ラウンド3:歴史が教える教訓
(照明が切り替わり、スタジオの壁面に歴史的な映像が次々と投影される。パナマ侵攻、イラク戦争、リビア介入……。戦車、爆撃、難民、そして瓦礫の山)
(あすかがクロノスを操作すると、空中に「ROUND 3」の文字が浮かび上がる)
あすか:「ラウンド3、『歴史が教える教訓』。ここまで、法的正当性と人道介入について議論してきました。このラウンドでは、視野をさらに広げ、過去の事例から何を学ぶべきかを考えます」
(クロノスを操作し、年表を空中に表示)
あすか:「20世紀後半から21世紀にかけて、アメリカは何度も他国に介入してきました。その目的は様々でした。『共産主義の脅威から守る』『独裁者を排除する』『大量破壊兵器を阻止する』『人道危機を止める』……」
(年表が点滅しながら、主要な介入事例が浮かび上がる)
あすか:「1989年、パナマ。2003年、イラク。2011年、リビア……。これらの介入から、私たちは何を学ぶべきでしょうか」
(4人を見渡す)
あすか:「そして、今回のベネズエラへの介入は、これらの歴史とどう関係するのでしょうか。過去の教訓は活かされているのか、それとも同じ過ちを繰り返そうとしているのか」
あすか:「ビスマルクさん、あなたは先ほどから歴史の教訓を強調されています。まず、あなたの分析からお聞かせください」
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ビスマルク:(ゆっくりと立ち上がり)「よろしい。私の専門分野だからな。歴史から学ぶことについて、詳しく話させてもらおう」
(スタジオを歩きながら、教壇に立つ教授のような口調で)
ビスマルク:「まず、基本的な原則を確認しておこう。『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』——これは私の言葉だ」
ルーズベルト:(皮肉に)「自分の言葉を引用するとは、謙虚だな」
ビスマルク:(意に介さず)「謙虚さは美徳だが、事実を述べることも美徳だ。では、歴史を見ていこう」
(クロノスの方を向いて)
ビスマルク:「あすかさん、1989年のパナマ侵攻の映像を表示してもらえるかな」
あすか:(クロノスを操作)「はい、『正義の大義作戦』の記録映像を表示します」
(ホログラムにパナマ市街地の映像が浮かぶ。爆撃、戦車、そして逮捕されるノリエガ将軍)
ビスマルク:「1989年12月、アメリカはパナマに侵攻した。目的は、麻薬密売に関与したマヌエル・ノリエガ将軍の拘束だった」
ルーズベルト:「私が先ほど言った通りだ。前例がある」
ビスマルク:「確かに前例だ。だが、その前例が何を教えているか、君は考えたことがあるか」
(指を立てて)
ビスマルク:「まず、この侵攻で何人が死んだか知っているか。アメリカの公式発表では、パナマ側の死者は約500人。だが、人権団体の調査では、民間人の死者だけで数千人という報告もある」
グロティウス:「それは……知りませんでした」
ビスマルク:「知らないだろう。アメリカは成功物語として語るからな。『独裁者を倒し、民主化を達成した』と」
ビスマルク:「だが、現実はどうだ。侵攻から35年以上経った今、パナマは安定した民主国家になったか」
あすか:「パナマは現在、民主主義国家として機能していますが……」
ビスマルク:「表面上はな。だが、麻薬密輸のルートは消えたか?政治腐敗は解消されたか?貧富の格差は縮小したか?——答えはすべて『否』だ」
(ルーズベルトを見て)
ビスマルク:「ノリエガを排除しても、彼が利用していたシステムは残った。麻薬カルテルは別のルートを見つけ、別の政治家を買収した。独裁者を一人倒しても、問題の根本は変わらなかったのだ」
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ビスマルク:「次に、2003年のイラク戦争を見よう」
(ホログラムが切り替わり、バグダッドへの空爆、フセイン像の引き倒し、そして混乱する市街地の映像)
ビスマルク:「サダム・フセインは確かに暴君だった。クルド人を化学兵器で虐殺し、クウェートを侵略し、自国民を弾圧した。彼を倒す『正当な理由』は、いくらでもあった」
ルーズベルト:「ならば……」
ビスマルク:「だが、アメリカが掲げた理由は何だった?『大量破壊兵器の脅威』だ。結局、大量破壊兵器は見つからなかった。理由そのものが嘘だったのだ」
グロティウス:「それは確かに、国際法上も道義上も大きな問題でした」
ビスマルク:「そして、介入の結果はどうだ。サダムは倒された。処刑された。だが、その後のイラクは」
(指を折りながら)
ビスマルク:「宗派対立の激化。スンニ派とシーア派の血で血を洗う抗争。何十万人もの民間人の死者。そして、その混乱の中から生まれたのがISIS——イスラム国だ」
ビスマルク:「サダムの圧政で死んだ人間より、『解放』後の混乱で死んだ人間の方が多い。これが『人道的介入』の結果だ」
ボリバル:(静かに)「それは……痛ましい事実だ」
ビスマルク:「痛ましいだけではない。予測可能だった。私のような現実主義者なら、最初から分かっていたことだ」
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ビスマルク:「そして、2011年のリビアだ」
(ホログラムが切り替わり、反政府デモ、NATO の空爆、カダフィの最期の映像)
ビスマルク:「これは『人道的介入』の典型例として語られている。カダフィが反政府デモを武力で弾圧し始めたとき、国連安保理は決議1973を採択した。『民間人を保護する』ためにだ」
グロティウス:「あれは、R2P(保護する責任)が初めて本格的に適用された事例でした」
ビスマルク:「その通りだ。そして、その『模範的な人道的介入』の結果を見てみよう」
(皮肉な笑みを浮かべて)
ビスマルク:「カダフィは倒された。群衆にリンチされて死んだ。だが、その後のリビアはどうなった」
ビスマルク:「国家は崩壊した。二つの政府が並立し、どちらも国を統治できていない。軍閥が跋扈し、武器が周辺国に流出し、テロ組織の温床となった」
ビスマルク:「そして、最も衝撃的なのは——奴隷市場の復活だ。21世紀のリビアで、人間が売り買いされている。カダフィの時代にはなかったことだ」
ルーズベルト:(言葉を失い)「……」
ビスマルク:「地中海を渡る難民の波も、リビアの崩壊と無関係ではない。何千人もの人々が、ヨーロッパを目指して海で溺れ死んでいる。『人道的介入』の副産物だ」
(席に戻りながら)
ビスマルク:「パナマ、イラク、リビア。三つの事例に共通するものは何か。介入は『成功』した。独裁者は倒された。だが、その後の安定は達成されなかった。多くの場合、状況は悪化した」
ビスマルク:「これが歴史の教訓だ。独裁者を倒すことは簡単だ。だが、その後の国を安定させ、民主化させることは、はるかに困難だ。そして、アメリカには、その覚悟も能力もない」
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ルーズベルト:(立ち上がり、明らかに苛立ちを見せながら)「ビスマルク、君の分析は一面的だ!失敗例ばかり挙げて、成功例を無視している!」
ビスマルク:「ほう、成功例があるのかね」
ルーズベルト:「もちろんある!歴史を公平に見れば、介入が成功した例はいくらでもある」
(スタジオを歩きながら)
ルーズベルト:「まず、第二次世界大戦後のドイツと日本だ」
あすか:(クロノスを操作)「戦後復興の映像を表示します」
(ホログラムに、廃墟から復興するドイツと日本の映像が浮かぶ)
ルーズベルト:「ナチス・ドイツと軍国主義日本。これ以上ない独裁体制だった。アメリカを含む連合国は、徹底的な軍事介入を行い、これらを打ち倒した」
ルーズベルト:「その後どうなった?占領、民主化、経済支援……。今や両国は、世界有数の民主主義国家であり、経済大国だ。介入は大成功だった」
ビスマルク:(冷笑して)「私の国を例に出すとは皮肉だな。だが、あれは『全面戦争の後の無条件降伏』という特殊な状況だった。ベネズエラと比較するのは不適切だ」
ルーズベルト:「不適切?なぜだ」
ビスマルク:「第一に、ドイツと日本は完全に敗北した。抵抗する力が残っていなかった。ベネズエラはそうではない」
ビスマルク:「第二に、占領は何年続いた?ドイツは10年以上、日本は7年だ。その間、何十万人もの占領軍が駐留し、膨大な資金が投入された。アメリカに、ベネズエラで同じことをする覚悟があるか」
ルーズベルト:「覚悟の問題ではない。必要なら……」
ビスマルク:「必要なら、何だ?イラクでは20年駐留して、結局撤退した。アフガニスタンでも20年かけて、タリバンに逆戻りだ。アメリカの『覚悟』など、その程度だ」
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ルーズベルト:(少し押されながらも)「では、韓国はどうだ」
あすか:「朝鮮戦争と韓国の発展についてですね」
ルーズベルト:「そうだ。1950年、北朝鮮が韓国に侵攻した。アメリカは国連軍として介入し、韓国を守った」
ルーズベルト:「その後、韓国は何十年もかけて民主化と経済発展を遂げた。今や世界第10位の経済大国だ。K-POP、サムスン、ヒュンダイ……。これは介入の成功例ではないか」
ビスマルク:「韓国か。確かに、最終的には民主化した。だが、その過程を見てみろ」
ビスマルク:「戦後、韓国では何が起きた?李承晩独裁、朴正煕のクーデター、軍事政権……。民主化が実現したのは1987年、介入から37年後だ」
ビスマルク:「そしてその間、アメリカは何をしていた?軍事独裁政権を支援していたのだ。『反共の砦』として」
グロティウス:「それは確かに、アメリカ外交の暗部として批判されています」
ビスマルク:「暗部?いや、これがアメリカ外交の本質だ。『民主主義の推進』など建前に過ぎない。本音は『自国の利益に従順な政権の維持』だ」
ルーズベルト:(声を荒げて)「それは不公平な見方だ!」
ビスマルク:「不公平?では聞こう。なぜアメリカはサウジアラビアの独裁を批判しない。なぜエジプトの軍事政権を支援している。なぜイスラエルの行動を擁護し続ける」
ビスマルク:「答えは簡単だ。彼らが『味方』だからだ。民主主義も人権も、関係ない。味方なら独裁でも許される。敵なら民主主義でも潰される。それがアメリカの本質だ」
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ボリバル:(静かに立ち上がり)「ここで、私からも一つ指摘させてほしい」
あすか:「どうぞ、ボリバルさん」
ボリバル:「ビスマルクさんが今、核心を突いた。ダブルスタンダード——二重基準の問題だ」
(スタジオを歩きながら、声に熱を帯びさせて)
ボリバル:「なぜベネズエラなのか。なぜ今なのか。私はこの問いを、ずっと考えてきた」
ボリバル:「ベネズエラの大統領は確かに独裁者だ。人権を侵害し、民衆を弾圧している。だが、世界には同様の、あるいはもっとひどい独裁者がいくらでもいる。なぜ彼らは拘束されない」
(指を折りながら)
ボリバル:「サウジアラビアのムハンマド皇太子。ジャーナリストのジャマル・カショギを殺害した疑いがある。証拠は圧倒的だ。だが、アメリカは彼を『パートナー』と呼んでいる」
ルーズベルト:「サウジアラビアは……状況が複雑で……」
ボリバル:「複雑?何が複雑だ。石油と武器取引だろう」
ボリバル:「エジプトのシシ大統領。2013年にクーデターで政権を奪い、何千人もの反対派を投獄し、拷問している。だが、アメリカは毎年、何十億ドルもの軍事援助を送り続けている」
ボリバル:「トルコのエルドアン大統領。ジャーナリストを投獄し、クルド人を弾圧し、反対派を粛清している。だが、彼はNATOの同盟国だから、批判は控えめだ」
(ルーズベルトの方を向いて)
ボリバル:「ルーズベルトさん、あなたに問いたい。なぜベネズエラの独裁者は『犯罪者』として拘束され、サウジアラビアの独裁者は『パートナー』として歓迎されるのか」
ルーズベルト:(言葉に詰まる)「それは……麻薬の問題が……」
ボリバル:「麻薬?アフガニスタンのアヘン生産は、アメリカの占領中に激増した。タリバンが支配していた時代より、アメリカが『解放』した後の方が、生産量は多かった」
グロティウス:「それは確かに、皮肉な事実です」
ボリバル:「皮肉ではない。これが現実だ。アメリカの『正義』は、選択的に適用される。友好的な独裁者は見逃され、敵対的な独裁者だけが『犯罪者』として扱われる」
(声を強めて)
ボリバル:「これがダブルスタンダードでなくて何だ。これを見て、世界の人々がアメリカの『正義』を信じると思うか」
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ボリバル:「そしてもう一つ、中南米の視点から言わせてもらう」
(世界地図を指さしながら)
ボリバル:「アメリカは過去100年以上、中南米に介入し続けてきた。そのすべてが『正義』や『民主主義』の名の下に行われた」
ボリバル:「1954年、グアテマラ。民主的に選ばれたアルベンス大統領を、CIAがクーデターで転覆した。理由は、彼がユナイテッド・フルーツ社の土地を接収しようとしたからだ。果物会社の利益のために、民主主義を破壊したのだ」
ボリバル:「1973年、チリ。アジェンデ大統領、南米初の民主的に選ばれた社会主義者。彼も CIAの支援を受けたクーデターで倒された。その後17年間、ピノチェトの軍事独裁が続いた」
ボリバル:「1980年代、ニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラス……。アメリカは右派の軍事政権やゲリラを支援し、何万人もの民間人が死んだ」
(ルーズベルトを見つめて)
ボリバル:「ルーズベルトさん、あなた自身もこの歴史の一部だ。あなたの『棍棒外交』、あなたのパナマ運河建設……。あなたは『ルーズベルト系論』を唱え、アメリカが中南米の『国際警察』として行動する権利を主張した」
ルーズベルト:「それは地域の安定のために……」
ボリバル:「安定?誰のための安定だ。アメリカ企業のための安定だろう」
(深く息をついて)
ボリバル:「私は解放者として、外国の支配から南米を解放しようとした。だが、スペインが去った後、アメリカが来た。形を変えた支配が続いているのだ」
ボリバル:「だから、中南米の人々は、アメリカの『介入』を疑いの目で見る。どんなに美しい言葉で飾っても、その裏に何があるか、我々は知っているからだ」
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あすか:「ボリバルさん、ありがとうございます。グロティウスさん、法的な観点から、この『ダブルスタンダード』の問題についてお聞かせください」
グロティウス:(立ち上がり、書物を手に)「ボリバルさんの指摘は、法の観点からも極めて重要です」
(スタジオを歩きながら)
グロティウス:「法の前の平等——これは、あらゆる法秩序の根幹です。同じ行為に対しては、同じ基準が適用されなければならない。そうでなければ、それは法ではなく、強者の恣意に過ぎません」
グロティウス:「ボリバルさんが指摘されたように、アメリカは『味方』の独裁者には寛容で、『敵』の独裁者には厳しい。これは、法の平等な適用という原則に明らかに反しています」
ビスマルク:「当然のことだ。国際政治に『法の支配』など存在しない。あるのは力の支配だけだ」
グロティウス:(ビスマルクを見て)「ビスマルクさん、あなたのような現実主義者がそう言うのは分かります。しかし、だからといって法の追求を諦めるべきではありません」
グロティウス:「むしろ、このようなダブルスタンダードこそが、国際法秩序を弱体化させているのです。アメリカが自らの基準を恣意的に適用すればするほど、国際法の権威は失われていきます」
(全員を見渡して)
グロティウス:「そして、ここで最も重要な論点があります。今回の拘束が作る『前例』の問題です」
あすか:「ラウンド1でも触れられた点ですね」
グロティウス:「はい。しかし、歴史的文脈の中で、この前例の危険性をもう一度強調させてください」
(声を強めて)
グロティウス:「今日、アメリカが『彼は犯罪者だ』と断じて、ベネズエラの大統領を拘束しました。これは、他の大国にも同様の行動を正当化する論理を与えることになります」
グロティウス:「中国が、台湾の総統を『分離主義者』『国家反逆者』として拘束する。ロシアが、ウクライナの大統領を『ネオナチ』『戦争犯罪者』として拘束する。イランが、イスラエルの首相を『テロリスト』『ジェノサイドの首謀者』として拘束する」
ルーズベルト:「それは全く異なる状況だ!我々には正当な理由が……」
グロティウス:「ルーズベルトさん、彼らも同じことを言うでしょう。『我々には正当な理由がある』と。『彼は犯罪者だ』と。誰が正しいかを判断する『世界政府』は存在しないのです」
グロティウス:「だからこそ、国際法が必要なのです。すべての国に平等に適用される基準が。一国の独断ではなく、国際社会の合意に基づく判断が」
(席に戻りながら)
グロティウス:「今回の行為は、その国際法秩序を根底から揺るがすものです。アメリカが『例外』として行動すればするほど、他の国々も同様の『例外』を主張するようになる。そして、国際法は形骸化し、あるのは力の支配だけになる」
グロティウス:「ビスマルクさん、あなたはそれを『現実』と呼ぶかもしれません。しかし、その『現実』を変えようとしなければ、人類は永遠に弱肉強食の世界に生き続けることになります」
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ルーズベルト:(立ち上がり、少し声を落として)「諸君、私はここまでの議論を聞いてきた。君たちの指摘の多くは、正しいと認めざるを得ない」
(スタジオを歩きながら、珍しく内省的な口調で)
ルーズベルト:「アメリカの介入の歴史には、暗い部分がある。グアテマラ、チリ、ニカラグア……。私自身のパナマでの行動も、批判されるべき点があったかもしれない」
ビスマルク:(驚いて)「ほう、自己批判とは珍しいな、ルーズベルト君」
ルーズベルト:「皮肉を言うな、ビスマルク。私は正直に話している」
(全員を見渡して)
ルーズベルト:「だが、私に言わせれば、それは『介入そのものが悪い』という証拠ではない。『やり方が悪かった』ということだ」
ルーズベルト:「そして、過去の失敗を理由に、今後一切の介入を否定するのは、論理的ではない」
グロティウス:「しかし、同じパターンが繰り返されているのでは……」
ルーズベルト:「繰り返さないために、学ぶのだ!」
(声を強めて)
ルーズベルト:「イラクで失敗した。なぜか。戦後の計画がなかったからだ。宗派対立を軽視したからだ。早すぎる撤退を決めたからだ」
ルーズベルト:「リビアで失敗した。なぜか。空爆だけで済ませようとしたからだ。地上での安定化に責任を持たなかったからだ」
ルーズベルト:「これらの教訓を活かせば、次は成功できるかもしれない。少なくとも、試みる価値はある」
ボリバル:「しかし、ルーズベルトさん、その『試み』の代償を払うのは、介入される側の民衆です。失敗の『実験台』にされるのは、私たちなのです」
ルーズベルト:(ボリバルを真剣に見つめて)「ボリバル、君の言葉は重い。だが、私に問いたい。何もしないことの代償は誰が払う」
(声を震わせて)
ルーズベルト:「700万人の難民、飢える子供たち、拷問される政治犯……。彼らは今、この瞬間も苦しんでいる。『歴史の教訓』を議論している間にも、人が死んでいる」
ルーズベルト:「君たちは『介入のリスク』を語る。正しい。だが、『不作為のリスク』はどうだ。何もしないで、悲劇が拡大するのを見ているだけでいいのか」
ルーズベルト:「1994年、ルワンダ。100日間で80万人が虐殺された。国際社会は何をした?何もしなかった。『内政不干渉』『主権尊重』……立派な原則を唱えながら、虐殺を傍観した」
グロティウス:(静かに)「あれは……国際社会の恥辱です」
ルーズベルト:「その通りだ!あの時、介入していれば、何十万人もの命が救えたかもしれない。だが、誰も動かなかった。『リスク』を恐れて」
(拳を握りしめて)
ルーズベルト:「私は、そのような傍観者にはなりたくない。たとえ失敗するリスクがあっても、行動する方を選ぶ。それが私の信念だ」
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ビスマルク:(ゆっくりと立ち上がり)「ルーズベルト君、君の情熱は認めよう。ルワンダの例を出したのも、効果的だった」
ルーズベルト:「皮肉か、ビスマルク」
ビスマルク:「いや、本心だ。だが、一つ指摘させてくれ」
(スタジオを歩きながら)
ビスマルク:「ルワンダは確かに悲劇だった。介入すべきだったかもしれない。だが、ルワンダとベネズエラは同じか?」
ルーズベルト:「人道危機という点では……」
ビスマルク:「規模が全く違う。ルワンダでは100日間で80万人が虐殺された。1日に8000人だ。計画的な、組織的な大量虐殺だった」
ビスマルク:「ベネズエラの状況は深刻だ。それは認める。だが、大量虐殺は起きていない。難民危機、経済崩壊、政治弾圧……。ひどい状況だが、ルワンダとは次元が違う」
ビスマルク:「すべての人道危機に同じ対応をすることはできない。程度の問題、状況の問題がある。ルワンダを持ち出して、あらゆる介入を正当化するのは、論理の飛躍だ」
ルーズベルト:「では、どこで線を引く?何人死ねば介入が正当化される?10万人か?100万人か?」
ビスマルク:「そういう問いの立て方自体が間違っている」
(ルーズベルトの前に立って)
ビスマルク:「問題は『何人死んだか』ではない。『介入が状況を改善するか』だ」
ビスマルク:「ルワンダの場合、軍事介入で虐殺を止められた可能性は高い。明確な加害者と被害者がいて、虐殺という具体的な行為を阻止すればよかった」
ビスマルク:「ベネズエラの場合、状況はより複雑だ。大統領を排除しても、経済は回復しない。政治対立は解消しない。むしろ、権力の空白が新たな混乱を生む可能性が高い」
ビスマルク:「つまり、介入しても状況が改善する保証がない。むしろ悪化するリスクがある。それが、私がこの介入に反対する理由だ」
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ビスマルク:「そしてもう一つ、根本的な問題がある」
(全員を見渡して)
ビスマルク:「君たちは『歴史から学ぶ』と言う。だが、本当に学んでいるか?」
ビスマルク:「イラクの失敗から何を学んだ?『戦後計画が必要だ』?結構だ。では、リビアではどうした?戦後計画なしに空爆だけして、後は放置した。同じ失敗を繰り返したのだ」
ビスマルク:「アフガニスタンでは20年かけて『国家建設』を試みた。結果は?タリバンの復活だ。20年の努力と何兆ドルもの資金が、水の泡になった」
ビスマルク:「なぜ同じ失敗を繰り返すのか。答えは簡単だ。問題の根本を理解していないからだ」
(声を強めて)
ビスマルク:「外から押し付けられた『民主主義』は、根付かない。その国の文化、歴史、社会構造に合った政治体制は、内側から育つしかないのだ」
ビスマルク:「君たちアメリカ人は、『民主主義は普遍的だ』と信じている。どの国にも適用できる万能薬だと。だが、それは傲慢な思い込みだ」
ルーズベルト:「民主主義は普遍的な価値だ!すべての人間は自由と自己決定の権利を……」
ビスマルク:「理念としてはそうかもしれない。だが、制度としての民主主義が機能するには、前提条件がある。教育、法の支配、市民社会、中産階級の存在……。これらがなければ、選挙を行っても、結果は混乱かポピュリストの台頭だ」
(席に戻りながら)
ビスマルク:「ベネズエラにその条件が揃っているか?私には、そうは思えない。だから、大統領を排除しても、状況は改善しない。別の形の混乱が始まるだけだ」
ビスマルク:「これが、私が歴史から学んだ教訓だ。君たちが同じ教訓を学べるかどうかは……正直、期待していない」
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(緊張した沈黙が流れる)
ボリバル:(静かに)「ビスマルクさん、あなたの分析は冷徹だが、多くの点で正しいと思う」
ビスマルク:「ほう」
ボリバル:「私自身、南米を『解放』した後、同じ問題に直面した。民主主義の制度を導入しても、それを支える文化や教育がなければ、機能しない。カウディーリョが次々と現れたのは、偶然ではなかった」
グロティウス:「つまり、介入の前に、長期的な視点での準備が必要だということですね」
ボリバル:「そうだ。軍事介入だけでは、何も変わらない。教育、経済支援、市民社会の育成……。そういった地道な努力が、何十年も必要だ」
ルーズベルト:「だが、その間に苦しむ人々は……」
ボリバル:「分かっている。だから私は葛藤しているのだ」
(全員を見渡して)
ボリバル:「正直に言おう。私には答えがない。今苦しんでいる人々を救いたい。だが、拙速な介入が、より多くの苦しみを生む可能性もある。どちらを選んでも、誰かが犠牲になる」
グロティウス:「それが、この問題の本質的な難しさですね。どの選択肢にも、犠牲が伴う」
ルーズベルト:「だとしても、私は行動を選ぶ。何もしないよりは……」
ビスマルク:「そして、その『行動』の結果を、他の誰かが引き受けることになる。君自身ではなく」
(鋭い視線の交錯)
あすか:(4人を見渡し、静かに)「歴史の教訓。それは明確な答えを与えてくれるものではないのかもしれません」
あすか:「パナマ、イラク、リビア……。これらの事例は、介入の危険性を教えています。一方で、ルワンダは、不作為の危険性を教えています」
あすか:「そして、ダブルスタンダードの問題。アメリカの『正義』が選択的に適用されてきたという歴史的事実は、今回の介入の正当性にも影を落としています」
(クロノスを確認して)
あすか:「介入すべきか、すべきでないか。歴史は、どちらの選択にもリスクがあることを教えています。重要なのは、そのリスクを認識した上で、最善の判断を下すことなのでしょう」
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あすか:「ラウンド3、『歴史が教える教訓』。パナマ、イラク、リビアの事例から、介入の困難さと限界が浮き彫りになりました」
あすか:「ビスマルクさんは、介入の多くが長期的には失敗に終わっていることを指摘されました。ルーズベルトさんは、成功例もあること、そして不作為のリスクを強調されました」
あすか:「ボリバルさんは、アメリカの介入の歴史に対する中南米の視点を示してくださいました。そしてグロティウスさんは、今回の前例が国際秩序に与える影響を警告されました」
(視聴者に向かって)
あすか:「歴史は、答えを与えてくれません。しかし、考えるための材料を与えてくれます。過去の成功と失敗から何を学び、どう行動するか。それは、今を生きる私たちの判断に委ねられています」
(照明が切り替わり始める)
あすか:「いよいよ最終ラウンドです。ここまでの議論を踏まえ、4人の賢人に、それぞれの最終的な結論をお聞きします」
あすか:「ラウンド4、『それぞれの結論』。この難問に対する、4つの答えをお届けします」
(4人がそれぞれの表情を見せる中、照明が完全に切り替わる)




