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ヴェルギス=バーリアヘンゼ二つ名【人竜】

 荒涼とした原野に差す眩いほどの陽光。そのおかげで原野の温度は四十度近くまで上がっている。

 一本角のモンスターや鋭い牙を持つ物が地上を闊歩しているゆえに、ここは人間が生きることができない環境になっている。

 だがそんな不毛の大地に激しく動いている人影が一つ。


「ほぉら!」


 人影の正体は少年だった。人間からは生えることのないコウモリのような片翼と、その反対側の額にある竜角を持っていた。

 彼が今戦っているのは、生態系の上位に位置するドラゴン。

 少年は、自分の身丈ほどある細い直剣を得物として使っていた。しかし、ドラゴンにもプライドがあるため中々死んでくれないでいる。

 ドラゴンは鉱石竜と呼ばれている竜で、皮膚がとても硬い。だから少年の剣戟は、あまり効いていなかった。

 普通なら焦りを見せて、それが原因で死ぬのだが全くそういう色は見せないでいる少年。

 彼は、ドラゴンの周りを走り回る。


「俺は一応、人間様なんでね頭を使うさ。たまにはな」


 そして、ドラゴンが少年を切り裂こうと前脚を振り上げた時だった。

 ドラゴンの重みに耐え切れなくなった地面が陥没し、あらかじめ掘ってあった落とし穴へとドラゴンが落ちる。

 深さは約十メートル。


「お前はちょっと硬すぎるから、牙や角で死んでもらう。今まで俺が食らってきたドラゴンの牙や角とかが底に設置してある。そして底の中央に置いてあるのは、鉱石竜。つまりお前と同族の成体の角だ。突き刺すにはちょうどいいだろ。

 さぁ、死ね。死んで俺に食べられるといい」


 少年が穴を覗くと、数多の角や牙が刺さり絶命した鉱石竜の姿だった。


 少年が鉱石竜を殺してから数時間が経ち、彼は引き上げ作業に追われていた。


「重いな。引き上げるのに何時間もかかるなんて効率悪い……。いっそのこと穴の中で食べるか。いや、気分が悪くなるし食べるには硬すぎるか」


 まあ、いいかと少年は引き上げ作業に戻る。数分後引き上げは終わって解体タイムへと移る。ドラゴンの口を強引に開け、特注ナイフで削ぎ取り使えるところがあればカバンの中に入れ、使えなければギルドへと持ってゆく。


 剥ぎ取りタイムも終了して、少年は街へと戻った。


 カランカランとギルドハウスに入ってきた者を知らせる鈴の音が鳴りひびく。ギルド内にはテーブルが数十個置いてあり、各々のパーティや仲間達が陽気に談笑していた。

 年齢層もよりどりみどりで上は老齢、下は少年までで幅も広い。ギルドといってもモンスター専門だけではなく、遺跡などから遺物を狙うトレジャーハンターなども居る。


 二度目の鈴の音。

 皆がそちらへと向く。するとさっきまでの陽気で明るい雰囲気は一変し、暗くどんよりとした空気へと変わった。

 ドラゴンの返り血を浴びたまま少年は、ギルドに入ってきたのだ。口元には肉の屑がこべりついていて、それを鬱陶しく思ったのか服の袖で乱暴に拭うと受付嬢のとこまで歩く。


「ほら、これが鉱石竜の鱗三頭分。こっちは鉱石竜の鈍角と鋭角。鉱石竜の輝玉もついでに。さっさと報酬よこせ」


 少年は持っていた麻袋を乱暴にカウンターへ置き、中身を見せて言った。

 鉱石竜の素材はそこまでレア、ってわけでもないのだが輝玉に関しては別である。輝玉とは全ての竜から採れる素材の中でも別格のレア度を誇る。売れば一ヶ月遊んで暮らせるほどだ。素材としては鉱石として扱われ、鍛えれば業物の刃になる。


 そんな稀少価値が高い物をついでと言いのける彼は、はたから見てもおかしいことが伺え、強さだけを追い求める化け物として写るのだろう。


「ヴェルギス=バーリアヘンゼさん。いいのですか? 輝玉を普通に売るなんて勿体無いですよ? あと、また竜を生のまま食べたんですね……それでは命がいくつあっても足りません」


 受付嬢は、はぁ……と呆れたような目でヴェルを見ている。


「そんなことはどうでもいい。早く報酬をよこせ。受付嬢としての仕事をしろ」


 ヴェルは冷たく淡々と言葉を並べていく。そして、受付嬢がマルクを数えて麻袋にそれを詰め込んで差し出した。

 彼がそれを受け取ろうとした瞬間、後ろから怒号が聞こえてくる。その声は、怒りに満ちており、はっきりとヴェルのことを指すような言葉だった。ヴェルが振り向くと一人、筋肉隆々のハンターが大剣を構えている。


「誰だお前」


 ヴェルがそう言い放つと男は、鬼の形相で全力全開で大剣を振り下ろした。常人なら潰れるか、反応がいい人なら寸のとこで避けるかなのだが彼は違った。


「遅い……この筋肉ダルマが」


 ヴェルは一瞬のうちに、一足一刀の間合いへと入り込んで強引に大剣を奪うと、すぐさま切り上げた。


 筋肉ダルマの片腕か鮮血と共に空を舞う。当の切られた男は何が起きたのか理解できず、右腕へと目線を移す。そしてやっと自分の身に何が起きたのか、何をして何をやられたのか理解した。その瞬間、右腕が切り飛ばされた痛みが、男を遅い苦痛の叫びを上げた。


 ヴェルは一瞥すると報酬が入った麻袋と筋肉ダルマの片腕を拾って歩く。

 一体何をするのかとギルド内の人間が彼に注目すると、ヴェルは片腕を生のまま食べ始めた。血が顎を伝って床に滴り落ち、人肉を咀嚼する生々しい音が響く。

 ある者はその行動に嫌悪し、ある者は気持ち悪くなったのかその場で吐いた。

 そんな周りのことなど気にすることなく彼は、討伐願いが出ている板まで行き、一枚だけ剥がしてそのまま外へと出て行った。


 その討伐願いが出されていたモンスターは、【暴激竜】ドランギレス。

 ドラゴンで有りながら翼を持たず、移動方法は地上を歩いたり走ったりするのみ。その二つ名は、ドランギレスが歩いた道には何も残らないことに由来している。暴力の限りを尽くし、全ての物を破壊する。

 まず、これを狩るには熟練のハンターが三人ほど必要で、成体が相手なら六人は欲しいところというのが現実だ。

 ヴェルは、肉をブチブチと噛みちぎりながら紙を凝視する。


「場所はアルザス草原か。中々狩りやすい場所だな。てか人肉不味いな。食っても力が湧いて来ないし。ある程度食べたら捨てるか」


 そう言うと家がある方向へと歩き出す。

 ヴェルの住まいは、町の郊外にある誰も寄りつかない場所にある。見た目は廃屋で、中も残念ながら外見通りの廃屋。最低限の設備は彼が自力で集めた。ヴェルはお世辞にも良いとは、言うことができないベッドへと倒れ込む。

 人肉は来る途中に捨てていた。

 得物である大剣は隣に立て掛けてあるのでもし誰かに襲われた時は、すぐに反撃することができる。


 夜が明けて時刻は九時。

 ヴェルはアルザス草原に来ていた。もちろんドランギレスを討伐しにだ。


 アルザス草原。

 そこは古代の遺跡などが数多く点在しており、現在も調査中の遺跡が多い。そしてドランギレスを討伐してくれと紙に書いたのは、調査団だったりする。

 草原という名だけあって、草が膝より少し低い位置まで生い茂っている。時より吹く風に左右に揺れ、元気よく太陽の光を吸収していた。古代の建造物もヴェルの目に入る。

 しかし、彼は興味なさそうに視線をあちらこちらと向けて、暴激竜を探していた。


「チッ。見つからないな。すぐ見つかると思ったんだが。雑魚くらいしか居ない」


 一向に見つからないとぼやくヴェルだが、一人と一匹が相対する時は刻一刻と迫っている。暴激竜の姿は文献によると頭がでかく、手は小さい。しかし脚は異常に発達しており、突進攻撃に注意することと書いてあるのだがヴェルは、そんなことなど知らない。


 彼は探すのかめんとくさくなったのか、草原の奥へと行き、通称秘境の遺跡と呼ばれる魔宮に足を踏み入れた。

専門用語解説


鉱石竜グランドラゴン

表皮が名前の通り鉱石でできており、並の剣では攻撃が聞かない。ゆえに作中でヴェルが仕掛けた同等の硬度を持つ物で串刺しにするのが有効だが、中々同等の硬度を持つ物がないため、正攻法は最近台頭してきたボウガンなどで倒すのがよい。


暴激竜ドランギレス

また登場していないが、名前の通り凶暴で全てのモノを食べ散らかす。ある意味主人公ヴェルと同じである。

おっと誰か来たようだ……


アルザス草原

現在主人公ヴェルが、拠点としている町の東へ行って一時間の場所にある草原。

古代文明の遺跡が数多く点在していて、多数の研究者たちが訪れている。しかし、モンスターも出るため用心せねばいけない。


マルク

この世界の通貨。レートは作者の都合上日本円と同じ。

1マルク=1円

1万マルク=1万円




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