雷鳴の中
暴力的表現が含まれます。
前を誰かが走っている。俺はそれを追いかける。
何故かは、わからない。
ただ、前を走る誰かを連れ戻さなければ、という焦りが俺の足を加速させた。
しかし、どんなに走っても、どんなに急いでも、前を走る誰かに追いつけない。
待ってくれ!止まってくれ!
空を割るような雷の音で、俺は目覚めた。
どうやら、眠ってしまっていたらしい。
寝起きの所為か、宙を漂うようなふらふらとした感覚が残っている。
それにしても変な夢だ。夢というのは、後から思い返すと、とても馬鹿馬鹿しいものに感じる。
前を走る誰かに追いつけない…。そういえば、朝霧はまだ帰ってきていないようだ。
先程の雷を思い出し、急に不安になる。大丈夫だ、と言う自分と、何かあっては遅い、と言う自分。さて、どちらを取るべきか。
念のためだ、探しに行こう。そう思い、俺は椅子から立ち上がる。
首を回すと、寝違えたのか鋭い痛みが走った。
腰に愛用の刀を差し、外に出る。空を見上げると、真っ黒な雨雲が空を支配していた。
きっと、朝霧のことだから、無我夢中で走ったに違いない。だとすると、どちらの方角かも考えぬまま、真っ直ぐ走っただろう。
俺は、以上のことを想定し、真っ直ぐ続く道を歩いた。相変わらず、雨は弱くならない。おまけに、雷はすぐ近くに落ちているようだ。傘を差していたら、雷に打たれてしまいそうなほど近い。
朝霧のやつ、雷に打たれてないだろうな…。
暫く歩いていると、寂れた町にでる。そこには、一昔前までは繁華街として軒を連ねていたであろう建物が、忘れ去られたように残っている。
少し雨が弱くなってきた。
「おい、こいつ死んじまったか。」
「息してんだから生きてるだろ。」
「ピクリとも動かねえぜ?」
そんな声が、雨音に混ざって聞こえた。
声のした建物の陰に近づくと、四人の男達が何かを取り囲んでいた。
今の会話からして、取り囲まれているのは恐らく人間だ。
男達は人売りだろう。
よくまあこんな人のいない所に来たな…。
雨がまた強く降り出した。
雷鳴が響く。
ここに朝霧はいないと思い、この場を去ろうとしたとき、俺は気づかれた。
「おい、誰かいるぞ。」
四人の男の内の一人が言った。
どうやら、戦わなければならないらしい。
俺はゆっくりと、刀身を鞘から抜いた。
「あー?なんだ兄ちゃん。俺らに用か?」
薄汚い男がそう言った。
特に用もない。無言で刀を向ける。
「おい、その兄ちゃんのことまだ殺すなよ。結構美形だし、高く売れそうだからな。」
男の内の誰かが言った。
「なあ、兄ちゃん刀持ってんじゃん。そういや、この坊やと格好とか似てるし、政府のもんじゃねえか?」
格好が似ている?
その坊やと呼ばれて奴は、男の陰に隠れて見えない。
雷に打たれたような衝撃とともに、確信する。朝霧だ。探していた物がやっと見つかった安堵感と、未だかつてない自分の無力さに辟易する。
あの男達の調子だと、相当暴力を振るわれただろう。早く助け出さなければならない。助け出さないと…。
また、雷鳴が響いた。近くに落ちたようだ。
ここまで来たのだ。容赦はしない。
男に向けていた刀を両手で持ち、よそ見をしていた男を斬る。
剣道の構えの方が刀にも力が入るため、男は顔を真っ二つにされた状態で後ろに倒れた。
男達がどよめく。
一人が立ち上がり、銃を俺に向けた。何か喚いている。
その銃には見覚えがあった。朝霧の銃だ。
刀を両手から右手に持ち替える。
男は銃を発砲した。しかし、その銃は腔発し、男の手を黒こげにする。
隙を見て、俺は素早く踏み込み、刀を横に凪払った。
男の首が飛ぶ。主を無くした体は、ふらふらとしたあと前に倒れた。
真っ赤な液体が、雨に濡れた地面を侵略する。
すっかり怯えきった男二人が、朝霧を抱え逃げようとした。金になると思ったのだろう。しかし、そうはさせない。
両手で刀を持つ。男達の震える声で交わされる会話が、雨音によって掻き消される。朝霧を抱え背を向ける男達。俺は大きく一歩足を踏み込み、一人の男の心臓があると思われる箇所を、一突きした。
男は口から血を吐きながら倒れる。
残るは一人。朝霧を抱えた男は、腰が抜けたのか、へたり込んでしまった。
「そいつを離せ。」
朝霧を離さない小太りの男に命令する。
「嫌だ…嫌だ!し、死にたくない!死にたくない!生かしてくれ!!」
男は無惨なことに、失禁した。
「なら、そいつを離せ。」
男は片手で抱えていた朝霧を離し、両手を挙げた。
刹那、男の頭が飛ぶ。きっと状況が理解できなかったのだろう。飛んだ頭に付いている目は、見開かれていた。
全員殺した。地面は真っ赤だ。
刀を鞘に戻し、朝霧に駆け寄る。浅い息をする朝霧。命はあるようだ。華奢な体は呼吸に合わせ、小さく揺れる。
気を失っているのだろう。瞼は堅く閉じていた。何故だか俺は、白い睫毛に縁取られた瞳は一生見られないような、そんな虚しさに襲われた。
首を振り、それは無い、と自分に言い聞かす。
朝霧を抱え、急いでそこを後にした。
やたら暴力的になってました。
夜霧くん怖いよ。でもヒーロー夜霧くんですね。
かっちょいい。
しかし、腔発による被害ってどれくらいなんでしょうかね?
朝霧くんは手袋はいてるし、傷くらいですみそうですけど(手袋ズタズタだろうけど)、今回のリンチ野郎は素手だし…
教えてーエロい人ー!