プロローグ
初投稿です。どきどき……
ぽつぽつと降り出した雨はあっという間に勢いを増して地面をどんどん染めていく。青々とした葉っぱもつやりと光る熟れた果実も、みんな水をぱちゃぱちゃと弾いている。
私たちから離れた場所では傘をさしだす大人、慌てて走り出す学生、カッパを着てはしゃぐ子供とそれを見守る親が整備された道を、平和な街でそれぞれが思い思いに過ごしている。
『グレイ、もう帰ろう。いくら丈夫なグレイでも風邪ひくよ。ね、帰ろう?』
丘の上、海が見えるその場所で私の幼馴染である少年はただ真っ直ぐ前を見つめている。いや、見つめているというのは正しいとは言えない。確かにその瞳に景色を映してはいるだろうけど、その瞳は前のような光は感じられない。
少年が見ているのはこの海の先にある私たちの故郷だろう。故郷を離れてまだ一週間も経っていないのだ。仕方がないと思う
少年ことグレイの黒髪はすっかり雨でへたりこみ、服だって余裕で水が絞れそうだ。その恰好にうへぇと眉を顰める。
おいおいグレイくんよ、君のその服だけで私たち何日分のご飯になると思ってんの?服は大事にしようぜ?そんな立派なもの着せて貰ってんだからさぁ、お世話になってるとこもきっと探してるぜ。
まじで風邪ひいても知らないよーと周りをうろちょろして様子を窺っていれば、案の定肩を震わせているじゃないか!言わんこっちゃない。だからいつも決めてたじゃないか、雨が降る前には帰ってこようって。下手に雨に濡れて風邪なんてひいたら金がバカにならないから。
『しょうがないから私の上着を貸してやろう……なんてね!あはは!んなことできないっつーの!』
一人悲しく騒ぐ私。え?寂しく何てないよ?もともとグレイはドライだからね。気にしない気にならない。
たく、寒いんだったら早く帰ろうよー温かいご飯とお風呂が待ってるよー。ね?とグレイの隣に立って笑いかけてみる。
「……っ」
『……』
唇を噛み、爪が食い込むほどに手にもったペンダントを握りしめるグレイ。
ねえ、そんなことしたら血がでちゃうよ。ねえ、そんなことしたら痛いでしょ。ねえ、お願いだから泣かないで。
そっとペンダントを握る右手に両手を添える。痛いの、痛いの、飛んでけーって。
ごめんね、でも大丈夫。グレイのことは私が絶対に守ってあげるからね。
「――クソガキ、またここにいたのか。傷も治ってねぇのにムリに動けばいつまで立っても治んねーぞ」
「……と」
「ああ?」
「……強くならないと。俺が、俺が強くなって、あいつら全部殺すんだ。それが俺のできる唯一の……っ」
「……本当にお前はクソガキだな」
呆れたようにため息を吐いた顔に傷のある美中年は顔にかかる金髪を豪快に後ろに流す。相変わらず豪快だと思いつつ、来てくれたことにホッとする。よかった。
顔にある傷とワイルドな髭が特徴のこの男、名前をレオンと言うが彼が来てくれれば無理矢理でも濡れ鼠となっているグレイを連れてってくれるだろう。
『レオン、さっさとグレイを連れて帰って。グレイが風邪ひいちゃう』
「ほら、さっさと帰るぞ」
私の言葉が伝わったのかは定かではないが、いつまで立っても動く気配のないグレイに苛立った様子で腕を引くレオン。そんな厳つい顔をしてると人攫いに間違われるぞー。
動き出した2人の横をついて行けば、下をずっと見ているグレイの誰にも聞こえないだろう言葉を拾ってしまった。
「なんで俺なんか庇ったんだ……なんで死んだんだよ、ティア」
ごめんね、1人にして。ずっと一緒にいたのにね、ごめん。
咄嗟に体が動いちゃったんだ。もう自分でもあんなに早い動きできるんだって感心しちゃうくらいに。
もう君に私の姿は見えないけど、もう君に私の声は聞こえないけど、もう君に触れることさえできないけど、それでも傍にいるよ。君を最後まで守り抜いてみせるから。
例えそれが物語に反することだとしても。