しろぜめ
ある意味、伝説となった攻城戦がある。
【白濁の攻城戦】
ブランカ要塞という小規模の砦に、一万もの大軍が敗北した戦いだ。
◆
攻城戦は一般に、守る側の方が有利とされている。
砦や城を落とすためには、兵力にして最低三倍から五倍、
必勝を期すならばさらに大戦力を集めねばならない、と言われる。
この要塞へと攻め込んだ将軍も、それは十分に理解しており、
要塞の兵力約五百名に対し、一万の大軍で事に当たった。
攻城塔も投石器も最新型を複数準備し、優秀な魔術師も複数揃えた。
あまり派手に攻撃して要塞を破壊してもまずいのだが、
要塞後ろには深い谷が広がっており、要塞の奥にある橋を通らねば、
相当遠回りしなければ隣国へは進めない。
どうしても落とす必要があった。
◆
少し気になる報告が本陣にいる将軍の元へ届く。
ある獣使いが、ブランカ要塞防衛に協力するらしい、と。
特異な才能を持つ相手は、警戒に値する。
英雄と呼ばれる人物が、死に体だった弱兵を奮い立たせることもある。
たった一人の大魔術師によって、有利不利が逆転した例も数多い。
暗殺者が腕を振るい、指揮系統が機能しなくなった話も聞く。
用心するには越したことはない。ないのだが…
獣使いである。
魔獣使い、というのなら侮れないだろう。
ベヒモスやヒュドラなど操られれば、こちらの被害は計り知れん。
しかし、例えばクマなどが襲ってこようが対処は難しくもない。
助っ人として役に立つのだろうか?
そう思っていると、要塞側に動きがあった。
拡声の魔術を使ってこちらに問いかけてくる。
「軍を引かれよ!そしてもう戻られるな!
さすれば我々も追わぬ!貴公らも敗北を知ることなし!」
怒りよりも呆れが来た。挑発しているのか?
たかだか五百でどうするというのだ。
こちらも拡声の魔術で返答する。
「引くことは出来ぬ!無駄死にしたくなくば直ちに門を開けよ!
降伏すれば、捕虜として丁重に扱う事を約束する!」
さて、どう出る?
興味を持った将軍は、留まって相手の出方を待つ。
要塞から、何かが噴き上がってきた。白っぽい何かだ。
それはどんどん膨れ上がり、大軍の上空に留まっている。
鳥である。無数の小さな白い鳥である。
そして。
空から白い雨のようなものが大量に降ってきた。
鳥の糞だ。途切れない。後から後から落ちてくる。猛烈に臭い。
矢でも、魔術で落とそうとしても、射程圏外で届かない。
一万の大軍は、あっという間に白濁した。
なんて嫌がらせだ。
将軍を含めた一万人は、何とも言えない不愉快さを感じた。
もうすっきりとしたのか、鳥達は要塞へと戻っていく。
癇癪を起こしたりはしないが、将軍は攻め込む意思を固める。
攻城塔を前に進ませようと指示を出したのだが。
第二陣がまたしても降ってきた。
しかも今度はひとつひとつがかなり大粒だ。
まともに目も開けられぬままどうにか仰ぎ見ると、
先程より大きな鳥が無数に飛んでいる。
やはり矢も魔法も届かない。
もう許さん。奴らは降伏しようが詫びようが全員処刑する。
腹に据えかねた将軍、全軍に指示を出そうとした。
そこに第三陣。
今度の鳥はたった一羽だが、空を覆うような巨大な鳥だった。
とてつもなく巨大な白い塊が落ちてきて、攻城塔を直撃した。
次々破壊される攻城塔。投石器も使い物にならない。
その破片は兵達へと降り注ぎ、辺りは白い地獄へ。
兵の七割以上重軽傷者を出して、軍は撤退を余儀なくされた。
将軍は「鳥の糞に敗北した男」として、歴史に名を残した。
この一帯は長い間悪臭で人が寄り付かなかったが、
半年後、優秀な肥料の産地として世に広まっている。
学生時代、同級生が鳥の爆撃を受けましてね…思い出したのでこれを書いてみました。
いっそ四部隊で、バーティ隊、イーグル隊、アルバトロス隊、コンドル隊とかでも良かったか。




