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ラウンド1:法執行か主権侵害か

(照明が切り替わり、スタジオ全体が厳粛な雰囲気に包まれる。あすかがクロノスを操作すると、空中に「ROUND 1」の文字が浮かび上がる)


あすか:「ラウンド1、『法執行か主権侵害か』。最初の論点は、今回の拘束行為の法的正当性についてです」


(ホログラムが切り替わり、アメリカ司法省の紋章と起訴状の映像が映し出される)


あすか:「アメリカ政府は、ベネズエラ大統領を『麻薬密売の首謀者』として起訴し、拘束しました。彼らの主張は明確です——これは『国家元首の逮捕』ではなく、『国際犯罪者の法執行』であると」


(映像が切り替わり、国連本部、国際司法裁判所の建物が映る)


あすか:「一方、批判する側は『主権侵害』だと非難しています。現職の国家元首を、他国が一方的に拘束することは、国際法の根幹を揺るがすと」


(クロノスを操作し、新たな情報を表示)


あすか:「ここで視聴者の皆さまにご説明いたします。『主権免除』という国際法上の原則があります」


(ホログラムに解説文が浮かぶ)


あすか:「これは、国家元首や政府高官は外国の裁判所で訴追されないという原則です。国家の対等性——つまり『対等な者は対等な者を支配しない』という考え方に基づいています」


グロティウス:(小さく頷きながら)「ラテン語で『Par in parem non habet imperium』と言います」


あすか:「ありがとうございます、グロティウスさん。この原則と、今回の拘束はどう折り合うのでしょうか」


(4人を見渡す)


あすか:「ルーズベルトさん、まずはあなたのお考えを詳しくお聞かせください。なぜこの拘束は『法執行』として正当化されるのでしょうか」


---


ルーズベルト:(椅子から身を乗り出し、力強い声で)「よろしい。まず明確にしておきたいことがある」


(立ち上がり、スタジオを歩きながら)


ルーズベルト:「我々が拘束したのは『国家元首』ではない。国際的な麻薬カルテルの首領だ。この区別は極めて重要だ」


グロティウス:「しかし、彼は現職の大統領として……」


ルーズベルト:(手を挙げて遮り)「待ってくれ、グロティウスさん。私の話を最後まで聞いてほしい」


(クロノスの方を向いて)


ルーズベルト:「あすかさん、彼の『犯罪歴』を表示してもらえるかな」


あすか:(クロノスを操作)「はい、米国司法省の起訴状に基づく容疑を表示します」


(ホログラムに起訴内容が浮かぶ)


ルーズベルト:(ホログラムを指さしながら)「見てくれ。コカインの大量密輸への関与、麻薬テロ組織FARCとの共謀、アメリカの金融システムを利用したマネーロンダリング……。これは『政治的意見の相違』ではない。純然たる犯罪だ」


ビスマルク:(皮肉に)「アメリカの法律に基づく犯罪、だろう?」


ルーズベルト:(ビスマルクを睨んで)「ビスマルク、麻薬密売は世界中どこでも犯罪だ。君の国でも、私の国でも、どこでもだ」


ボリバル:「しかし、それを裁く権限がアメリカにあるのかという問題では……」


ルーズベルト:(ボリバルの方を向いて)「ボリバル、聞いてくれ。毎年、アメリカでは7万人以上が薬物の過剰摂取で死んでいる。7万人だ!これは戦争の死者数に匹敵する」


(声を強めて)


ルーズベルト:「そのコカインの多くが、どこから来ているか知っているか?南米だ。そしてそのルートを支配し、利益を得ていたのが、このベネズエラの『大統領』だ」


ルーズベルト:「彼は大統領という肩書きを悪用して、何トンものコカインをアメリカに送り込み、我が国の若者たちを殺してきた。そのような人物を『国家元首』として尊重せよというのか?私には到底受け入れられない」


グロティウス:「ルーズベルトさん、お気持ちは理解します。しかし……」


ルーズベルト:(さらに声を強めて)「主権免除?それは正当な国家元首に適用されるものだ。彼は選挙を盗み、国民を飢えさせ、犯罪組織と手を組んだ。彼は『大統領』ではない。『麻薬テロリスト』だ!」


(拳を握りしめて)


ルーズベルト:「アメリカには、自国民を守る義務がある。私が大統領だった時も、その義務を果たすために行動した。今回の拘束は、まさにその義務の遂行だ。法執行として、完全に正当だと私は確信している」


(席に戻りながら)


ルーズベルト:「正しいことをするのに、許可を求める必要はないのだ」


---


あすか:「ルーズベルトさん、ありがとうございます。グロティウスさん、国際法の専門家として、今の主張にどうお答えになりますか」


グロティウス:(書物から手を離し、穏やかに、しかし毅然とした態度で立ち上がる)「ルーズベルトさん、あなたの情熱は理解します。麻薬による被害は深刻であり、それを憂慮するお気持ちはもっともです」


ルーズベルト:「ならば……」


グロティウス:(手を挙げて制し)「しかし、法とは感情で曲げてはならないものです。今日は感情を脇に置いて、冷静に法理を検討させてください」


(スタジオを歩きながら、教授が講義をするような口調で)


グロティウス:「まず、問題を整理しましょう。第一の論点——彼が『正当な』国家元首かどうかを判断する権限は、アメリカにあるのでしょうか」


ルーズベルト:「選挙は不正だった。国際社会の多くがそれを認めている」


グロティウス:「確かに、選挙の正当性には疑義があります。しかし、ルーズベルトさん、『国際社会の多く』とはどこでしょう。アメリカとその同盟国です。一方、中国、ロシア、その他多くの国々は、彼を正当な大統領として承認しています」


ビスマルク:(腕を組んだまま)「つまり、誰が『正当』かは、立場によって異なるということだな」


グロティウス:「その通りです、ビスマルクさん。だからこそ、一国が独自の判断で他国の元首の正当性を否定し、拘束するという行為は、極めて危険なのです」


(ルーズベルトの方を向いて)


グロティウス:「第二の論点——たとえ彼が犯罪者であったとしても、現職の国家元首である以上、国際法上の手続きを経るべきです」


ルーズベルト:「手続き?国際刑事裁判所か?アメリカは加盟していないぞ」


グロティウス:「それは皮肉なことですね。アメリカは国際刑事裁判所に加盟せず、その管轄権を認めていない。にもかかわらず、今回は独自の法律で他国の元首を裁こうとしている。これは矛盾ではないでしょうか」


ルーズベルト:(言葉に詰まる)「それは……」


グロティウス:「国連安保理の決議を求めることもできたはずです。国際社会の合意を得た上での行動であれば、法的正当性ははるかに高まったでしょう」


ルーズベルト:「安保理?ロシアと中国が拒否権を使う。機能しないことは分かりきっている」


グロティウス:(静かに、しかし鋭く)「機能しないから無視する。それが法秩序に対するあなたの態度ですか、ルーズベルトさん」


(一拍置いて)


グロティウス:「第三の論点——これが最も重要です。今回の行為が作る『前例』について考えてください」


(スタジオ全体を見渡しながら)


グロティウス:「今日、アメリカが『彼は犯罪者だ』と断じて、他国の元首を拘束した。では、明日はどうなりますか」


あすか:「どういう意味でしょうか、グロティウスさん」


グロティウス:「中国が、台湾の総統を『分離主義者』として拘束したらどうなりますか。ロシアが、ウクライナの大統領を『テロリスト』として拘束したら。イランが、イスラエルの首相を『戦争犯罪者』として拘束したら」


ルーズベルト:「それは全く違う状況だ!」


グロティウス:「本当にそうでしょうか。彼らも同じことを言うでしょう。『我々には正当な理由がある』と。『彼は犯罪者だ』と。『我が国民を守る義務がある』と」


(ルーズベルトを真剣に見つめて)


グロティウス:「ルーズベルトさん、あなたは今日、パンドラの箱を開けたのです。一度開けたら、もう閉じることはできません」


(席に戻りながら)


グロティウス:「法の役割は、一時的な正義を実現することではありません。長期的な秩序を維持することです。今日の便宜のために明日の秩序を犠牲にすれば、我々は皆、その代償を払うことになります」


---


ルーズベルト:(立ち上がり、明らかに苛立ちを見せながら)「グロティウスさん、あなたの論理は美しい。実に美しい。だが、あなたは法廷にいるのではない。現実の世界にいるのだ!」


(スタジオを歩き回りながら、情熱的に語る)


ルーズベルト:「あなたは言った、国際刑事裁判所に訴追すべきだと。国連安保理の決議を求めるべきだと。だが、それらが機能しないことは、あなた自身が認めたではないか」


グロティウス:「機能させる努力をすべきです。法制度は……」


ルーズベルト:(遮って)「努力?その『努力』をしている間に、何が起こっている?毎日、コカインがアメリカに流れ込んでいる。毎日、若者が死んでいる。毎日、ベネズエラの民衆が飢えている」


(グロティウスの前に立ち)


ルーズベルト:「グロティウスさん、あなたに聞きたい。法律書を読んでいる間に、何人の子供たちがコカインで死ねばいいのか。何人の母親が息子を失えばいいのか。何人のベネズエラ人が飢えればいいのか」


グロティウス:(冷静に)「感情的な議論は……」


ルーズベルト:「感情的?これは感情の問題ではない!数字の問題だ!」


(クロノスの方を向いて)


ルーズベルト:「あすかさん、アメリカの薬物死亡者数を表示してくれないか」


あすか:(クロノスを操作)「はい、米国疾病対策センターのデータを表示します」


(ホログラムに棒グラフが浮かぶ。年々増加する死亡者数)


ルーズベルト:「見てくれ。2020年、9万人以上。2021年、10万人以上。毎年、増え続けている。これは戦争だ!アメリカの若者に対する戦争だ!」


(グロティウスを見つめて)


ルーズベルト:「そして、その戦争を仕掛けている敵の首領が、『大統領』という肩書きで守られている。あなたは、その『保護』を続けろと言うのか」


グロティウス:「私が言っているのは、正当な手続きを……」


ルーズベルト:「正当な手続き!ノリエガの時も同じことを言った連中がいた!」


あすか:「ノリエガ将軍の件ですね。1989年のパナマ侵攻で……」


ルーズベルト:「そうだ。パナマのマヌエル・ノリエガ。彼も麻薬密売に関与していた。アメリカは彼を拘束し、裁判にかけ、有罪判決を下した。あれから30年以上経つが、国際秩序は崩壊したか?」


グロティウス:「あの時も、多くの国際法学者が批判しました。そして、その前例が……」


ルーズベルト:「前例?前例が何だ!結果を見ろ!ノリエガは排除され、パナマは民主化への道を歩んだ。完璧ではないが、独裁者の下よりはましだ」


(席に戻りながら、声を落として)


ルーズベルト:「私は批評家席に座ることを拒否する。アリーナに立ち、泥にまみれ、時に間違えながらも、行動する者の側に立つ。それが私の信念だ」


---


ビスマルク:(ゆっくりと手を挙げて)「少し口を挟んでもいいかね」


あすか:「どうぞ、ビスマルクさん」


ビスマルク:(皮肉な笑みを浮かべながら)「ルーズベルト君、君の正義感は実に立派だ。『アリーナに立つ者』か。詩的な表現だな」


ルーズベルト:(警戒するように)「何が言いたい、ビスマルク」


ビスマルク:「いや、ただ一つ確認したいことがある」


(ゆっくりと立ち上がり)


ビスマルク:「君は1903年にパナマで同じことをした。コロンビアからパナマを無理やり独立させ、運河を手に入れた。あれは『正義』だったのか、それとも『国益』だったのか」


ルーズベルト:(一瞬沈黙し、それから力強く)「両方だ。パナマの人々は独立を望んでいた。そして運河は世界の貿易を発展させた。正義と国益は矛盾しない」


ビスマルク:(首を傾げて)「都合のいい解釈だな。では聞こう。コロンビア政府は独立を認めていなかった。君たちは軍艦を送り、コロンビア軍の介入を阻止した。これは『主権侵害』ではないのかね」


ルーズベルト:「それは……状況が違う」


ビスマルク:「どう違う?教えてくれたまえ」


ルーズベルト:「コロンビア政府は腐敗していた。運河建設の交渉を不当に引き延ばしていた。そして何より、パナマの人々が独立を望んでいたのだ」


ビスマルク:(皮肉に)「なるほど。つまり、相手国政府が『腐敗』していて、『不当な』行動を取り、その国民が『解放を望んでいる』なら、介入は正当化されるというわけだ」


(ルーズベルトを見据えて)


ビスマルク:「それは便利な論理だな。いつでも、どこでも、アメリカが気に入らない政府を転覆する口実になる」


ルーズベルト:(声を荒げて)「口実ではない!事実だ!」


ビスマルク:「事実かどうかを決めるのは誰だ?アメリカか?アメリカが世界の裁判官なのか?」


(グロティウスの方を向いて)


ビスマルク:「グロティウスさん、私は法律には詳しくない。だが、一つだけ分かることがある。法とは、すべての者に平等に適用されて初めて法たり得る。強者だけが法を語り、弱者だけが法を守らされるなら、それは法ではない。ただの支配だ」


グロティウス:(深く頷いて)「その通りです。法の前の平等は、法秩序の根幹です」


ビスマルク:(再びルーズベルトを見て)「ルーズベルト君、君の行動が『正義』だというなら、同じ論理で他国がアメリカに対して行動することも認めるのかね」


ルーズベルト:「どういう意味だ」


ビスマルク:「例えば、イラク戦争。大量破壊兵器があると言って侵攻したが、見つからなかった。何十万人もの民間人が死んだ。もしイラクが、アメリカの大統領を『戦争犯罪者』として拘束する力を持っていたら、それは『正義』か」


ルーズベルト:(沈黙)


ビスマルク:「答えられないだろう。なぜなら、君の『正義』は、アメリカが強者である限りにおいてのみ成立する『正義』だからだ」


(席に戻りながら)


ビスマルク:「私は正義だの道徳だのを語る資格はない。私は政治家として、常に国益のために動いてきた。だが、少なくとも私は自分が何をしているか分かっていた。君たちは『正義』の衣を着せることで、自分自身を欺いているのだ」


---


ボリバル:(静かに、しかし強い意志を持って)「私からも一言、言わせてほしい」


あすか:「どうぞ、ボリバルさん」


ボリバル:(立ち上がり、ルーズベルトの方を向いて)「ルーズベルトさん、あなたの正義感は理解する。麻薬で苦しむ人々を救いたいという気持ちは、私も共有している」


ルーズベルト:「ならば……」


ボリバル:「だが、南米の人間として言わせてもらえば、アメリカの『正義』には常に疑念がつきまとうのだ」


(スタジオの世界地図を指さしながら)


ボリバル:「1823年、モンロー大統領はこう宣言した。『アメリカ大陸はもはやヨーロッパ諸国の植民地化の対象ではない』と。これがモンロー・ドクトリンだ」


あすか:「南北アメリカ大陸へのヨーロッパの干渉を拒否する宣言ですね」


ボリバル:「そうだ。当時、私はこれを歓迎した。ヨーロッパの干渉から南米を守ってくれると思ったからだ」


(苦い表情で)


ボリバル:「だが、現実はどうだったか。モンロー・ドクトリンは、ヨーロッパを排除する代わりに、アメリカ自身が南米の『支配者』になる口実となった」


ルーズベルト:「それは誤解だ。我々は……」


ボリバル:(遮って)「誤解ではない。歴史を見てくれ」


(指を折りながら)


ボリバル:「1954年、グアテマラ。民主的に選ばれたアルベンス大統領を、CIAがクーデターで転覆した。理由は何だ?アメリカの果物会社の利益を脅かしたからだ」


ボリバル:「1973年、チリ。アジェンデ大統領、南米初の民主的に選ばれた社会主義者。彼もクーデターで倒された。CIAの関与は今や公然の事実だ」


ボリバル:「1980年代、ニカラグア。サンディニスタ政権に対して、アメリカは『コントラ』という反政府ゲリラを支援した。何千人もの民間人が死んだ」


(ルーズベルトを見つめて)


ボリバル:「これらすべてが、『正義』の名の下に行われた。『共産主義の脅威から守る』『民主主義を広める』『人々を解放する』……。聞き覚えのある言葉だろう?」


ルーズベルト:(真剣な表情で)「ボリバル、私はあなたを尊敬している。だが、過去の過ちを理由に、今苦しんでいる人々を見殺しにするのか?」


ボリバル:(一瞬沈黙し、そして苦悩を滲ませて)「……それが私の葛藤なのだ、ルーズベルト」


(声を落として)


ボリバル:「私は祖国の民衆が苦しんでいることを知っている。700万人が国を離れた。残された者は飢えている。独裁者は弾圧を続けている。私の心は引き裂かれそうだ」


ボリバル:「だが同時に、私は知っている。アメリカの『解放』が、しばしば新たな支配の始まりであることを。『民主化』の名の下に、アメリカの傀儡政権が生まれることを」


(全員を見渡して)


ボリバル:「真の解放とは何か。それは外からは来ない。民衆自身が立ち上がり、自らの手で勝ち取るものだ。私はそう信じている。私自身、スペインからの独立をそうやって勝ち取った」


グロティウス:「では、ボリバルさん、今回の拘束については反対ということでしょうか」


ボリバル:(長い沈黙の後)「……分からない。本当に分からないのだ」


(席に戻りながら)


ボリバル:「私が言えるのは、もしこの拘束が本当に民衆のためであるなら、その後の行動で証明してほしいということだ。新たな独裁者を据えるのではなく、真の民主化を支援してほしい。撤退して混乱を残すのではなく、責任を持って再建を助けてほしい。それができないなら、この『正義』は偽物だ」


---


あすか:「ボリバルさんの苦悩、そして警告、重く受け止めたいと思います。グロティウスさん、ここまでの議論を整理していただけますか」


グロティウス:(立ち上がり、穏やかに割って入る)「皆さん、非常に重要な論点が出揃いました。少し整理させてください」


(書物を手に取りながら)


グロティウス:「まず、ルーズベルトさんの主張を確認しましょう。彼は、今回の拘束を『法執行』として正当化しています。根拠は、大統領が麻薬犯罪の首謀者であること、そしてアメリカ国民を守る義務があることです」


ルーズベルト:「その通りだ」


グロティウス:「そして1989年のパナマ侵攻でノリエガ将軍が拘束された前例を挙げています。確かに、これは一つの先例です」


(一歩前に出て)


グロティウス:「しかし、ここで重要な点を指摘させてください。あの時も、国際社会の多くは批判しました。国連総会は、アメリカの行動を『国際法の明白な違反』と非難する決議を採択しています」


ルーズベルト:「だが、拒否権でアメリカは……」


グロティウス:「はい、安保理では拒否権により決議は通りませんでした。しかし、総会決議は、国際社会の大多数の意見を反映しています。法的拘束力はないとしても、道義的な重みはあります」


(ビスマルクの方を向いて)


グロティウス:「ビスマルクさんが指摘された点も重要です。法が恣意的に適用されるとき、それはもはや法ではなく、力の道具に堕してしまう。パナマ運河の例は、まさにそれを示しています」


ビスマルク:(頷いて)「ようやく分かってくれたようだな」


グロティウス:「私が分かっているのは、あなたの分析が正確だということです。あなたの結論に同意するかどうかは、別の問題ですが」


(ボリバルの方を向いて)


グロティウス:「そしてボリバルさんの警告は、最も核心を突いています。アメリカの介入の歴史を見れば、『正義』の名の下に多くの悲劇が引き起こされてきました。グアテマラ、チリ、ニカラグア……」


ボリバル:「私の祖国も、その歴史の一部になるかもしれない」


グロティウス:「だからこそ、法的手続きが重要なのです」


(全員を見渡して)


グロティウス:「皆さん、私の主張を最後に明確にさせてください。私が言いたいのは、『彼を罰するな』ということではありません。『正当な手続きを踏め』ということです」


グロティウス:「国際刑事裁判所への訴追、国連安保理の決議、あるいは新たな国際的合意の形成……。時間がかかるかもしれません。完璧ではないかもしれません。しかし、法の道を歩むことが、長期的には最も安定した秩序をもたらすのです」


ルーズベルト:「しかし、その間に……」


グロティウス:(穏やかに、しかし毅然と)「ルーズベルトさん、私も人間です。苦しむ人々を見て心が痛まないわけではありません。しかし、感情に流されて法を曲げれば、もっと多くの人々が苦しむことになるのです」


(深々と一礼)


グロティウス:「Fiat justitia, ruat caelum——たとえ天が落ちようとも、正義は行われるべし。しかし、その正義は、法に基づいたものでなければなりません。一国の独断ではなく、国際社会の合意に基づいたものでなければならないのです」


---


(グロティウスが席に戻ろうとする)


ルーズベルト:(立ち上がり)「グロティウスさん、最後に一つだけ聞かせてくれ」


グロティウス:「何でしょう」


ルーズベルト:「あなたは17世紀の人間だ。あなたの時代、三十年戦争でヨーロッパは荒廃した。何百万人もが死んだ。あなたが『戦争と平和の法』を書いたのは、その悲惨さを見たからだろう?」


グロティウス:「……その通りです」


ルーズベルト:「では聞こう。あの戦争の最中、もしあなたに力があったら、あなたは何もしなかったのか?『法的手続き』を待っている間に、村が焼かれ、人々が殺されていくのを、ただ見ていたのか?」


グロティウス:(長い沈黙)「……」


ルーズベルト:「答えてくれ、グロティウスさん」


グロティウス:(静かに)「難しい質問です。私自身、その問いに完全な答えを持っているわけではありません」


ルーズベルト:「そうだろう。法は万能ではない。法が機能しない時、行動する者が必要なのだ」


ビスマルク:(皮肉に)「そして、その『行動する者』がいつも正しいとは限らない、というのがこの議論の核心だな」


ルーズベルト:「少なくとも、何もしないよりはましだ」


ビスマルク:「本当にそうか?イラクを見ろ。リビアを見ろ。行動した結果、何もしなかった場合より悪くなった例はいくらでもある」


ボリバル:「そして、行動しなかった結果、悲劇が拡大した例もある。ルワンダのジェノサイドを思い出してくれ」


(スタジオに緊張感が漂う)


あすか:(4人を見渡し、クロノスを確認して)「法執行の正当性と主権免除の原則、過去の介入の歴史と失敗、そして行動と不作為のジレンマ……」


(視聴者に向かって)


あすか:「この論点だけでも、これほど複雑な問題であることが分かります。正解は簡単には見つかりません」


(照明が切り替わり始める)


あすか:「しかし、まだ議論すべきことがあります。法的正当性の問題とは別に、もう一つの重要な視点があります」


(クロノスを掲げる)


あすか:「それは『人道』という視点です。700万人の難民、飢える子供たち、拷問される政治犯……。この人道危機に対して、国際社会は何をすべきなのか」


あすか:「続いてラウンド2では、『人道介入は正当化できるか』について、さらに議論を深めてまいります」


(ルーズベルトとグロティウスが睨み合い、ビスマルクが皮肉な笑みを浮かべ、ボリバルが苦悩の表情を見せる中、照明が切り替わる)

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