Episode.2 (part.31) 死
『彼は成熟したかしら?ねぇ、私の人形さん。』
「マスターの力には到底及ばないと思いますが、確実に成長しているのは確かです。この前、古龍を倒したのを確認しました。」
『ますます興味を持ったわ。お人形さん、少し遊んであげなさい。』
「分かりました。ですが、万が一―――」
『その時は殺しても良いわ。』
「畏まりました。」
少年はその言葉を最後にこの場から転移で外界に出た。
悠徒たちがこの世界に戻って一ヶ月が経とうとした。
「残りの食糧はあと1日分しかないよ」
「そろそろ移転するか・・・」
悠徒はそう言って地図を広げた。
「悠徒、ここの大型ショッピングモールは?」
「大きすぎると、その分、危険が増えるが、食料や衣服の問題を考えると、そこが最適か・・・」
「じゃあ、ここで決まり!」
エリスはそう言って勢い良く飛び出して、他の人に知らせに行った。
「まだ決定って言ってないが・・・・まあ、良いか。」
悠徒は参ったという顔で頭を掻きながら言った。
その日の昼、駐車場に全員が集合して、大型ショッピングモールに向かって悠徒たちは歩き出した。
残りの食糧は、大半は持って行くが、少しはスーパーに避難した人が食糧に困らないように置いていった。
大型ショッピングモールまで10㎞ほどあるが、忍とエリスとチアが先行して悠徒が殿を務めて、ライドは先にショッピングモールに行って偵察させに行かせた。
途中、忍たちはモンスターと遭遇したが、3人の力は相当なもので、大型のモンスターも1分も経たずに倒してしまった。
3時間でショッピングモールに着いたが、その間にライドが戻ることは無かった。
「確実に強敵がいるな。どうする?」
「どうするって、もう着いちゃったからここを根城にしないと今夜は野宿よ?」
「まあ、悠徒がいるし・・・」
「俺任せ!?」
「「「うんっ!」」」
3人はそう言い、ショッピングモールの駐車場の中央にクラスメイトを集めて、3人は三角形になるようにクラスメイトを守るフォーメーションをとった。
悠徒は仕方ないなと思いながら、脳のスイッチを替えて戦闘モードになり、ショッピングモールに向かった。
中に入ると物静かさが不気味な雰囲気の空間だった。
気配は感じないが、背筋が凍るほどの感覚が伝わるほどの猛獣がいるのは確かだった。
あと、それとは別の弱々しい気配が1つだけ物陰の向こうに感じるが、その気配はライドのものだとすぐに判り、急いでライドのもとに駆け付けた。
「大丈夫か?」
「・・・あぁ。大丈夫・・・かは・・・悠徒、気を付けろ・・・ここには・・・」
ライドは吐血しながら懸命に悠徒に知らせようとしたが、途中で意識が切れてしまった。
「あ~あ。気絶しちゃった。」
「誰だ!」
ライドが気絶した瞬間、悠徒の後ろから声がして、悠徒は咄嗟に後ろを向いたがそこには気配が無かったが、そこに少年が立っていた。
「お前は、アルティベート!」
「良く覚えていたね。褒めてあげるよ。」
アルティベートは無表情のまま言った。
「コイツをどうしたんだ?」
「あぁ、犬が噛み付いてきたから躾けただけだよ。」
アルティベートはやれやれという感じに手でジェスチャーした。
「てめぇ、ふざけるなよ!」
悠徒はカッとなってアルティベートに回し蹴りをしたが、アルティベートの張っている魔法障壁に阻まれてしまった。
「君も狂犬なのかな?狂犬病のお薬を処方してあげるよ。」
アルティベートは一瞬の内に悠徒の懐に入り、鳩尾に掌底を打ち込んだ。
回避をとろうとした悠徒は足に力を入れようとするが、足の感覚が無かった。
「残念だったね。君の右足、石になってもらったよ。」
アルティベートはそう言いながら悠徒の鳩尾に手を埋めた。
悠徒は回避行動をしようとしたが、アルティベートの攻撃の方が速く、悠徒は回避する事が出来ずに鳩尾に入ってしまった。
悠徒の表皮に薄い魔法壁が張られていたが、それでもかなりのダメージを負ってしまった。
アルティベートは悠徒が一発でやられるとは思っておらず、追撃の魔法詠唱を始めた。
「ようしゃねぇな。」
悠徒はそう愚痴りながら、遅延魔法を発動させた。
神導術となった遅延魔法はアルティベートの放った魔法を呑みこみ、そのままアルティベートに当たり、アルティベートは灼熱の業火の中にいた。
「それぐらいで倒せると思ってたのかい?」
「そうは思わないよ。」
悠徒は遅延呪文を解放すると、嵐が炎の中心で発生して、炎の嵐が生まれた。
だが、アルティベートは炎の嵐の中から何もなかったように出て来て、魔法詠唱をし始めた。
「やらせるかよ!」
悠徒は遅延魔法を再び発動して、アルティベートを中心に半径2mの空気を圧縮させた。
通常なら人間の体なら3分の1ぐらいに縮むのだが、アルティベートは全く縮む事無く、平然と詠唱を続けた。
アルティベートの詠唱が終わり、悠徒に照準を合わせて発動させた。
悠徒は咄嗟に回避をしたが、左腕が魔法に飲み込まれて付け根の部分から?ぎ取れてしまった。
「まだ、相手にもならない程度なのかい・・・正直、がっかりだよ。」
アルティベートは続けて遅延魔法を発動して、悠徒の体を氷漬けにした。
身動きが取れない状態ではあるが、悠徒は右目の紅に魔力を注ぎ、炎竜を発動した。
氷はみるみる溶けて、悠徒が作った青い炎の竜がアルティベート目掛けて飛んで行った。
「子供だましが。」
アルティベートは右手で跳ね返そうとした瞬間、炎竜は炎上した。
火柱が消えると、そこには服が焦げて体中が重度の火傷を負ったアルティベートがいた。
「驚いたよ。アレも神導術のモノだったなんて思わなかったよ。」
「っ!なんで、お前が神導術を知っている?」
「・・・まあ、それでも、君はここで死んでもらうけどね。」
アルティベートは右手を振り上げると、悠徒は金縛りにあったように動けなくなり、右手を振り下ろした瞬間、無数の石の棘が悠徒の体を貫通した。
さらに、アルティベートは追い打ちをかけて、悠徒の体を爆弾のように弾け飛ばした。
ショッピングモールの中で、大爆発の音が聞こえた瞬間、忍は条件反射で店内に入っていった。
走っている最中にエリスとチアに呼び止められたと思ったが、忍は無視して悠徒のいる店内に向かった。
店内は物静かで、先程の大爆発も無かったように思えたが、悠徒の気配がしないので、何かがあったと忍は思った。
忍は音源の近くにライドと思われる微弱な生体反応があると察知したので、音源の方に向かった。
ライドは気絶していた。
忍はライドの体中の傷を見て、激しい戦いをしたのだろうと思い、悠徒から譲り受けた刀を握った。
慎重に音源の方に近づいたとき、足元に水が浸っていて、忍の足音が響いてしまった。
忍はしまったと思ったが、反応が無いので誰もいないのだろうと思いながら慎重に足音を消しながら音源に向かった。
音源の場所は水たまりが始まったところからすぐの所だった。
そして、その場所は悲惨だった。
蛍光灯は全て割れて床に破片が落ちており、一面は水浸しで、壁にも飛散していた。
「君は、彼の仲間の・・・何だったか・・・」
突然、真後ろから声を掛けられたので、忍は刀を向けて臨戦態勢をとった。
「遅いよ。それじゃ死んじゃうよ。彼のように。」
忍はその言葉を聞いた瞬間、鼻から嗅ぎ取った錆びた鉄のにおいの原因が水たまりであったことが分かった。
その水溜りが、悠徒の血である事も・・・
「いや~~~~~~!」
忍は我を忘れてアルティベートに攻撃した。
当然ながら、我武者羅に攻撃している忍の攻撃は全く当たる事なく、アルティベートはあきれながらこう言った。
「君の彼のような死に方が良いのかい?」
忍はその言葉で足が竦み、床に倒れ込んだ。
「絶望に拉がれてるね。でも、絶望は力を引き出させる一番の薬だよ。今は弱いけど、良い実験体になってくれたまえ。」
アルティベートはそう言い残し、何所かに行ってしまった。