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恋愛リアルホラー小説 【僕だけのアイドル】

作者: 虫松
掲載日:2026/05/19

液晶画面の向こう側で、ルナちゃんはいつだって“完璧”だった。


白いフリル。

透き通る声。

天使みたいな笑顔。


「みんな〜! 愛してるよ〜♡」


その瞬間


僕の脳内で、世界中の雑音が一斉に停止する。


上司の怒鳴り声。

コンビニ店員の無愛想な顔。

満員電車の汗臭さ。

SNSの炎上。

政治。

税金。

戦争。

人類。


全部どうでもよくなる。


ルナちゃんだけが、本物だった。


「ルナちゃん……」

「ルナちゃんルナちゃんルナちゃんルナちゃん」


気づけば僕は、部屋中の壁に貼られた彼女のポスターへ向かって呟いていた。


冷蔵庫にも。

風呂場にも。

天井にも。


全部、ルナちゃん。


歯磨きしながら配信を見る。

飯を食いながら切り抜きを見る。

寝ながらASMRを聴く。


「大丈夫……僕は正常だ」

「これは愛だ」

「純愛だ」

「宗教じゃない」

「違う」

「違う違う違う違う」


だけど深夜三時。

真っ暗な部屋の中で、モニターだけが青白く光る。


ルナちゃんが笑う。


「いつも応援ありがとう♡」


僕は泣いた。


「ああ……僕に言ってる」

「僕だけに」

「僕だけに違いない」


脳内で聖歌隊が歌う。


ルナ、ルナ、ルナ、ルナ。


純白。

純白。

純白。


彼女は汚れていない。

汚れてはいけない。

汚れるわけがない。


だから僕は追いかけた。


彼女の後を。


尾行じゃない。


巡礼だ。


聖地巡礼。


彼女が踏んだアスファルト。

彼女が吸った空気。

彼女が捨てたペットボトル。


全部、尊い。


「ああ……ルナちゃんのDNAが……」


僕は震えながらコンビニ袋を抱き締めた。


その瞬間だった。


彼女が、雑居ビルの奥へ消えた。


ネオンが明滅する。


赤。


紫。


青。


世界がぐにゃりと歪む。


脳味噌に直接、ノイズが流れ込む。


グチャッ。


バキッ。


ドロドロドロドロ。


「……え?」


扉の向こうから笑い声。


男の声。


煙。


知らない匂い。


嫌な予感。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


やめろ。


開けるな。


見るな。


でも見たい。


見なきゃ。


僕は、禁断の扉を開けた。


「あははははっ♡ もっとぉ♡」


そこにいたのは、“天使”じゃなかった。


薄暗い部屋。

紫煙。

床に転がる注射器。


砕かれた錠剤。


アルコール。


汗。


体液。


そして、

男の膝の上で笑うルナちゃん。


「あ……」


脳内の聖歌隊が爆発四散した。


ギャアアアアアアアアアアアア!!


純白だった世界が、黒い泥に沈んでいく。


嘘だ。


嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。


違う違う違う違う。


これは偽物だ。


CGだ。


AIだ。


ディープフェイクだ。


そうだ。


だってルナちゃんは天使だから。


こんな。


こんな。


こんな“肉”みたいな顔をするわけない。


男が笑う。


「誰? この人」


ルナちゃんも笑う。


「あは、キモ……ファンじゃね?」


キモ。


キモ。


キモ。


キモ。


その言葉が脳内で何万回も反響する。


ガンッ!!


頭の中で何かが壊れた。


違う。


違う違う違う!!


君はそんなこと言わない!!


もっと優しい!!

もっと綺麗!!

もっと神聖!!


「誰だ……」


僕は震えていた。


「誰がルナちゃんを壊した」


男か?


薬か?


社会か?


芸能界か?


ファンか?


世界か?


それとも――


「僕?」


違う。


違う違う違う。


僕は救世主だ。


そうだ。


僕だけが、本当のルナちゃんを知ってる。


この部屋にいるのは偽物だ。


汚染されたコピーだ。


なら。


修正しなきゃ。


調律しなきゃ。


編集しなきゃ。


「ルナちゃんを……元に戻さなきゃ」


脳内で拍手喝采。


観客席が沸く。


ブラボー!!


ブラボー!!


愛だ!!


純愛だ!!


「誰、あんた……?」


ルナちゃんが怯えた顔をする。


やめろ。


そんな顔するな。


僕を見る目じゃない。


僕は敵じゃない。


僕は君の唯一の理解者だ。


「入ってこないでよ、キモい!」


キモい。


まただ。


またその言葉。


耳の奥で増殖する。


キモキモキモキモキモキモ。


うるさい。


黙れ。


黙れ黙れ黙れ。


「静かにして」


僕はポケットから果物ナイフを取り出した。


銀色の刃。


ネオンに照らされ、美しく光る。


まるでステージライトみたいだ。


「あ……」


ルナちゃんの顔が青ざめる。


「嫌……」


「大丈夫」


「怖くない」


「すぐ綺麗になるから」


ザクッ。


肉を裂く感触。


温かい。


赤い。


真っ赤だ。


「ああああああッ!!」


悲鳴。


でもその声すら、歌みたいだった。


血飛沫が舞う。


薬物を染める。


床を染める。


僕を染める。


「ああ……綺麗だ」


綺麗。


綺麗綺麗綺麗。


今の君は綺麗だ。


男の記憶も。

薬の快楽も。

汚れた世界も。


全部消えていく。


やっと戻れる。


純白に。


永遠に。


ルナちゃんは静かだった。


もう汚い言葉を吐かない。


もう男に触られない。


もう壊れない。


完璧だ。


「あは……ははは……」


涙が止まらない。


嬉しい。


やっと一つになれた。


床の上で、僕たちの血が混ざる。


赤い。


真っ赤。


まるでスポットライト。


ラストライブ。


最後のステージ。


観客はいない。


だけどいい。


世界なんかいらない。


ルナちゃんがいればいい。


「僕も行くからね」


ナイフを胸に当てる。


ドクン。


ドクン。


怖い。


でも幸せ。


ぐちゃぐちゃの脳内で、聖歌隊がまた歌い始める。


ルナ。

ルナ。

ルナ。


永遠。

永遠。

永遠。


グサッ。


熱い。


痛い。


でも笑える。


「あははははは!!」


視界が崩れる。


世界が赤に染まる。


最後に見えたのは

ルナちゃんだった。


昔みたいな。

あの純白の笑顔で。

僕だけを見つめて。


そっと


微笑んだ気がした。


挿絵(By みてみん)


恋愛リアルホラー小説 【僕だけののアイドル】


END

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