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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック
第四章 神槍精製

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103話 1万と2つの祝福(幼年期の終わりに)

 私は藍綬。

 主人に投げ捨てられた戦乙女です。

 信じられないと思いますよ。


 映司さんが勝っていたはずなのに、いきなりグングニルと私を投げ捨ててですよ?

 無意味にも殴り合いを始めちゃうんですよ、男子2人が。

 止めに入ったら、


『今、いいとこなんだ!』


 とか……、


『女がしゃしゃり出て来んな!』


 とか言われたので、2人の顔面に大盾とメイスを投げつけて現実空間に戻ってきました。


「はぁ……」


 私は溜息を吐きながら、外で待っていたフェリさんへ近付く。

 今は疲れ切って小学生モードなので、モデルみたいなスタイルのフェリさんを見上げるような感じだ。


「フェリさん、聞いて下さいよ……映司さん酷いんですよ」

「うん! いきなり投げ捨てるのはダメだな! あのままグングニルとランドグリーズを装備したまま、ガルムを容赦なく攻撃した方が良い!」

「そうそう、いきなり捨てられ──って、あれ? 何で知ってるん……ですか?」


 私は嫌な予感がして若干、血の気が引いた。

 耳を塞ぎたくなる衝動が襲ってくるが、最悪の自体を想定してしまって両手が動かない。


「あ、2人の戦いに興味があったから、今回の疑似空間はリアルタイムで中身を見られるようにしてもらった!」

「……つまり、その、あの、ですね? 私の声とかも──」

「うん! エイジに頼られてすごい嬉しそうな表情で、見てるこっちも幸せになった!」


 頭が真っ白になった。

 周りのドヴェルグや、ハーフエルフ等の観衆もニコニコしている。

 空に浮かぶ、ユグドラシルが用意したっぽい超特大ホログラフ風ビジョンには、リアルタイムで疑似空間内の映像が映っている。


『尾頭映司ィ! どうしてお前はそんなに強くなったぁ!』

『んなものォ! 誰かを救うために決まってんだろォ! これからはフェリを救い続けるためにもっと強くなってやらぁ!』


 ひたすら素手で殴り合いながら、子供のように感情むき出しの言い合いをしている2人。

 それが住人全員に晒し者状態。

 フェリはニッコリ笑って、こちらの肩を叩いた。


「ワタシとランドグリーズ、一緒に公開処刑だな!」

「そう……ですね………ははは」


 周りからの視線もヤケに温かい。


「今日は星誕祭だ! きっと星の意思様も応援してるぜ!」

「ありゃあエイジってやつに振り回されそうだな」

「たまにはワガママを言って、守ってもらうのも女の子の特権よ?」


 本当に全て聞かれていたらしい。

 観衆から飛んでくる野次の内容がことごとくココロを直撃して、精神をガリガリと削ってくる。

 私は顔を真っ赤にしながら、人に見せられない表情を両手で隠しながら崩れ落ちた。


『なんでテメェは誰も殺さない、尾頭映司! 今回もイーヴァルディの野郎を開幕ぶち殺して、エーテライトを星の意思から強奪すればはえーだろ!』

『うっせぇ! フリンやフェリ、風璃や藍綬みんなに顔向けできねーんだよ!』

『あの霧の巨人の王スリュムと戦った時もそうだ! 天上の階位が二つ差もあったらしいじゃねーか! なんでそれで無謀にも立ち向かえた!』

『あの時はフリンのためだ!』

『聞いた話では、知り合ったばかりのガキだろう!? そんなのただの他人だ!』


 まだ延々と殴り合っている2人。

 大音量が街全体に響いている。


『手の届く距離で困ってる誰かがいたら、本気になって救ってやってるだけだ! 悪いか!』

『っこの! 偽善者野郎が!』

『助かりゃ何でも良い! どうとでも言いやがれ! 犬野郎!』


 ……これは誰かに聞かれたら憤死ものである。

 私も中でテンションが上がっている時は平気だったが、冷静に外に伝わっていたと思うと……。

 そんな感じで殴り続け、言い合う場面が延々。


 2人ともアザだらけになり、全身が腫れ上がっている感じだ。

 だが、傷が増えて行くにつれ、反比例するように満足げな表情が増していく。


『尾頭映司ィ……オレぁわかっていたぜぇ……。最初から主神へ至る才能……心の強さを、優しさと一緒に持っていたって事はよぉ……』

『うるせぇガルム……今すぐその口を塞いでやらぁ……』


 両者、フラフラになりながら最後の力を拳に込め、クロスカウンター。

 何かもうすぐ、公開処刑は終わりそうである。

 いつの間にか良い雰囲気になってるが、男の子って殴り合うと仲良くなるのだろうか……不思議な生き物だと思ってしまう。


「勝った……勝ったのはオレだぁ……」


 勝者が決まった瞬間、疑似空間は消失した。

 その場に倒れている映司さんと、ギリギリで立っているガルムさんが出現した。

 たぶん、肉体的な性能差でガルムさんの方が優れていたのだろう。


 映司さんも、私を捨てなければ圧勝だったのに。

 呆れたような溜息が出てしまうが、一生懸命がんばった私のご主人様だ。

 昔から自分を犠牲にする優しい悪癖を持つ、世界一素敵な人だ。


 駆け寄って、抱きかかえ──。


「エイジ、大丈夫か?」


 私より先に、フェリさんが。


「ごめん、フェリ。負けちまった」

「確かに負けたけど、エイジの気持ちは伝わってきたよ」


 そのまま──フェリさんは、エイジさんの頬にキスをした。


「フェリ!? え、あの!?」

「ふふ。ワタシによる、ワタシのための、ワタシへのご褒美」


 私は、2人の幸せそうな姿を見て嬉しかった。

 フェリさんは良い人で、映司さんは照れくさそうな顔をしている。

 でも、不思議と駆け寄ろうと伸ばした手はどこまでも遠く、そのまま立ち止まって力が抜けてしまう。


 気持ちがいくつも乖離してしまい、どうしていいのかわからない。


「フェリの姐さん!? 勝ったのはオレですよ!? 普通、こういうのって勝者に──」

「うーん、でもガルム、手加減してもらった勝利を誇るのは格好悪いと思うよ?」

「うっ」


 ガルムさんはうつむき、耳をペタリと落ち込ませてしまう。

 ──そのとき突然、地面から声が響いた。


『小さき者よ、よくぞその手でグングニルを生み出した』

「星の意思か。どうだ、これでイーヴァルディの息子、いや、その母であるイーヴァルディすら上回った、最高の鍛冶士として認めてもらえるな?」

『それは今から証明してもらおう』


 観衆達がざわめく。

 各自が身に付けている装飾品の一部が白光したためである。


「流れ星の腕輪が光った……いつもの星誕祭より早いな!」

「フィナーレが近付いてるって事か!」


 観衆達の雰囲気的には、毎年同じ様な感じなのだろうか。


「確かあれ、ケンと一緒に買い物した時にオススメされた流れ星の腕輪ってやつだよな?」

「はい、今日の星誕祭に住人全員が付けておいて、星の意思様の祝福で光って、一年の繁栄を願うんです。……けど、今日はいつもと何か違いますね」


 ケンは首をかしげた。


『グングニルの最高スペックは、その身を1万本(・・・)まで分かつことが出来る。そして、流れ星の腕輪を付けた今の星誕祭参加者は──1万人(・・・)

「えーっと、嫌な予感が……」

『私達の炎の魔剣を壊した事なんて全く気にしていないが、全く以て気にしていないが』

「それ私怨」

『今から10秒以内に、全員の流れ星の腕輪を同時破壊できない場合は、住人に不幸(・・)が起きるだけだ』

「まじか」


 映司さんは起き上がり、グングニルを拾い上げ、大急ぎで真上へ投擲した。

 それは一瞬で光の雨となって広がり、1万人へ舞い降り始めた。


『おっと、言い忘れていた。そこのイーヴァルディの息子は、欲張って2個余分に流れ星の腕輪を付けている』

「ひぃっ、僕は偉いからいっぱい付けてただけなのに!? み、見捨てないでぇっ!?」


 壁に打ち付けられた後、倒れて放心状態だったイーヴァルディの息子。

 急に自分に危険が迫っていると感じ取ったため、ジタバタと暴れ始めた。

 常識的に考えて、立場を失った自分を助けてくれる人間なんて、誰もいないと分かっていたからだろう。


「フェリ!」


 映司さんは、視線を送った。

 フェリさんはそれを一瞥。

 一瞬にして、2人は同じ方向へ走り、交差するように黒き炎剣と爪を(はし)らせた。


「ひえっ!? あ、ああああ、僕たすかっ……た?」


 1万の残光を背に、2人はイーヴァルディの息子の流れ星の腕輪を砕いていた。

 一瞬のうちに、視線を交わしただけで──だ。


「かなわないなぁ……」


 つい、私は呟いてしまった。

 こんな時、いつもアドバイスをくれたランドグリーズ(・・・・・・・)の声は聞こえない。

 でも、もう私も子供では無い。


 こんな事で、決心は揺るがない。

 ──どんな手段を選んでも映司さんと風璃を守る。

 例え……それが終焉をもたらす神殺し──フェリさん相手だとしても。





 ──その日、聖剣の故里にもたらされた1万と2つの光は、幼年期の終わりへの祝福のようだった。

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