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獣と叫ぶ愛  作者: 子子子
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獣の努力

ブランを拾ってからのご主人視点。

毛玉編



一週間程前に、一匹の獣を拾った。


それは私の瞳と同じ黒い毛並みの小さな獣だった。


初めて獣を見つけた時、吠えたてて気を失うという奇妙な行動をとり面食らってしまったが、まだ親離れもすんでいないであろう小さい獣をこのまま放置すれば他の獣の餌食になってしまうと思い、家に連れ帰り介抱してやることにした。


家に連れて帰り、目を覚ました獣の行動は更に妙だった。


寝ぼけ眼で己の体を見て叫び声をあげたかと思うと、尻尾を追いかけるように右回転、左回転を繰り返し、目を回して倒れた。


その時、あまりにもアホな行動に笑ってしまった。


最初は森に帰すつもりでいたのだが、親が見つかるまではと思い、飼うことにした。


その後も獣の奇妙な行動は続いた。


乳飲み子だと思い、少し温めたミルクを出せば下し、獣だと思い、生肉を出せば見向きもしない。何を食べるのかと思えば、私と同じ食事を食べるという獣らしくない獣だった。


そして今日、奇妙な行動は真骨頂に達した。


物置に片付けていた魔道具として使っていた大きめの鏡を見つけると、吠えたてて私を呼び、出してやると嬉しそうに尻尾を振って跳ねた。


それを綺麗にしてやり、居間に置いてやれば、獣は鏡の前に陣取り、鏡を見ながら首を傾げたり、寝そべってみたりと様々な格好をしては、私のもとに来てそのポーズをとった。


(…可愛いが、何がしたいんだ?)


特に止めることをせずに見守っていると、私のツボにハマる格好を見つけては、愛想を振りまいてくれた。


本当は名前をつけると情が移るのでつけたくなかったのだが、あまりの獣の可愛さに手放すのが惜しくなり、名前をつけることにした。


(勝手に出て行ったりするなよ)


可愛らしい黒い毛玉を掬い上げ胸に抱く。


「今日からお前の名前はブランだ」


私に抱かれて気持ち良さそうにしていた獣は、私のを声を聞くと、嬉しそうに一吠えした。


私はその時痛感した。


ーバカな子ほど可愛い。


と。








美狼編



ブランが来て一ヶ月も経とうという頃、森に魔物が出た。


その日は薬を作る薬草を取りに、ルートを外れて山に向かって進んでいた。


私の後をちまちまついてくるブランを、微笑ましく見守っていたのだが、急にブランがある一点を見つめて激しく吠え出したのだ。


ブランが見つめていた先から現れたのは、澱みに覆われ魔物に成り下がってしまった熊であった。


その熊は、背中に四本の腕を生やし、手当たり次第に周りの木をなぎ倒しながら私たちに向かって来ていた。


ブランを見れば、いつの間にか私と熊の間に立ちはだかり、私を守るように果敢に熊に向かって吠えていた。しかし、熊が怖いのか、尻尾はまたの間に収まり腰が引けていた。


熊の口からは大量の唾液が滴り落ち、落ちては地面を焦がしている。


どんどん距離を詰める熊に、そろそろブランのためにも撃退してやろうと、詠唱するために口を開きかけたその時。


「ガゥオオオォォォオオーーーォオッ!!(ご主人には指一本触れさせないんだからぁぁぁああっ!!)」


熊にも負けない唸り声をブランがあげたかと思うと、ムクムクと小さい体が大きくなり、口から炎を吐いていた。


(…成体になったのか?)


ブランは熊の撃退に必死で自分の変化には気づいていないようだったが、いつまでも炎を吐かれては、森が火事になってしまう。


「ブラン、落ち着きなさい。このような魔物如きに遅れをとる私ではないよ」


ブランはチラリと私を見て耳を伏せたが、すぐに熊を見て、警戒のために喉を鳴らした。その際に口を閉じたお陰か、火を吐くことはなくなったが、歯を剥き出しにしている様は普通の動物などでは太刀打ち出来ないような気迫があった。


早くブランを落ち着かせるため、素早く詠唱を行い、熊に向けて真空の刃を放つ。


熊は輪切りになる寸前、けたたましい叫び声をあげて絶命した。


ブランは熊が輪切りになると、ビクリと固まり私を恐る恐る見たが、もう一度熊を見ると、意を決したように絶命した熊に向かって歩き出した。

そして、輪切りの熊に炎を吐きかけ、炭になるまでその身を焼くと満足したように私のもとへと戻ってくるのだった。


「ブラン、…成長したな?」


戻って来たブランを労うために頭を撫でてやると、いつもと違う目線にようやく気づいたのか、コテンと首を傾げた後を初めて出会った時の様に叫び声をあげ、尻尾を追いかけるようにぐるぐると回った。


「ブラン、落ち着きなさい」


私がそう言ってやっと、止まったブランはフラフラとしながら、呆然として自分の体と私を交互に見ていた。


「とりあえず、家に戻るぞ」


今度は宥めるように言ってやると、ブランは少し困ったように尻尾を忙しなく振ると、突然輝かしい目をして私の服を軽く噛んで引っ張り、自分の背中を見て伏せた。


何かを期待するように輝いているブランの瞳だが、何がしたいのかさっぱりわからない私は困ったようにブランを見るしか出来なかった。


それに焦れたのか、突然ブランが立ち上がり、私にお尻を向けて後ずさってきた。


「もしかして、お前に乗れと言ってるのか?」


「がうっ!」


しきりに股の間にお尻を突っ込もうとするブランに、漸く何がしたいか合点がいき、それに対してブランも尻尾を盛大に振って答えてくれた。


ブランは再び伏せると、キラキラした目で私を見る。


確かに大きくなったブランは私を乗せても余裕だろうが、どう見てもブランは騎乗に向いているとは思えなかった。


(鞍をつければなんとかなるか?)


あまりの期待度になんとか乗ってやりたい気はするが、落ちて痛い思いをするのは私で躊躇われる。


「くぅん…」


「くっ…!」


甘えた声を出すブランに、私は完敗した。


ブランの背を跨ぐと、ブランが嬉しそうに尻尾を振る。そしてブランはゆっくりと立ち上がると、のんびりと歩き出した。


少しだけ不安定になってしまうためブランの毛を掴んだが、痛がる様子も見せずにたまに私を振り返ってはピクピクと耳を揺らした。


ブランの乗り心地といえば、悪いものではなく、むしろとても乗り手に気を使っていて、下手に馬に乗るよりも楽に乗れた。


家に着くとブランは腰を落とし私を降ろしてくれたが、体が大きすぎて家に入れないことに気づいた。


ショックを受けて固まったブランは可愛かったが、少しして崩れ落ちる様にへたり込む姿は憐れで可哀そうだった。


だが、へたり込んですぐ、空気が抜けるように小さくなっていくブランに、成体になった訳ではないことに気づいた。


…改めてブランは奇妙な獣だと思った。


一時見守っていたのだが、小さくなったことに気づかないブランはプルプルと震えて愛くるしい姿を晒しては、助けを求めるように私を見るので、掬い上げて目が合うように抱き上げてやると、口をぽかんと開けたまま私を凝視した。それから、自分の体を見て嬉しそうに吠えた。


その後、ブランは二日ほどで体の大きさを自由に変化させることに成功すると、次は炎の吐き方を練習していた。


体が大きい時にはうまく吐けるようだったが、小さい体の時にはうまくいかないようで、時より苛立ったように吠えるとうまく炎を吐いていた。


炎吐く練習は一週間程続いたが、やはり小さい時にはうまくいかないようで、最後には溜息をついていた。その最後の溜息で、地面を焦がし地面に一本の黒いラインを作った時、どうやらコツを掴んだらしく、同じことをニ・三回繰り返した後、私に報告する様に、私の目の前で炎を吐いて見せるのだった。


炎を吐く練習が終わり、いつものようにのんびりと愛想を振りまくブランに戻るかと思っていたのだが、ブランは研究熱心なのか、今度は大好きな鏡を外に立てかける様にせがみ、鏡を外に置いてやると拾いたての頃のように、今度は大きい体で様々なポーズを研究していた。


最初は毛玉の時のように、可愛らしいポーズをいくつかとっていたが、気に食わなかったらしく不機嫌そうに鏡の自分に歯を剥き出しにしていた。


そうして気の済むまでさせていると、行き着いた先は少し気だるげてゆっくりと悠然とした格好に行き着いたらしい。


毛玉の時と同様に、納得のいくポーズを私の前で披露してくれた。


カッコいいと褒めてやれば、全力で尻尾を降るので、最後にはカッコよさは霧散してしまうのだが、気づいていないので内緒にしといてやる。


ー本当にうちのブランは、アホで可愛らしい獣である。


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