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朝岡物件

ため息が漏れる。

面接はもう9連敗だった。

就職なんてすんなり決まるものだと思っていた

少し前の自分をぶん殴りたかった。


(はあ、とにかく今日はもう帰ろう)


とぼとぼと歩く。

以前は、ネクタイを締めて頭を下げなきゃいけない

サラリーマンなんて絶対なりたくない!

なんて考えていたが、今は街ゆくサラリーマンが

心底羨ましかった。


(喉乾いたな…)


なんだか何もしていないのに、喉は乾く自分に

腹が立ったがそれでも乾くものは仕方ない。

自販機を探す。

すぐに見つかった、

ひとつ脇にそれた路地のなかにあった。

硬貨を入れてボタンを押す、

缶をとるためにしゃがむと

自販機にも見下されているような気がした。


(ダメダメ!卑屈になるな!)


自分を元気づけ

コーラの缶に口をつけた時、一枚の

手書きの広告が目に入った。


『社員募集!学歴、経験問いません。

本人のやる気を重視します!


飛び込み面接OK!事務所ここから真っすぐ5分』


紙の端には朝岡物件と書かれていた。


(不動産屋かな?なんか怪しい雰囲気あるなー

めちゃくちゃ軽いのりで社員募集してるし

第一こんなとこに広告貼ったってだれも見ないよ)


そう馬鹿にして、家路につこうとしたとき

こんな考えがよぎった。


(誰も見ない?ということは競争相手はいないんじゃないか?)


(いやいや、何を考えてるんだ僕は。

こんな訳の分からない広告を信じるなんて、

こんな怪しい会社とは関わらない方がいい

そもそもホントにそんな会社あるのか?

誰かのいたずらじゃないのか?きっとそうだ!さあ、帰ろう)


そう思っても心の中にもやもやが残る。

もしかしたらこれは神様が僕にくれたチャンスで

逃せばもう就職なんて無理なのかも、

そんな風に考えてしまう。

(どうせ暇なんだ、会社があるかどうかだけ確かめてみよう)


家に向けた足を路地の奥へと返した。


(おかしいな広告には5分て書いてたのに

もう15分は歩いてるぞ)


普通の精神状態ならあんな広告を信じて15分も歩くなんて

ことはなかっただろう。

しかし就活に疲れた僕の心は、会社はあるのか?

という疑問からあってほしいという願望に変わっていた。

だから歩いた、朝岡物件にたどり着くと信じて。

そこから更に5分程歩くと行き止まりになっていた。

そしてそこにあったのは、朝岡物件の看板を掲げる

小さな事務所であった。


(あった!信じて歩いてよかった!)


嬉しかった。

この事務所を見つけた時点でもう就職が決まったように

思えてしまった。もちろんそんな訳はない。

会社があるのかを確かめるだけのつもりだったが

今はそれだけでは済ませられなかった。


(よ、よし!入るぞ!)


広告には、飛び込みOKとあった。

今入れば面接を受けさせて貰える。

しかし、一歩踏み出す勇気がもてない。

いや、正確にいえば事務所は建物の2階にあるので

階段の段数分、数にして12歩分の勇気が必要だった。


(しっかりしろ!ここでこのまま帰ったら

ただ20分歩いただけの間抜けじゃないか!行くぞ!)


足が動いた。

こんなに緊張するのは久しぶりだ、

今までの面接ではこんなに緊張しなかった。

思えば真剣さが足りていなかったのかも。

心のどこかでは次があるさ、なんて思っていたのかも。

今は違う。ここを逃せば他はないと思っている。

階段に足をかける。

また喉が乾いてきた、しっかり喋れるだろうか。

考えれば考えるほど緊張する。


(もう、昇りきっちゃった…)


踏み出すのにはあんなに勇気を要求するくせに

昇り始めれば、とてつもなく短い。

この階段はなんて意地悪なんだろう。

とにかく目の前の扉を開けなくてはいけない。

もう迷いはなかった。

ドアノブに手をかけようとした、その時

扉はひとりでに開いた。


(え?まだ触ってもいないのに)


不思議に思ったが、すぐに気がついた

なんて事はない、向こうから人が出てきたのだ。

予想外の事に落ち着きかけていた気持ちが

また揺れ出した。


(よりによってこんなタイミングで!)


逃げ出してしまいたかったが、もう遅い。

扉から出てきたのは小柄でショートヘアの女性だった。

女性は不思議そうに僕を見つめている。


「あ、あの!求人を見てお伺いしたのですが!」


声が跳ねた、恥ずかしい。


「あ〜、面接の方ですね!ちょっと待って下さい」

「社長〜!面接!面接受けに来てくれましたよ!」


女性は事務所の奥に向かって大きな声で呼びかけた。


「じゃあ、中に入って待ってて下さい、

すぐに社長が出てきますから

私お昼買いに行ってきますからー」

ニコッと笑って女性は階段を降りていった。


(可愛らしい人だなー)


女性の笑顔のおかげでかなり緊張がほぐれた僕は

言われたとおり、事務所の中へ入った。

しばらく待っていると、奥の部屋から


「あー、悪いんだけど

こっちの部屋きてくれるかな」


呼び出された


「あ、はい!」


小走りで奥に向かうと、社長室と書かれた部屋があった。

ノックして返事を待つ。

ない。返事がない。

聞こえなかったのかな?

少し強めにノックすると、社長室の左どなりの部屋から

返事があった。


「ごめんごめん、そっちじゃなくて

こっちの部屋。」


声のした部屋の扉には仮眠室と書かれていた。

社長は寝てたのか?昼間から?

やっぱりちょっと変な会社なのかも。

一応もう一度ノックした。


「どうぞー」


返事があったので


「失礼します」


声をかけてドアを開いた。


部屋にはベッドに腰をかけた40代くらいの

男性がいた。

ここで面接する気なのだろうか。


「あー、君も座って」


男性は自分の隣を軽く叩きながら言った。


「あ、はい」


言われるがまま、僕もベッドに座る。

異様な面接会場だ。


「どうも、社長の朝岡です。

今日は面接受けに来てくれてありがとね。

じゃあ、さっそくだけど自己紹介してくれるかな?」


なんだか独特な雰囲気の人だ。

とにかく言われたとおり自己紹介した。


「名前は高橋徹です。

最終学歴は…」


そこまで言ったとき


「あー、そういうのはいいよ

うちの仕事は学歴関係ないから」


「はあ、それでしたら

どういったことを?」


「趣味とか好きな食べ物でいいよ」


本気でいってるのかこの人?

そんな小学生が新しいクラスでするような

自己紹介をやれと?

というか、僕も僕で仕事の内容も聞かずに

面接受けちゃってるし…

いやいや、迷うな。やるしかない。


「えーと、趣味は映画鑑賞です。

好きな食べ物はー、焼き肉です。」


なんか凄い恥ずかしい!

この歳になってこんな事するなんて


「へー、僕も映画好きだよ。焼き肉もね」


よし!なんだか知らないけど受けがいいぞ!

社長はそのまま続けた


「まあ、自己紹介も済んだことだし

うちの会社の説明に入るね」


自己紹介あれで終わりかよ!

僕の驚きを意に介さず社長は説明を始めた


「まあ、名前の通りうちは不動産屋なんだけど、

紹介する物件は住むためとか、オフィスにするための

ものじゃないんだ。」


「どういうことですか?」


「うちが紹介するのは『死に場所』なんだよ」


は?

やばいやばい、何言ってんだこの人。

やっぱりこんなとこ来ちゃ行けなかったんだ!


(帰りたい!)


僕の心境を察したのか社長は言った


「意味分かんないって思ったでしょ?

大丈夫、別に無理矢理殺したりする訳じゃないから。

人生を終わらせようとしてる人の手伝いをするのが

僕たちの仕事だから」


どこがどう大丈夫だというのだろうか


「どうかな?

僕としてはもう君を採用する気でいるんだけど?」


ホントマイペースだなこの人!

こんな訳の分からない仕事出来るはずがない

断ろう!


「あのー、面接受けに来ておいて

申し訳ないんですけど、辞退させて頂こうかと…」


「えー、残念だなー

まあ本人が嫌というなら仕方ないけど

君、大丈夫なの?こんなとこまで面接受けに来ってことは

相当追詰められてるんじゃないの?」


(うっ、それを言われると…)


「うちに来てくれれば月40は出すんだけどなー」


(40!?40万!?初任給が40万円!?)


思わず喉がなる

僕は社長の顔を見てこう言った


「ぜひ御社で働かせて下さい」


社長は笑いながら答えた


「よし!決まり!よろしくね!」


「はい!よろしくお願いします!」


僕の笑顔は引きつっていたかもしれない。

決まってしまった。

得体のしれない会社に内定が。


「いやー、助かったよ

君みたいに若い子が入ってくれて

張り紙に20分なんて書いたら誰も

来ないと思って5分って書いたんだけど、

20分て書いてたら来てくれてた?」


突然質問された

その意図はわからなかったけど


「いえ、来てなかったと思います」


正直に答えた。


「だよね!」


なんでそんなに嬉しそうなんだ

ていうかさっきまでと雰囲気違うな。


「ただいま〜」


玄関から声が聞こえた


「黒田君!お帰り!

やっぱり5分って書いたのは正解だったよ!

彼も20分なんて書いてたらこなかったって

言ってたよ!」


黒田と呼ばれているのは先刻の女性だった。


「えー、でも嘘書くのはやっぱりいけないですよー」


そうか社長は黒田さんの反対を押し切って

5分て書いたのか…

どうでもいいわ!


「どうも、事務員の黒田です」


黒田さんは僕に軽く頭を下げて言った


「あ、どうも高橋です。

よろしくおねがいします!」


黒田さんより頭を深く下げて言った。


「分からない事があったら、何でも聞いてくださいね」


ああ、この笑顔が見れるだけでも

ここに就職してよかった、そう思える笑顔だった。


「社長はいつもあんな感じなんですか?」


一番の疑問をぶつけた。


「ええ、寝起きは元気ないんだけど

目がさえてる時はあんな感じです」


そうか、さっきは寝起きだったから雰囲気が違ったのか。


「でもでも!あんな感じてすけど

社長はすっごく頼りになるんですよ!」


社長は人望があるようだ。

まあ良い人そうだもんな。


「ここで働いてる方は何人くらい

いらっしゃるんですか?」


質問を続けた。


「社長と私をあわせて5人です。

高橋さんを入れると6人ですね

みんなもう少ししたら帰ってきますよ」


(あと3人いるのか…)


「ただいま戻りましたー」


玄関には男が2人女の子が1人立っていた。

どうやら残りの3人のようだ。


「あれ、3人一緒に帰ってきたんですか」


「たまたまタイミングが重なったんだよ」


黒田さんの問いかけに答えたのは真ん中の男性だった

爽やかな感じでいかにも仕事ができそうだった。


「そちらの方は?」


男性が続けた


「あ、今日から一緒に働いて貰う高橋さんです」


「高橋です。よろしくお願いします」


「あ、そうだったんだね

僕は滝川、よろしくね」


「俺は武田だ、よろしくな」


「よろしくお願いします、滝川さん、武田さん」


女の子にも挨拶しようとしたが

女の子は僕の顔も見ずに自分のデスクについてしまった。


「優香ちゃんは少し人見知りするから

君の方からコミュニケーションをとってあげてね

悪い子じゃないから」


滝川さんが僕に耳打ちした。


「そうそう、まだ19歳の子供だし」


武田さんも僕に耳打ちした、つもりなんだろうけど

武田さんの声は大きかった

優香ちゃんはこちらをじっと睨んだ。


「武田、お前声がでかいよ」


「あ、ごめんごめん」


どうやら3人の力関係は

優香ちゃん≧滝川さん>武田さん

のようだ。


「えー、みんな揃ったことだし

早速高橋君の初仕事に取り掛かろうと思う」


「どんな仕事です?社長」


武田さんが聞いた


「うん、今回の依頼は

奥さんに先立たれたご主人からの依頼だ」


「それって、奥さんの後を追って死にたいって

事ですか?」


僕の質問に社長が答える


「まあそういうことだね」


「よくある手の依頼だよ」


滝川さんが付け加えた。


「高橋君は初仕事だし優香ちゃんも

まだ日は浅いから、今回は滝川君について

3人で動いて貰うよ。

武田くんには物件探しをお願いするよ」


「分かりました」


滝川さんと武田さんが同時にこたえた。


「じゃあ行こうか高橋君、優香ちゃん」


「どこに行くんですか?」


「依頼者の所だよ」


遂に初仕事が始まった。

読んで下さってありがとうございます!

初めて小説を書いてみました。

下手くそな文章の上1話目から展開が

遅くて詠みづらかったことかと

思います。すみませんm(__)m

2話目からはもう少しテンポ良く書けると

思います。


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