戻ってきた日々の輪郭
気づけば、あの頃の時間は遠くに置き去りにされていた。
朝が来ても、体は動かず、心だけが遅れてついてくるような日々。
何かを失ったというより、世界との距離の取り方が分からなくなっていた。
それでも、完全にひとりだったわけではない。
画面の向こうから届く「元気?」という短い言葉。
返せない日があっても、責めずに待ってくれる人がいた。
そのやりとりだけが、外の世界と自分をつなぐ細い糸だった。
季節が変わる頃、少しずつ空気が変わった。
新しい職場は、思っていたより静かで、思っていたより優しかった。
「最初は覚えること多いから、無理しなくていいですよ」
その一言に、肩の奥に入っていた力が抜ける。
できるかどうかではなく、ここにいていいかどうか。
その不安が少しずつ薄れていく。
休みの日には、久しぶりに友人と会うようになった。
以前と同じように笑っているはずなのに、どこか違う。
当たり前だった時間が、当たり前ではなくなっていたからだ。
「元気になってきたね」
何気ないその言葉に、胸の奥が静かに揺れた。
戻ってきたのは、過去そのものではない。
でも、それでもいいと思えた。
失った時間があったからこそ、
誰かと過ごす何気ない日常が、こんなにも温かい。
帰り道、夜風の中でふと思う。
あの頃の自分も、確かにここへ続いていたのだと。
遠回りに見えた時間も、今の自分へとつながっていたのだと。
日常は特別な奇跡ではない。
それでも、確かに戻ってきたものだった。




