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記憶の彼方  作者: 野津
3/4

晴天と記憶

天を切り裂く刹那の光。それが部屋を、ほんの一瞬だけ黄色く染めた。

雨はやむ気配をみせず、只でさえ暗い部屋をより一層陰鬱とさせ、息苦しさを覚える。

その部屋の窓際には、静かに眠る朝霧いた。


あの事件から丸二日。朝霧を助け、適切な処置をとったが、今だに彼は目を開かない。そして、雨もまた丸二日降り続いている。朝霧が目を覚まさなければ、晴天は訪れないかのように…。


医者は、命に別状はなく、あっても打撲程度だと言っていた。人売りに暴行を受けたにしては、奇跡のような診断結果。ただ、頭を強く打ったようで、そこが気がかりだと。


俺はなにか妙な胸騒ぎを覚えた。あのとき、朝霧の気絶した顔を見たときの虚しさ。あれに似たようなものが、俺の心に巣くっている。

一生彼の瞳はみれない。理由のない不安。そんな縁起でもないことを思いたくはない。だが、思わずにはいられないほど、朝霧の目は堅く閉じていた。


ふと、腹の底に響く雷鳴が聞こえないと思い窓をみる。窓から見える範囲では、どうやら雨が小降りになったようだ。


きっと、朝霧が起きていたのなら、「お空も笑いたくなったのかなぁ。」などと呑気なことを言うのだろう。

雨が小降りになったことで、俺の不安も少しは薄れた。このまま晴れれば朝霧が目を覚ます。まったく根拠のない思いが、俺の心を明るくした。



それが起きたのは、家事を一通り終え、降り続いていた雨が止み、晴れ間が見え始めた頃だった。

眠っている朝霧が居る部屋から、何かが倒れるような音が聞こえてきたのである。


急いで部屋に行くと、案の定、倒れている朝霧がいた。起きて部屋から出ようとしたのだろうか。


「…朝霧大丈夫か?」


返事は返ってこない。まさかまた気絶してしまったのか?

数秒後、倒れていた朝霧がふらふらと立ち上がる。


「おい、気をつけろよ。」


俺がそう言葉にした瞬間、朝霧がどこに隠し持っていたのか、銃を取り出し俺に向け発砲した。

突然のことに驚き、間一髪それを避ける。発砲した衝撃で朝霧はふらついていた。


「何するんだ!」

「いいから手を挙げろ…」


俺の抗議の声を無視し、俯いたまま、小さな声で朝霧は言った。


「挙げないと…撃つ。」


そう言って朝霧は顔を上げた。

どういうことなのか、俺は頭を素早く回転させる。だが、やはり訳がわからない。

それと同時に、深い悲しみや虚しさが、どっと心に押し寄せてきた。


確かに、外は晴れ、朝霧も目を覚ました。予想通りだ。しかし、目を覚ました朝霧は俺に銃を向けている。

いつも隣で笑っていた朝霧が、妙に甘ったるい口調で喋る朝霧が、消えた。

笑っているはずの目は、俺を睨み、警戒している。甘ったるい口調は消え、全てのものを突き放す、棘の生えたものに変わっていた。


朝霧のこんな姿を見たのは初めてだ。

一緒に暮らした中で、朝霧が怒ったことは片手に数える程しかない。

俺はただただ困惑し、目の前の朝霧と思われる人物の指示に従い、両手を挙げた。


「お前、名前はなんだ。教えろ…!」


朝霧が震える声を抑えるように、その言葉を口にした。俺は冷たい不安と、底無しの絶望を感じた。

いつも一緒にいたはずの朝霧が、俺の名前を聞いてきたのだ。忘れるはずのない、俺の名前を。


一瞬、冗談ではないかと嘲笑する自分がいたが、朝霧の目を見たときそれは現実だと理解した。常に儚げな笑みを浮かべている目はそこにはなく、親のいない場所に連れてこられた子供のような目があったからだ。


俺の心に巣くっていた不安はこれだったのか。


医者の言っていた言葉を思い出す。


「目を覚ましたとき、もしかしたら、記憶を無くしているかもしれません。」


医者が言葉にした通り、朝霧は全ての記憶を綺麗さっぱり無くしてしまった。

悲しみなのか、よくわからない感情が針のようにチクチクと心を刺す。


「お前の名前はなんだ。早く答えろ。」


もう一度朝霧がその言葉を発した。震えが収まってきたのか、先程よりも堂々としている。


「夜霧だ。」


俺は名前を答えた。答えたその時、朝霧が本当に俺を忘れているという、非現実的な事実が、心を抉った。


「そうか、夜霧…か…。」


噛み締めるように朝霧が言う。

何時間前の雨が嘘のように晴れ、日射しが木漏れ日のように部屋に滑り込む。

目の前の朝霧もまた、俺の名前を聞いた直後、先程までとは打って変わって、肩を落としうなだれた。


「わからない、自分の名前も、人の名前も、ここが何処かも…」


弱々しい声が、小さく開かれた朝霧の口から零れ落ちる。


「夜霧…だったか…もう、手を下ろしていい…」


俺はずっと挙げていた両手を下ろした。


「なあ、朝霧…」

「それは、僕の名前?」

「あぁ、お前の名前だ。全部、わからないのか?」


俺はあえて、わからないのか?という聞き方をする。この様子だと、記憶を失ったこと自体、わかっていないだろう。


「わからない。おかしいんだ、僕。」


そう言った朝霧の声は、少しだけ震えている。

窓から入り込む日射しが、部屋を柔らかな橙色に染めた。


「おかしいんだ。君のことも自分のことも、どこかに置いてきてしまったみたいで…変なんだ…。」


変だ変だと繰り返す朝霧の声は嗚咽に変わる。警戒していた朝霧はどこへ行ったのか、朝霧はその場にうずくまり、嗚咽を堪えようとしていた。

堪えるような嗚咽を聞くたびに、俺の心には痛みが走る。


あの時、もっと早めに朝霧を追いかけていれば、あの時、あんなことを言って諍いを起こさなければ…。

そんな後悔はしたところで無意味だとわかっている。

なら、俺はどうすればいいのか。記憶を失った朝霧の嗚咽が脳に響く。


「朝霧…、置いてきたのなら、取り返さないか。」


涙に濡れた、記憶を失う前の朝霧よりも強気な目をした朝霧が顔あげた。

こうしてみると、所々違うことがわかる。


「取り返す…?」


疑うように繰り返すその声は、紛れもなく朝霧の声だ。だけど、どこか違う。そこに違和感を感じたが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。


今の朝霧を泣かしてはいけない、俺が守らなければならない、という使命のようなものが奥底から湧き上がる。

そして、確実に朝霧を取り戻す。

だからうずくまっていた朝霧に、このことを提案した。口下手な俺にしては、勇気を出したものである。


「…僕も、記憶を取り戻したい。」


小さくて震えているが、芯の通った声が聞こえた。


「俺も手助けする。絶対に取り戻そう。」

「…うん。」


もう一度、固く閉じていて瞳を覚まさせる。

こうして、朝霧の記憶を取り戻すための扉が開かれた。




更新しました。期間空きすぎちゃいましたね…。

5月か6月頃までには終わらせたいですー。


今回はお風呂という環境で書いてました。なかなか捗る捗る捗る。

ジップロックさんにお世話になりました。ジップロックさんありがとう。君のことはこれからも利用する。


やっと朝霧くんの記憶消えました。

頭ぶつけたくらいで記憶喪失になるかはわかりませんが。

医学的にみたら小説なんて結構間違いだらけなんでしょうねぇ…ひぇ。


夜霧くんと記憶喪失朝霧くんのハッピーホm…記憶を取り戻す旅はどうなるのか!!旅しないけど!!

とりあえずこっからは趣味やら僕の性癖やらに走ると思いますのでごめんなさい。




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