Episode.2 (part.32) 受け継ぐ力、そして終焉へ・・・
「ここで死んでもらうよ。」
アルティベートの右手が忍の肩を触ろうとした瞬間、右手首がアルティベートの手を握って制止させていた。
「くだらない・・・」
アルティベートは虫を払うように握って来た手首を剥がそうとするが、剥がれない。
しょうがないので、アルティベートはその手を魔法で燃やし尽くすと再び忍に触れようとした。
『コイツに触れるな!』
アルティベートはその声を聞いた瞬間、後方へ飛ばされていた。
忍は何が起こっているのか理解が出来なかったが、先程の声の持ち主が同じなら・・・
周りを見渡すと、そこには眼球が浮かんでいた。
「悠徒なの?」
『あぁ、一応は・・・俺の意志が少し入っているが、残留思念みたいなものだから、すぐに消滅する。本物の悠徒はあそこ。』
忍は悠徒の視線の方を見てみると、所々、欠損しているが、悠徒の体があった。
だが、忍は思ってしまった。
『悠徒の思念が眼球に宿っていることは・・・もう、悠徒は・・・・』
込み上げて来た嗚咽感に逆らえず、胃の中のものを吐き出すが、気持ち悪い感覚が消えなかった。
「・・・もう、悠徒は・・・」
目から涙が出るが、悲しくは無かった。
そして、悲しみとは別のものが、忍の頭の中で込み上げて来た。
「いや~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
忍は絶叫しながら苦しみに耐えていた。
アルティベートは悠徒の残留思念の妨害に難航していた。
紅の力が残っているのか、悠徒が発する魔法は攻撃力は大したことが無かったが、防御力が信じられないほど高かった。
アルティベートの魔法は全て魔法障壁で防がれて、さらに、防御の最中に攻撃もしてくるので、微弱だがアルティベートはダメージを受けていた。
しかし、悠徒の残留思念に残っている魔力も残りわずかになっていた。
悠徒の思念は最後の魔力で放った魔法でアルティベートを拘束し、転移魔方陣を発動させた。
『これで異次元に・・・』
悠徒の魔力が尽きて、悠徒の残留思念は消えていった。
魔方陣は悠徒が消えた後も輝き続けて、アルティベートは拘束具から脱出しようと魔法で破壊しようとするが、悠徒の魔力の方が上回っていた。
魔方陣は転送させようとした直前、何所からか炎が出現し、魔方陣を消し去らせた。
苦しみの中、忍の精神は別の空間に移動していた。
辺りを見渡してもあるのは虚空のみ・・・
立ち止まってはいけないと思いながら、忍は虚空の中、方向も定まらない状態で前進した。
数分歩いたのかは分からないが、かなりの時間歩いていたと思う。
忍は疲れもしない体を動かし続けているので、忍の体力は全く減ってないが、目の前に赤い光が見えた忍は足を止めた。
「あれは・・・紅?」
忍は駆け足で赤く光っている場所に行くと、そこには紅があった。
「紅がどうしてここに?」
『我、苗床を失い、消滅する。新たな苗床求めたし。』
「要するに、寄生しないと生きていけない存在って事ね。」
忍は一瞬、躊躇いなのか恐怖なのか体が自分ではない何かのように動けなかった。
「分かったわ。私が新しい苗床になってあげるわ。」
忍は動けなかった理由が何なのか分からなかったが、今、悠徒の遺品を亡くすのは自分にとっても悲しい事だから、何が何でも残そうとして、即決してしまった。
「マスター、ありがとうございます。」
アルティベートはお辞儀をすると、すぐさま、標的を忍に定めて、アルティベートはゆっくりだが確実に忍との距離を縮めていった。
「・・・・」
忍は精神と肉体が分離状態で辛うじて息をしているぐらいだった。
そんな状態の忍にアルティベートは石の剣を忍の首筋に付けようとした瞬間、忍の周りの空気が変わった。
「・・・・ほぅ、紅の力を手に入れたということか。」
アルティベートは石の剣を無数の石ころに変え、地面から鉄の大剣を出現させた。
「グルルルル~~、ガゥッ!ガ~!!」
忍は我を忘れた猛獣のようにアルティベートを威嚇し、四足の獣のように四つん這いの状態でアルティベートに突進した。
「狂犬に成り下がったか・・・」
アルティベートは忍との間に石壁を何重にも構築させ、忍の攻撃を阻ませた。
忍は自分の腕に付けているブレスレットに意識を集中させて刀に戻すと、刀を口に銜えた状態で石壁に突進した。
石壁はビクともしないかと思いきや、忍は刀に気を送り、石壁をバターを斬るように容易く切り裂いた。
「獣であるが故に野生の勘が働くのか。」
アルティベートは忍の立っている所に無数の石の棘を出現させて串刺しにした。
だが、獣となった忍は驚異的な柔軟性で石の棘を全て避けきっていた。
「恥ずかしぃ・・・」
自分の恥ずかしい姿を見た忍は顔を隠しながら言った。
紅と契約したが、十分にコントロールが出来ていないが故に野生の獣のように目の前の獲物目掛けて攻撃していた。
「悠徒は、いつもこれに耐えているの?」
忍はそう思うが、自分が悠徒みたいになろうと頑張るが、完全に肉体と精神が分離している状態で忍の意志は紅を止めることは出来なかった。
「どうしたら悠徒みたいに・・・」
『忍。紅を自由に使いたいか?』
「・・・・悠徒なの?」
忍は周りを見渡しても、そこには闇があるだけ。
「悠徒であるが悠徒ではない。紅と同化した俺になるのかな?」
「どういうこと?」
忍は疑問に思ったが、今は別の事が気になった。
「紅を使えるようになるってどういう事?」
『言葉のとおりだよ。紅が自由に使えるってこと。』
忍は言葉の意味を理解していたが、どうやれば出来るのかが疑問に思っていた。
「悠徒、お願い。紅を使えるようにして。」
忍はそう言うと、周りの闇が急に晴れて、そこには空白の壁があるだけだった。
何なのよと忍は思いながら壁に触った瞬間、真後ろの壁に切れ込みが出来たと思ったら、そこに扉が出来ていた。
忍は恐る恐る扉を開けると、扉の向こうは真っ白の光景が広がっており、忍の体は扉に吸い込まれていった。
目を開けるとそこにはアルティベートが攻撃しようと右手を振り上げていた瞬間だった。
忍は咄嗟に体を動かして、右に受け身をとって回避した。
そして、ブレスレットを刀に戻すと、気を刀に込めた。
「ようやくお戻りですか・・・ですが、君では役者不足です。」
アルティベートはそう言うと、右手に石の剣を持って忍に攻撃した。
「この状態の私じゃ役不足だね・・・でもっ!」
忍はそう言うと、右目の紅を発動した状態で左目に集中させると、忍の左目が黒色から緑色に変化していった。
「これが新しい能力『彩眼』。」
「アヤメ?」
忍とアルティベートは鍔迫り合いをしながら対話をしている。
剣道をやっている忍にとっては鍔迫り合いは得意分野だった。
忍はアルティベートの力を利用して、刀を握る力を弱めて受け流すように体をねじらせて石の剣が地面に当たった瞬間に胴に一撃を与えるカウンター技。
アルティベートに当たった瞬間、忍は彩眼に力を集中させると、刃が発熱して真っ赤になった。
発熱した刀はアルティベートの体を容赦無く蝕み、電気メスのように肉を焼いている音が聞こえてくる。
アルティベートは無表情のままだが、明らかに動きが鈍くなっていると紅を通じて忍は見えている。
「悠徒の弔いに・・・」
忍は全ての気を紅に集中させると、右眼から紅蓮の炎が出現して、アルティベートを包み込んだ。
「・・・熱くない?」
アルティベートはそう言うが、アルティベートの体は溶けている。
アルティベートは死の感覚を芽生えずに灰となって消えていった。
何も起こらなかった。
いや、起こるはずが無かった。
忍はアルティベートを倒せば悠徒が、世界が元に戻ると・・・
だが、現実は違った。
悠徒はこの世から居なくなり、残っているのはバラバラの骨と血液。
世界は未だにモンスターが闊歩する物騒な世界。
忍はショッピングモール内の専門店から袋を拝借して、悠徒の遺骨を詰めた。
遺骨の入った袋を大切に持って忍はショッピングモールを出て行った。
その時にはライドも歩けるほど体力を回復していた。
「・・・・・・うそっ、でしょ?」
エリスの悲痛な言葉は忍の心を抉った。
「本当よ。悠徒は死んだわ。」
忍の言葉を聞いたチアは耐えていた涙を流していた。
チアは泣きながら、悠徒さん悠徒さんと言って、エリスの方は、平然としているように見えるが、いつもより確実に影の部分が多くなっている。
ライドはショッピングモールを出る所まで忍と一緒であったが、何処かに行ってしまった。
「せめて火葬だけはして、悠徒を弔おう。」
忍はそう言って、大きな石を並べ始めた。
クラスメイトも悠徒の死を受け入れようと石を集め始めた。
30分かけて完成した小さな火葬炉に遺骨を入れて、忍は紅の炎を火葬炉に入れて蓋をした。
煙突からは黒い煙が出ている。
クラスメイト、エリス、チア、忍はその黒い煙を見て悠徒の事を思い出している。
出会い、笑い、怒り、泣き、そして別れる。
何度も体験する事だが、別れは一番悲しい。
クラスメイトの誰かが『旅立ちの日に』を歌い始めると、エリスとチア以外全員が歌い始めた。
エリスとチアは歌詞は分からなかったが、何となくの感じだけど鼻唄で歌っていた。
「―――今、別れのとき。飛び立とう、未来信じて。弾む若い力信じて、この広い、この広い、大空に・・・・」
クラスメイトとエリス、チア、忍の声は悠徒に伝わったのか煙突から出た白い灰はこの獰猛な世界に飛び立って行った。
Fin?
一応、これでこの作品『紅の魔眼と白銀の刀』は終了です。
続編を次の投稿で出すかは悩んでますが、たぶん、違う作品を書くかも知れません。
あと、無謀な事だとは思いますが、大賞に応募しようと思ってますので、もしかしたら、更新が遅れるかも・・・