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幕間 バカ息子とエーデルランド孤児院

 まだ太陽が昇りきっていない午前中。

 ここはエーデルランドの、小汚い孤児院。

 ボクはイーヴァルディの──


「おい、バカ息子。サボるなよ~」

「その呼び名は止めろ!」


 尾頭映司に連れてこられ、孤児院で働きつつ鍛冶仕事をこなす日々だ。

 僕と一緒に来た黒妖精の国の子供達もいるのだが、その中の1人であるケンが『イーヴァルディのバカ息子』という名前を定着させてしまった。

 先に働いていたゴロツキっぽい見た目の奴らや、唯一まともそうなスキールニルというハーフエルフすら、その呼び方が伝染してしまった。


「はっはっは、親しみを込めての呼び方だ。お前、意外と子供達からも好かれてるしな」


 この孤児院のボスに脅されて入った元ゴロツキに、こんな口を利かれるとは。

 僕は溜息を吐きながら、孤児院の裏手で薪割りをしつつ、今日の献立を考えなければいけなかった。

 鍛冶だけをしていれば富、名声、権力の全てが手に入った黒妖精の国とは違い、ここでは様々な事をしなければ認められない。

 全く、面倒臭い。


「それじゃ俺は、この前出来た学校の方を手伝ってくるから薪割りは任せたぜ~」

「ああ、それくらいなら僕に任せろ」


 何か手っ取り早く、ここで成り上がれる方法は無いだろうか。

 一刻も早く認められて、黒妖精の国に帰って……あのメイドを叱ってやらなければ。


「やぁ、スキールニル」

「あ、フレイ。生フレイだ」


 知らない男と、ハーフエルフの話し声が、孤児院の入り口付近から聞こえる。

 僕はそれを壁に隠れながら覗き見る。

 ハーフエルフの方は相変わらず良い女だ。


 顔は名だたる絵画に描かれても良いくらい美しく愛らしいエルフ顔だし、身体も細いながらも出る所は出ている。

 その声も小鳥が囀るようで聴き惚れてしまう。 

 性格も、まぁそれなりに僕に気を遣ってくれるし、上出来だろう。

 地位を取り戻したら側に置いてやっても良いくらいだ。


 男の方は──若い。

 外見的には長身の美青年と言った所だが、立っているだけで漂ってくる気品は王族のそれを思わせる。

 顔は麗人と見間違う程に儚げで、眉目秀麗。

 それでいて笑っている顔は、男の僕でも魅了されてしまう抱擁感がある。

 ただ、何故か裸マントなのが意味不明だ。


 あれほどの男から、あのハーフエルフを奪えたのなら、それなりの実力として認めてくれるのでは無いだろうか。

 そんな考えがよぎる。


「生フレイですよ~。いやぁ、行方不明になってしまった幼馴染みと、こんな所で再会できるとは」

「全て、風璃さんのお陰ですね」

「はは。あの詐欺っぽい聖水販売とか、スキールニルのためじゃなかったら、異世界序列第四位──アールヴヘイム管理者として全力を持って潰すところだったけどね」


 フレイ……豊穣神フレイ、どこかで聞いた事があると思ったが、実際に見るとこんな奴だったのか。

 スキールニルは、それの幼馴染み……。

 危ない、手を出したら鹿角で突き殺される所だった。

 キッパリと諦めよう。


「そういえば、私のお父さんはどうなったか知りませんか? 故郷で別れたのは幼い頃だったので、記憶も曖昧で……」

「えーっと、それは……。確かその、黒妖精の国で偉い立場になってる……らしいかな。非常に大きな存在というか何というか……」

「そうですか。では、そちらにもいつか会いに行きたいですね」

「あ、ああ、うん」


 しかも父親は黒妖精の国のお偉いさんか。

 機嫌を損ねたら、ますます不味い。

 最近、学校の設置者となって疲れが溜まっているらしいので、疲労回復に効果があるハーブティーでも用意してやろう。

 これも僕のためだ。


「それでは、スキールニルの邪魔をしては悪いから、フリンと遊んでますね。せっかく伝説のエーデルランド来たので、しばらくはこちらに滞在して観光をしてると思います」

「うん、また後でね。フレイ」


 裸マント神フレイは、鹿角を振りつつスキールニルと別れてどこかへ行ってしまった。

 スキールニルは微笑みながら、それに手を振っていた。


 僕は気を取り直して、薪割りに戻ろうとすると──。


「あ、いたいたスキールニル」


 新たにスキールニルに声を掛ける者が現れた。

 見た事が無い、異邦人の服を着た少女。

 ……僕は再び覗き見ることにした。


「風璃さん、どうしたんですか?」

「映司お兄ちゃんが『オリハルコンタコ焼き機』でタコ焼き作ったから、差し入れに持ってきた! 一休みしよ」


 風璃というのか。

 どうやらあの尾頭映司の妹──これは取り入ることが出来れば、僕のステップアップに確実に役立ちそうだ。

 種族はただの人間のようだし、外見通りの小娘だろう。

 僕なら簡単に懐柔できそうだ。


「このタコ焼きという食べ物おいしいですね。見た目も何やら、風璃さんが戦乙女の時に使っていた時のメイスに似てるような」

「え~、トゲとか無いし、こんな美味しい物で相手を殴っても悦ばれちゃうよ」

「ふふっ、あの時は巨人が吹き飛んだり、教会が吹き飛んだり、山が吹き飛んだり凄かったですね」


 ……何やらやばそうだ。

 戦乙女と言えば、この前見たランドグリーズという恐ろしい存在を思い出す。

 それと同等の力を持っているとしたら、下手に近付くと一瞬でミンチにされかねない。

 この風璃という少女に取り入るのも、スッパリと諦めよう……。


 震える身体をいさめながら、細心の温度管理で煎れたハーブティーを2人の所に持っていくのであった。


* * * * * * * *



 午後は周辺から依頼された農具などを直しがてら、それを子供達に見せて基本的な鍛冶仕事を教える。

 僕が教えられるのは魔力を使った方法だが、神の血を引く子供達とやらは尾頭映司から個別にエーテルでの鍛冶も教えてもらっている。

 だが、基本は基本。


 どちらにも共通する大切な下地。

 手を抜かずにキッチリと教える。


「バカ息子、マジメに鍛冶してる時は結構良い顔してんじゃん。何か痩せてきた気もするし」

「うるさいぞ、ケン。今は集中しろ」

「ごめんごめん。でも、俺はそっちのバカ息子の方が好きだぜ」

「チッ」


 好意を向けられるという苛立ちをハンマーに込めて振り下ろす。




 修理を終えたものを子供達に配達させ、僕は孤児院の裏手で薪割りに戻る。

 基本的に鍛冶しかやれる事が無いので、それ以外は雑用係だ。

 このままでは一生鍛冶を教え、茶を煎れ、薪を割り、子供達と遊んだりになってしまう。


「あ、フレイです! ちょっと見て欲しいものがあるです!」

「ん? どうしたんだい、フリン」


 また孤児院の入り口付近で声がした。

 それを前と同じように壁から覗き込む。

 今度は豊穣神フレイと、見た事の無い幼女──フリンと呼ばれていたか。


 ……名案が閃いた。

 明らかにスキールニルや風璃より御しやすい幼女。

 どうやらフレイと親身にしている仲だ。


 僕はそれに取り入れば……チョロいな!

 知能指数も低そうだし、口八丁手八丁で何とかなるだろう。


「映司から魔法を教えてもらったです!」

「へぇ、どんなのだい?」


 あんなに小さいのに魔法を使えるのか。

 これは手駒にした時、便利そうだ。

 あの最高の鍛冶士となった尾頭映司とも知り合いらしいし、僕の地位を簡単に築くことが出来る。


 フリンは右手を見せつけるように差し出し、それをグッと握った。


「えーっと、確か~……終わりに来る黒き者? 世を灰燼に帰す古き燃え木ぃ~」


 それを見ていたフレイは、それまでの笑顔が一瞬で固まった。

 眉をピクピクと痙攣させている。

  

「鹿角持つ豊穣神(フレイ)を屠るムスペルヘイムの守護者~、その枝の破滅を以てぇ、勝利を~」


 フリンの右手に、目に見えない空気の流れのようなモノが集まり、黒い何かが凝縮されていく。


「示せ! フリンの手に──黒き炎剣(レーヴァテイン)です!!」


 光を全く反射させないで、距離感すら狂わせる黒き炎剣が現れた。


「……フリン、ちょっと映司君に話したい事があるから、家に戻るよ。うん、平和的に、なるべく平和的にね、話しに」

「え~、今からこれで何か斬ろうと思ったのに~!」


 フリンは駄々をこねるように黒き炎剣を振り回し、それが当たった地面は削り取られたように消滅した。


「そんな僕が持つ勝利の剣(レーヴァテイン)のパチモンはポイしようね、ポイ」

「う~……ポイッ」


 残念そうな顔をしながら、フリンは黒き炎剣をこちらへ投げ捨てた。

 空気に四散しながらも、まだ形が残っている状態で僕の足下に着弾。

 地面に、底が見えない恐ろしい穴を開けていく。


「……真面目に働こう」


 僕はそう決心した。

 幼女ですら手に負えないほど強いし……。


 何だか世界で一番弱い存在になった気がして、その場で体育座りをして下を見てしまう。

 いや、元々そんな大層な存在では無かったのだ。

 唯一手に入れた鍛冶の腕さえ磨かないでいれば錆びてしまい、僕に残ったのはイーヴァルディの息子であるという、誰かの威厳を借りていただけの存在だった。

 この場所ではそれさえ無くなったのだから、もう僕には何も残ってはいないのだ。


「はぁ……」

「どうしたんですか? イーヴァルディの息子様」


 いつの間にか後ろに立っていた、薔薇のように赤い髪をした幼い少女。

 涼しげなノースリーブの上着に、ピンク色のスカート。


「カノか。僕は何も残っていないドヴェルグだと実感して、自信を失った所だ……存分に笑え」


 幼い少女──カノは柔らかい微笑みを見せた。


「ふふ、残ってますよ」

「こんな僕に何が残ってると言うのだ。競い破れた鍛冶か?」

「──私の感謝、私の命、私の想いです」


 上っ面だけの慈善活動で、子供達に家を与えて一時だが命を救った事だろう。


「何度も言わせるな、あれはただの偽善だ」

「では、私も何度でも言います。私は──誰でもない、何物でも無い、イーヴァルディの息子様。あなたに感謝しているのです」


 ちょっとした名声を得るために、気まぐれで子供達に支援しただけだ。

 その後に色々と放置したり、酷い事をしようともしていた。

 いや……それを、僕達──大人以上の度量を持って(ゆる)してくれたのがカノだったな。


 ……我ながら自分が、情けなくなってくる。

 まったく、本当に……。


「きゅ、急に泣き出してどうしたんですか? イーヴァルディの息子様……」


 僕の事を心配して、ボロボロと涙をこぼしている顔を覗き込もうとしてくる。

 これだから無邪気な子供は嫌いなんだ。


「あ、もしかしてお酒を飲みたいんですか? こっちに来てから飲んでませんよね」

「お前達の前では飲まない」

「私の前では良いですよ。ヒミツにしますから」

「飲まん……」


 カノは残念そうに(うつむ)いてしまった。


「そうですか……。あ、でも、私が大きくなった時は一緒に飲んでくれますか?」


 ずっと食い下がられても面倒臭いので、仕方なく(うなず)いておいた。

 ……そういえば、カノだけはバカ息子と呼ばないなと思いだした。

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