Episode.2 (part.26) 再会
巨大なモンスターの止めの一撃は親玉に届く事は無かった。
親玉は閉じていた目を見開くと、目の前に腕があった。
「うおっ!」
親玉は体をビクつかせたが、胴体の部分が動いただけで、手足は動かなかった。
「ははは!お前、意外と弱いんだな。」
親玉からは腕で見えないが、よく知った声が近くで聞こえた。
モンスターの腕を退かされて、目の前にいたのはスーパーで出会った小僧だった。
「ガキがどうしてここにいる?」
親玉はみっともない姿であったが、此奴にだけは強い自分でいようとしていたが、小僧は親玉と2体の巨大モンスターの間に立って、親玉に向かってこう言った。
「お前がこいつ等と楽しそうに戦っていたから、俺も混ざろうとな。」
悠徒は右眼に手を近づけて、眉毛の上から頬に向けて直線を描くように手をスライドさせた。
手を顔から離した瞬間、悠徒の目は黒色の状態から赤い目になった。
眼の力を解放した悠徒を目の前で見てしまった2体のモンスターは、悠徒からいち早く逃げようとするが、悠徒がそれを許さなかった。
悠徒は親指と中指をくっ付け、2体のモンスターの目の前で指を鳴らした。
だが、悠徒の指鳴らしは音が無かったが、魔力の波でモンスターの脳を揺らし、親玉は影響こそ受けていないが、悠徒の威圧感もとい魔力が自分が思っていた以上の力を持っていたので、もうダメだと親玉は諦めて、脱力した。
「お前に攻撃はしないさ。だって、お前は俺の仲間になるからな。」
悠徒は親玉の反応に瞬時に気付いてそう言い、親玉の周りの邪魔な鉄骨を魔法で広げて親玉を脱出させた。
「誰がお前なんかの仲間になるか!」
親玉は悠徒の魔法によって治癒されて、体も完全に完治していた。
「だって、あそこにいた時もそうだったが、お前の目は俺に仲間にして欲しそうな目をしていたぞ。」
悠徒はそう言いながらスーパーの方に戻ろうとした。
だが、親玉の方は納得がいかず、悠徒の手を全力で握って離そうとしないが、悠徒は平気な顔をしながら親玉を引っぱりながらスーパーに戻って行った。
スーパーに戻る途中―――
親玉は悠徒の力の差を身を持って知らされ、握っていた手を離し、悠徒の後ろ1mほどの距離をおいて付いて行っていた時、悠徒の口からとんでもない事を言い出した。
「じゃあ、闘って決めるか?」
悠徒はスーパーの近くにある児童公園の前でそう言って、児童公園内のサッカーグランドの方へ移動した。
移動している途中、親玉は無理だと思ったが、勝てば自分は自由の身。
悠徒の提案を呑まなくても、自分は悠徒の仲間になるなら一か八かで・・・・
親玉の頭の中では悠徒を倒すために作戦を建てていた。
「じゃあ、始めましょうか。」
悠徒はそう言いながらも、戦闘する感じじゃない、どう見ても脱力している格好に親玉には見えた。
「その前に、勝敗条件と報酬を決めないといけないだろ。」
「じゃあ、俺はお前が戦闘不能になるか降伏宣言を言ったら俺の勝ち。お前の方は俺に一撃でも俺に当てればお前の勝ちでどうだ?」
「それで良い。それで、報酬は?」
「俺が勝ったら、お前は俺の仲間になれ。お前が勝ったら・・・・お前が決めろ。」
「俺が勝ったら、小僧、お前が俺の仲間になれ。」
「分かった。」
悠徒と親玉は対話を終わると、悠徒はそのままの格好で、親玉は一撃でも当てれば勝ちなのでスピードを活かした態勢で開始の合図を待った。
開始の合図は、すぐに来た。
公園に結界を予め悠徒が張っていた所にモンスターが侵入した瞬間に、親玉の方が悠徒に向かって突進してきた。
だが、悠徒は親玉の攻撃を紙一重(悠徒自身は余裕)で回避すると、悠徒は親玉の背中に向けて炎を吐いた。
「小僧!お前は人間じゃないのか!?」
親玉はそう言いながら炎を振り払い、後ろを向いて悠徒を探したがどこにもいなかった。
悠徒は炎を出した瞬間、迅風の力で親玉の頭上を通って親玉の目の前に移動していたが、親玉は気付いていなかった。
背中を無防備に向けている親玉に悠徒は魔力を込めた両手を親玉に押し付けた瞬間、親玉は10tトラックに撥ねられた感じに吹き飛んだ。
攻撃を真面に喰らった親玉は脳震盪が起こった状態みたいにふらついており、悠徒は親玉の目の前に行き、止めに鳩尾に右手の人差し指を軽く当てた瞬間、親玉は崩れ落ちるように倒れた。
朦朧とした意識の中、目を覚ました親玉が見たのは悠徒と知らない女だった。
「ここは・・・」
親玉はそう言いながら体を起こそうとするが、体は動かなかった。
「目を覚ましたか。ここはお前と初めて会ったスーパーだ。」
悠徒はそう言いながら親玉に魔法を執行した。
悠徒が放った魔法は治癒系の魔法で、さらに付加能力で古傷や軽度の病気を治した。
「悠徒、いきなりこの人を連れて来た時はビックリしたけど、あの悠徒が敵を味方にするなんで・・・」
忍はそう言いながら頭を下げて笑っていた。
「おいおい、俺がそんな冷血男だったか?」
悠徒はそう言いながらも顔は笑っていた。
そんな会話を聞いていた親玉の口元が少しだけ笑っていた。
「笑っていたな。」「うん、笑っていたね。」
悠徒と忍はそう言うと親玉は真顔になろうとするが、羞恥心のせいで顔が赤くなってしまい、どう見ても恥じている顔にしか見えなかった。
「かわいいね、この子は」
「かわいいとか言うな!殺すぞ!こらぁ!」
親玉は顔を赤くしつつも忍に全力の拳を喰らわせようとするが、忍はため息をつきながらカウンターアタックを与えた。
忍の攻撃は親玉の全力の攻撃を吸収・倍増させる攻撃だったので、忍自身の攻撃なら親玉は五体満足に動けなくなっていた。
「ところで、この子の名前とかあるの?」
悠徒が親玉に治癒魔法をしているとき、忍が唐突にそう言った。
「名前か・・・あったっけ?」
「俺には名前は無い。」
悠徒のボケに親玉はツッコまずに返答した。
「じゃあ、私が名前を付けてあげる。」
そう言った忍は事務室から退室した。
~30分後~
「今から、あなたの名前は、ライドよ!」
忍は事務室のドアを勢い良く開けると同時にそう言った。
「・・・・忍。一応聞くが、名前の由来は?」
「プライドのプを抜いただけ。誇りを大切にしていると思ったからこの名前にしたの。可笑しい?」
忍の命名センスはどうかと思ったが、まあ、名前自体は可笑しくは無かったし、由来も、まあ此奴に合ってるから良いかと悠徒は思った。
「まあ、忍の意見を尊重して、お前の名前は今からライドで良いな?」
「ふん、お前に負けたからな・・・仕方なくライドという名で良い。」
ライドはそう言いながらも、忍が付けた名前を至極気に入っていた。
「じゃあ、これからよろしくな。ライド!」
「よろしく、ライド。」
悠徒と忍はそう言い、ライドに手を差し伸べた。
一瞬戸惑ったが、ライドは二人の手を両手で握って、誓いの握手を交わした。
翌日、悠徒は珍しく早起きをすると、部屋にライドの姿が見当たらないので、悠徒は結界の感知システムにアクセスしてライドの位置を特定した。
「よう。どうした?眠れなかったか?」
ライドの位置を特定した悠徒は結界内限定の魔力を消費しない瞬間移動で、ライドがいるスーパーの屋上、給水タンクの上に瞬間移動した。
「いや・・・一応は眠れたが、眠っている時に、今まで一緒にいた仲間との生活を夢見てな・・・」
ライドはそう言い、立ち上がった。
「まあ、アイツ等と一緒にいた時は、楽しくはあったが、心に大穴が開いたみたいに満たされなかった。」
ライドはそう言うと、悠徒の方に向いて、続けてこう言った。
「お前に会った時、此奴は俺の穴を埋めてくれる奴かもしれないと思った。まあ、まだお前が俺の穴を埋めてくれるかどうかは分からないがな。」
ライドはそう言って、微笑みを見せた。
「任せとけ!俺はお前の心の穴を必ず埋めてやる!覚悟しろよ!」
悠徒はそう言って拳をライドの胸元にコツンと当てた。
「はあ・・・はあ・・・。」
「おいおい、これでへばってるのか?」
「はあ・・・うるせぇ、はあ・・・お前の体力が常人離れしすぎだ!」
ライドは昨日の決闘で惨敗して、悠徒に手当てをされていた時、修業して強くして貰おうと秘かに思っていたが、悠徒が給水タンクの上での会話の後に急に稽古をつけると言い出したので、ライドと悠徒はスーパーの駐車場スペースで徒手格闘の稽古をしていた。
悠徒の腕前は、魔法世界でLibraryNetworkで格闘・剣技・銃術など、ありとあらゆる戦闘技術を頭に入れた悠徒は、歴代の格闘家の頂点に立つ程の腕前であったが、逆に、我流でやっていたライドは有段者に勝つか負けるか五分五分の力しかなかった。
結果的に、悠徒は汗を掻かずにライドを倒してしまった。
一方ライドの方は、始めは勝てるかもと思っていたが、段々戦意が消失するほど悠徒の攻撃が凄まじく、一撃も当てれずに地面に倒れ込んでしまった。
「あんた達ねぇ、朝っぱらから激しい運動をするとご飯が足りなくなるから止めて頂戴。」
スーパーの入り口から忍が出て来ながらそう言った。
「ああ、今日はこれ位にしようと思ってたから―――――」
「悠徒、どうしたの?」
「敵だ。」
結界内に入って来た何かに拘束魔法が自動的に発動して、相手の身動きを封じるのだが、魔法はそれを拘束する事ができず、悠徒は現場に上位魔法を放った。
だが、悠徒の魔法は|予知されていたかのように《・・・・・・・・・・・・》魔法が発動した所に魔法で中和されてしまった。
「レジストされた!忍・ライド、全員の所に急いで行って皆を守れ!俺は侵入者を撃退に行く!」
悠徒はそう言って瞬間移動で侵入者が入って来た所に移動した。
移動した悠徒は索敵で敵の場所を探した。
だが、悠徒の周りは魔法で作られた霧で覆われて、相手の魔力を追う事が出来なくなった。
「まいったなぁ・・・なんちゃって!」
悠徒はそう言った瞬間、悠徒の眼は魔力ではなく、熱を読み取るサーモグラフィのように相手の温度で位置を特定した。
けれど、悠徒の眼に映ったのは2人の人間だった。
悠徒は目を瞑った状態で、気配を消し、一撃で仕留めるように首を締め付けた。
「誰だ!」
悠徒は怒気を出して霧を一瞬で消し飛ばし、だんだん視界が良くなったので、侵入者を見た。
そこにいたのは、エリス・スタッフフォードとベルモント・ドグマ・チアの2人だった。