Episode.1 (part.4) 決闘
教室で一人の男子生徒が言った『決闘』という言葉の意味は、貴族や王族の人たちが名誉に掛けた戦いに使われていた言葉で、ここ数十年そのような事を言った人はこの学校にはいないようだった。
「あなたたち、本当に決闘をしますか?」と先生が最終警告するように言った。
しかし、悠徒も宣言した男子生徒もキッパリと先生に「します!」と言い、黒板の前にある広いスペースに行った。
「僕はセルティウム・オフィセント。主な魔法は、地と火だ。この学校では2種類以上の魔法を使いこなす生徒は少ない。さらに、火は扱いが難しく使いこなせる生徒が20もいない。格の違いが判ったか。へ・い・み・ん。」とセルティウムが挑発するように言った。
悠徒はセルティウムの言葉に赤面して、「てめぇ、平民、平民、うるせえ。俺は朝倉悠徒だ。名前も覚えれないのかお坊ちゃん。」と火に油を注ぐように言うとセルティウムは、「負け犬の遠吠えにしか聞こえないな平民。僕に勝ったら君の名前を覚えよう。」と言い、ポケットから指輪を2つ出し、そして、その指輪の一つを悠徒に放り投げた。
悠徒に投げた指輪がちょうど二人の中間地点に来てセルティウムが独り言のように何かを言った瞬間、宙を舞っている指輪が1本の剣になって回転しながら悠徒の目の前に突き刺さった。
「その剣を使いたまえ平民。少しぐらいハンディキャップがあったほうが良いだろう?」とセルティウムはもう一つの指輪を右手の人差し指にはめながら言った。
「上等だ。後悔するなよお坊ちゃん。」と悠徒は刺さった剣を抜き取り、ぎこちないが剣道の正眼の構えになった。
先生は呆れたように頭を左右に振り、そして、諦めたのか、「準備は良い?」と二人に最終確認をして、二人が頷いたのと同時に「決闘開始」と宣言した。
セルティウムは何か企んでいるのか何もしてこない。
悠徒は先制のチャンスと思い剣を横にして走り、10mあったセルティウムとの距離を3分の1まで詰めた所で突然、地面が揺れ始めた。
悠徒は足を止めて手を床に付けて、地震かと思ったが、それはセルティウムの挑発だと分かり、悠徒は剣を構え直して再び走り出し、セルティウムの目の前まで行き、剣を振り抜こうとした瞬間、ボクシング選手に殴られたかのような強い衝撃が走った。
悠徒はそのまま3mぐらいまで飛ばされ、体内の空気を奪われて噎せ返って《むせかえって》いたら、上から赤い何かが飛んでくるのが見えてとっさに受身をしたが身体に力が入らずに回転するように回避した。
セルティウムは悠徒が飛ばされた瞬間、呪文を唱え始めた。
そしてセルティウムの周りに火の玉が5個出てきた次の瞬間、悠徒目掛けて飛んで行った。
悠徒は間一髪回避でき、体勢を整えようとしたが、セルティウムが目の前に不敵な笑みで立っていて、右手に付けていた指輪が光り、光り輝く指輪が十字架のような大きな細剣になって、悠徒の首筋に当てられ、「チェックメイト」と言い、セルティウムの勝利が決まった。
決闘後、セルティウムは機嫌を損ねたと言い教室から出て行って、しばしの沈黙があった。
忍は悠徒の傍まで駆け寄って心配した目で悠徒を見つめたが、悠徒はうつむいたまま心ここにあらずのような状態でいた。
数分後、先生が手を2回鳴らし、「1時間目は自習にします。あと、悠徒君と忍さんは一緒に付いて来て。」と言い、忍は悠徒の腕を肩に回し、先生と一緒に教室を出た。
着いた先は空き教室であった。
先生は悠徒と忍を出した椅子に座らせて、悠徒に向かって、「転校初日に決闘なんてバカなことをして、頭の沸点が低い子ね。」と言い、続けてこう言った。
「でも、自分のプライドを傷つけられたら男の子でも怒るよね。私でも怒るもの。でも、我慢は大切よ。どんな時でも我慢は大切。人は我慢ができる唯一の生物よ。猿だってバナナを盗られたら襲い掛かって来るでしょ?」と言い、そして悠徒の肩に手を置いて、「今回は悔しいと思うけど、ここで負けたままではなくて、勉強してセルティウム君に勝てるように頑張らなくちゃっ、ね。」と先生は悠徒にウインクをして言って出て行ってしまった。
悠徒は決心したかのように頬を強く叩いて忍に「頑張らないと、幻夢鏡にも勝てないな。」と手でまぶたを擦って精一杯微笑みながら言った。