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相談係の受難

シスコン兼マゾと百合兼サド兼ブラコン兼ツンデレの兄妹に挟まれて困ってます。

作者: 柚篠やっこ

「昨日、駅前で百合が見知らぬ女性と楽しそうに笑い合いながら歩いているところを見たんだ」


月曜日。

今日は、兄の方に呼び出された。

昨日、というからには日曜日。

多分、友達と遊びにでも行ったんだろう。


「別に、おかしくないと思いますよ? 百合様だって、お友達と遊びに行くくらいはするでしょうし」


すると、篠宮先輩は言うことを聞かない子供をあやすベビーシッターのような目で私を見る。

何ですか、その目。

………… 私、本当にこの人が好きだったんだろうか。今でも疑いたくなる。


「違う! そうじゃないんだ! こう…… 好きな人を見るかのような、幸せに溢れたような笑顔! 何でだ、百合は君のことを好きなのに!? ああ、でも僕は百合のことが好きで…… どうすれば良いんだ!」

「いや、知りませんよそんな事」


こんな言葉、前にも聞いたな。

…… あぁ、百合様が前に相談してきた時か。

何げに仲良いんだよなー、美形“残念”兄妹。


例え、百合様がその女の人のことを好きだったとしても、単に恋愛対象私からその人に変わっただけだ。

私としても、断るのは嫌だし、自然に私からその人を好きになってほしい。


「それで、篠宮先輩はどうしたいんですか。百合様とその女の人を引き離したいんですか?」

「え? あ、あー、えーと…… まず、彼女の情報を知りたい」


核心的なことをズバッと言うと、先輩は戸惑ったのか頭をぽりぽりとかく。

シスコンでマゾな上にヘタレ、と……

うん、もうこれはダメだ。末期だ!


「では、百合様にお聞きなさればどうですか?」

「ぐ………… そ、それは」


聞く勇気がないんですねー、このヘタレめ。

まあ、犬になりたいとか言ってるし、犬の方からそういうことは聞きづらいか。

………… あれ、何考えてるんだ、私!?

いかんいかん。毎日、シスコン兼マゾヒストと百合兼サディストと話しているせいで、脳が2人の常識に侵されそうだ。

しっかりせねば。


「…… 仕方ない。僕は、決めた主人にしか言う事を聞かない主義だが…… 百合に、その女性のことを聞いてくれたら、君に1回だけご奉仕しよう」

「いや、いらないですからね!?」


何が罰ゲームで、フラれた男兼変態にそんなことされなきゃならんのだ。


「分かりました。私が百合様にそれとなく、聞いてみますから」

「ありがとう! 君は、面倒見が良いご主人様になるね! 百合がいなかったら、僕は君の犬志望だったよ!」


ブンブンと右手を強引に掴まれ、思いっきり上下に振られる。

…… 過去の自分に聞きたい。

何故、本当にこの人に惚れてた、私。



____________________



翌日。

今日は、百合様の呼び出し日である。

いつもの通り、校舎裏に向かうと、案の定、百合様がいた。

しかし、何かいつもと違う。

いつもは私を見ると目を輝かすのに、背後に近付いてもまったく気づく様子はない。

むしろ、誰かに恋慕しているように、時々切なそうにため息をついている。

これは、昨日の篠宮先輩の言うことも、間違いではないかもしれない。


「百合様」

「きゃっ!? ま、まあ、雪音さん!? いらっしゃったんですの!? わ、わたくしったら、気づかずに申し訳ありませんわ!」


顔を覗き込むようにして声をかけると、百合様は心底驚いたように悲鳴を上げる。

………… 間違いない。

これは、恋をしている乙女の表情だ!

私もつい最近までは、そうだったんだから。


「こっちこそ、驚かせてしまいすみません。____ あの、いつもの相談の前にお聞きしたいことがあるんですが」


百合様のノロケ話というか、一方的な先輩への愚痴は話し出すと止まらない。

今日は、どうか分からないが、用心して先に聞いておいた方が良いだろう。


「申し訳ありませんわ、今回だけはわたくしも聞いてほしいお話があるんですの」


いかなる時もレディファーストを心がける、百合様が珍しい。

女の人のことは、話が終わってからでも良いので、同意の意として軽くうなずく。

すると、百合様は意を決したように、息を吸った。



「先日、バカお兄様がわたくし以外の女性と楽しげに笑っていたのです!」



…… いたのです、いたのです、いたのです……

あーれー? こんな話、つい最近、どこかで聞いたことあるなあ!?

はい、昨日ですね。その問題のバカお兄様から、同じような相談受けましたね。

…… 篠宮先輩、結局あなたも同じことしてるじゃないですか。

思わずため息をつきそうになるが、百合様の前なのでグッとこらえる。


「先日っていつですか?」

一昨日(おととい)の日曜日ですわ」


しかも、同じ日というね!

…… あれ、同じ日?

同じ日といえば、百合様は女の人とデートをしていたはずだ。


「百合様。その時、女の人と一緒にいませんでしたか?」

「はい? ………… ま、まさか、雪音さん…… 見ましたの!?」


その問題のバカお兄様から聞いたんです。

などとは、死んでも言えない。


「友達から聞いたんです。ほら、百合様って学園内では有名ですから!」


本人たちは、裏で美形兄妹やら王子様やお姫様呼ばわりされていることは知らないので、あくまでもオブラートに包む。

百合様の成績は、学年トップなので本人には、そう言っておけば納得するだろう。


「よ、良かったですわ…… 雪音さんに知られたら……」

「私に知られたら何か都合が悪いんですか?」


上品に口元に手を当て、目を見開いていた百合様だったが、安堵のため息を共にゆっくりと手を離す。

私に知られたらまずい、ということは、本当に好きな人が出来たんだろうか。


「正確には、私の趣味を知っている方、ですわね…… バカお兄様に知られたら殴り飛ばすが自殺級のことでしたが、愛する雪音さんの頼みとなれば仕方ありませんわ! お話致しましょう!」

「いや、頼んでないですからね!?」


百合様は、そんな私のつぶやきなど聞こえなかったように、口を開く。


「実は…… わたくし、弟子入りしましたの」

「その人に、ですか?」


何かの師範とかなのだろうか。

とりあえず、恋人とかではないのは分かった。


「ええ。女王様、ですわ!」


「あ、はい、何となく分かりました。だから、嬉々としておっしゃらないで下さい」


つまり、本職の方か。

………… 百合様、もう、戻れないところまで行ってしまってるのではないだろうか。


そういえば、篠宮先輩情報によると、黒髪でツリ目、身体の線が分かるようなピチピチのスーツに身を包んでいたと。

ちなみに、巨乳らしい。

百合様には後で、先輩に存分に罵っていただきたい。

まあ、それは置いておくとして、本職の方と聞くと、イメージ通りというか。


「不躾かもしれないんですけど、何故、弟子入りを?」

「え? ええ、それは……」


その質問をした途端、百合様は頬を赤らめ、身体をくねくねとくねらせる。

それだけ見たら、微笑ましい恋する乙女なんだどな……


「最近、バカお兄様を罵る時に、ハリがないんですの! わたくし、スランプかもしれないのですわ!」


何のスランプですか。

というか、うん、もう、百合様は引き返せない、はるか遠くにいるのかもしれない。

決して、追いつきたくはないけど。


「え、ええと、まあ、頑張って下さい……」

「ええ! 雪音さんにそうおっしゃられたら、わたくしももっと頑張らなければいけませんわね!」


そんなキラキラした目で言わないでほしい。


「じゃあ、恋人さんとかでは……」

「当たり前ですわ! わたくし愛しているのは、雪音さんただ1人! ………… ふふ、でも、雪音さんが嫉妬してくれるとは嬉しいものですわ」


百合様は、照れ隠しのように頬をかく。

え、もしかして、私、百合様にジェラシー的なものを抱いているように見えるのか!?


「いや、違いますから、違いますからね!?」

「ふふ、そういうことにしておきますわ!」


いや、真剣(マジ)でそうです。

私は、決して百合趣味などないですからね!?



____________________



さらに翌日。


そんなわけで、篠宮先輩の百合様への誤解は解けたのだが。

でも、これ、先輩に言っていいものなのか……


「それで、百合の女性の件は分かったかい?」


はい、あなたのために本職の方に弟子入りしたんです。

…… などと、言っていいものなのか。


「えーと、まあ、そうですね」

「じゃ、じゃあ、その女性の正体を……!」


正体って。

私は、食いついてくる篠宮先輩を手で制す。

シスコン兼マゾという正体が判明し、それからはまったく人の話を聞かなくなった先輩もここは、私の言うことに従っておいた方が得策だと考えたらしい。

渋々ながらも口をつぐんだ。


「その前に質問です。この前の日曜日、百合様を見かけたそうですが、その時、一緒に女の人、いませんでしたか?」


自分以外の女の人と歩く篠宮先輩に嫉妬していた百合様のブラコン疑惑はともかく、まずそれを聞かなければ。

昨日は、女王様とかのことで色々はぐらかしてしまったが。


「うん? いたよ?」

「誰ですか、それ!」


百合様もそうだが、相談している張本人の先輩も同じようなことをしていては、埒が明かない。


「お犬様、だよ?」


「…… お犬様?」


篠宮先輩は、さも不思議なものを見るかのような目で私に告げる。

どこかの犬公方の時代のような呼び名だが、何だそれ。


「うん。マゾヒストの中のマゾヒストだよ。業界の中ではかなり有名な人で、今回、特別に犬のあり方について指導してもらったんだ」

「あ、はい、何となく分かりました。だから、これから次は慎んで下さい」


似たようなセリフを口にした覚えなど、決してない!

百合様情報によると、栗色のストーレートロングに真っ白いワンピース、たれ目のロリ系美人だったと。

ちなみに、貧乳だったらしい。

兄妹揃って見てるところは、同じなんですねぇ!


「………… 良いですか、先輩。実は、百合様も先輩と同じように、先輩がそのお犬様とデートしてるシーンを見ちゃったんです」

「で、デートじゃないよ!? あれは、周囲からの視線を浴びるという羞恥プレイの指導だっ!」


もう頭の中で勝手にエコーするものは、放っておこう。

羞恥プレイ云々はともかく、それ、2人が美人とイケメンだったから、視線を浴びていただけでは……

本人、自分がイケメンって自覚してないからな。


「それで!? 百合が見ていたことはともかく、百合といた女性は!?」

「女王様です」


もういい。もう、ぶっちゃけてしまおう。

百合様は、あなたのために本職の方に弟子入りしちゃったんですよー。

まあ、サドの百合様と女王様が一緒にいる、と聞いたら何となく、分かるだろう。

篠宮先輩は、しばらくうーん、と手を顎に当てて、やけに絵になるポーズをとっていたが、はっ、とした様に目を大きく見開いた。


「まっ、まさか百合は! 僕を罵りたりなく、女王様と一緒にいることで、ご主人様ではなく犬になりたいと思うようになったのかな!?」


何故そうなる。

途中までは合ってるといえば、合ってるんだけどなあ!


「………… ご本人に聞いて下さい」


そうだ、シスコンとブラコン通しなんだから、きっと上手くいく。

まあ、先輩の前だと素直になれない百合様だから、よく分からないが。


____________________



そのまた翌日。

いつもの通り、校舎裏に行くと、案の定百合様がいた。

だけど、一昨日のような恋する乙女の表情ではなく、いつものような獲物を狙う野獣みたいな表情に戻っていた。


「雪音さん! お兄様は、どなたといらしたんですの!?」

「お犬様です」


ぶっちゃける。

そして、仲直りする場でも設けたら、自然に元通りになるだろう。

何ていったって、シスコンとブラコンなんだから!


「お犬様……? それはもしや、狗神舞里亜(いぬがみまりあ)様のことですか?」

「狗神舞里亜? あ、はい、多分そうです」


苗字に“いぬ”が付いている人だと聞いたし、多分その人だろう。

すると、百合様は鼻息荒く、私の両肩をガシッと握った。


「お知り合いなんですか?」

「いえ、名前だけですわ。わたくし、その世界にはあまり詳しくありませんが、バカお兄様が購読している雑誌にコラムを書かれたり、時には表紙を飾ったりしていますもの」


篠宮先輩、どんな雑誌読んでるんですか。

百合様は私の両肩から手を離すと、右手を頬に当て、ううん、とうなり出す。

しばらくそうしていたが、はっとした様に目を見開いた。


「ま、まさか、バカお兄様っ! わたくしの罵り具合がたりなく、お犬様と一緒にいることによって、そちらの道に目覚めたのでは!?」

「兄妹揃って思考回路やポーズが似てますね!」


……………… 今回の結論。

どっちもどっち。



____________________



まず2人が話し合わなければ始まらないので、篠宮先輩の相談日に百合様を校舎裏へ呼び、私は家に帰るという作戦を考え、実行した。

今日は金曜日だったので、結果を聞くのは明々後日(しあさって)の月曜日だが、あの兄妹なら多分、仲直りしているだろう。


その予想は当たり、月曜日。

朝登校し、先生が入ってくるまで友達と談笑していると、何故か学年もクラスも違う、篠宮先輩が教室へ入って来た。

悪い予感しかしなかったが、私以外の後輩に用があるんだろうと思い、横目で見ながらもそのまま話していた。

まあ、皆篠宮先輩に注目し見惚れたことで、話にならなかったけど。

先輩は、一度教室を見渡すと、私の席の方向へにこっ、と笑う。

それから、ずんずんとこっちへ歩いて来て、周囲の悲鳴など無視し、固まっている私の両手を握る。


「桜海さん、ありがとう! 君のおかげだ!」


そう言うと、ブンブンと上下に揺らし、私の返事も聞かないで教室を去って行く。

ただ、呆然と後ろ姿だけを見ていると、クラスの女子全員と一部男子が私の周りに集まって来た。


「雪音、本当に夕斗先輩の相談係やってたの!? 噂だけだし、2人がいるところ見たことないから、ウソだと思ってた!」

「桜海さん、さっき篠宮先輩に手、握られてたよね! いいなぁ、あたしもやってほしい!」

「雪音ちゃんなら、許せるかも!」

「あ、確かにー!」


何がですか。

クラスの女子から一気に質問攻めにされる。

篠宮先輩が教室に来たことは、注目されたくない私としては嫌なことこの上なかったが、犬とかシスコンとかそんなことを言わなかっただけ良かった。

学園女子の憧れは、壊せない!


そんなことを考えつつ、質問に答えていると、今度は男子と一部の女子から悲鳴が聞こえる。

その声の先にいた彼女は、私の周りに集まった篠宮先輩ファンをただ、「失礼」ということでモーゼの十戒の海が割れるシーンごとく、退かせてしまう。

お嬢様然とした上品の笑顔を浮かべ、ゆっくりとこちらに向かって来る。


「雪音さん、ありがとうございます! 何とお礼を申し上げたら良いか!」


さらに呆然とする私を後ろに、ギャラリーに優雅に手を振りながら教室を後にする。


それから1日中、私が質問攻めにされたのと、クラスメイトが浮き足立っていたのは良い思い出だ。

………… 良い思い出だ。


それから私は、美形兄妹両方からお礼とスキンシップをされた相手として、さらに一目置かれるようになった。

…… うん、もうツッこむ気も失せた。


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 前作も面白かったですけど、続編も面白かったです。 雪音さんが、どんどん先輩の事を残念に思っていく姿が たまりません。 雪音さんを挟まないと、上手く意思疎通が出来ない美形(…
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