8話 オシャレは女子の嗜み(質屋用)
妹の風璃は、昔は活発な子では無かった。
人見知りで、いつも俺の後ろに隠れているような小動物のような妹。
何をするにもついてきて、何をするにも真似ようとする。
その割に気むずかしく、譲れない部分は絶対に譲らず頑固。
誰に似たんだか。
そんなあいつだったが、ある日を境に変わった。
学校でイジメにあっていたクラスメイトを助けたらしいと噂で聞いた。
その後、イジメの標的として風璃は被害にあった。
だが、それを自力ではね除けた。
それまでただの小動物のような妹だったのに、そんな逆境に打ち勝っていた。
きっと、俺が想像出来ないような辛さ、変化があったのだろう。
俺は、誰かを守るために強くなった妹を誇りに思う。
「あ、映司お兄ちゃん。このフリンちゃんの靴、クロノスさんからのお金で買っていいよね?」
「ん、ああ」
今日は、駅前のブランド店が並ぶような場所へショッピングにきている。
俺的にはショッピングではなく、ただの買い物と呼びたいが、風璃とリンディの女子組がいるとどうしてもそっち寄りになってしまう。
個人的な感覚では、買い物なんてパパッと買ってすぐ帰りたい。
「やった! 誰かのお金でショッピングってサイコー!」
風璃は強くなったと言うより、色々と通り越して腹黒中年のようになっているような気もする。
客観的に見たらこんな女子中学生はモテないんじゃないか……。
「フリンちゃんの靴のついでに、あたしの靴もお揃いの新品っと」
その手に持っていたのはブランド物の革靴2点。
いくら高校生の俺でも分かる。
さすがに中学生と幼女が使うもんじゃねーだろと……。
「な、なぁ。フリンくらいの歳でブランド物ってどうなんだ」
「はぁ!? 映司お兄ちゃん何言ってるのよ!?」
凄い剣幕で返されてしまった。
そんなにおかしな事を聞いてしまったのだろうか……。
「まだ小さいから肌や髪を痛めるようなオシャレは楽しめないけど、服とか靴なら歳は関係ないわ!」
「あ、うん。そうなのか」
確かに小さい時から髪染めや化粧品は、知識が無い俺から見たら不安になってしまう。
そういう事を考慮しているのなら、風璃の意見の方が正しいのかもしれない。
そもそも、女の子の事なんて1ミリも分からない。
「あと、ついでって事であたしの分も買えるし、いらなくなったらブランド品は質屋に入れれば結構良い額になるし!」
たぶん、こっちが本音だろう。
我が妹ながら恐ろしい発想だ。
……クロノスさん、色々とごめんなさい。
そういえば、クロノスさんの事で思い出した。
やっぱり、これ以上は迷惑になるし、前に使った時間操作は封印しよう。
アレも異世界序列の最下位になった原因だろうし。
* * * * * * * *
結局、資産価値的に高そうなブランド物を買い漁った。
何だかんだで、フリンも地球のファッションとやらを楽しんでいたらしいので、結果的には良かったのかも知れない。
「ねぇ、映司お兄ちゃん。似合う? 似合う~?」
風璃は、帰宅して荷物を漁り、新品の靴を家の中で履く。
きっと両親がいたら床が傷むから~と言われそうだが、やってみたくなる気持ちはわかる。
くるくるとその場で回り、片足をあげて女の子らしいポーズをしている。
「何かその靴、長いな」
「いや、そりゃブーツだし」
「それが噂の……」
「さすがに普通知ってるでしょ……」
普段使ってる靴以外の種類なんて高下駄、ゴム長靴、登山靴とかしか知らない。
どうやら靴とは奥深い物のようだ。
いや、待てよ。
ブーツとやらは映画とかで見た事がある。
「思い出した、マッチョな俳優が軍人役で装備していたな! 敵の顔面を蹴るためのものだ!」
「凄まじく偏ったブーツ感だと思うんだ、映司お兄ちゃん」
一応は合っていたらしい。
やはり映画の知識は素晴らしい。
退役軍人の無双アクションで印象深く残っていて良かった。
「そういえば、フリンはファッションとか楽しいのか?」
買い物をしている最中も、ずっと風璃の言葉に頷いてばかりだった。
幼女な神様の視点としては、どんな感想なのか聞いてみたい。
「うーん、上級の神ともなると、自分の姿形を自由に操る事が出来ます。それこそ地球で言うファッション感覚として。……なので、身につける物で楽しむという感覚こそ最初は分かりませんでした」
3つのシモベの黒いやつみたいに姿形が自由自在というわけか。
確かにあいつが服とか装飾品で楽しんでいるシーンは思い浮かばないな。
「ですが、誰かが考えに考え抜いた物を身につけるというのも、何とも言えない楽しみを得る事ができます」
「ええと、つまり着飾るの好き?」
「はいです!」
フリンは真新しいブーツの感触を確かめた後、風璃と買ってきた服をあれやこれやとし始めた。
神でも幼女でも、女の子は女の子という事なのだろう。
クロノスさんからもらっている資金の大半がファッションに消えそうな予感もする。
そういえば、こういう移住する神に対する資金って、俺達も作っておかなくていいのだろうか。
まぁ、それも追々やっていくのかな。
今は、目先の問題から潰していくのが先決だ。
俺は、フリンから分け与えてもらった権限で、異世界エーデルランドの立体ミニチュア映像を呼び出す。
それと同時に、ユグドラシルの仲介で送られてくる異世界住人達の不満の声をウィンドウに映し出す。
新着で一件、大きく表示される。
『無血解決及び、魔術師のダンジョンから発生したドクローションによって、移住者が増加したので、異世界序列が600位上昇しました』
お、あれって良い効果もあったのか。
観光名所的にでもなったのかな?
俺は続きに目を通す。
『ただし、ドクローションを求めるような移住者は変態的な者が多く、不満が出始めているようです』
……これはフリンに見せてはいけない内容だな、うん。
『現在、貴族達にも影響を及ぼし、流入してきた新たな性癖である靴フェチ勢力によって──』
もう嫌だ、先を読みたくないぞこれ……。
何か見た所深刻そうでもないし、これはスルーでいいだろ。
すっごいアレな予感もするし。
「さてと、飯の準備でもするか」
俺はこの時、風璃がチラ見していた事をまだ知らなかった。




