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妹の息子はなろう主人公かもしれない  作者: 姫崎ととら


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2.5話。あれ、この子ギャルじゃないな?

 潤が告白してきた子と二人きりで外出した日の夜。

 彼が持っていた服を色々と確認して、新しいTシャツを何枚かとカーゴパンツと、ニットとチェスターコートを買うことになった。新しいシャツとカーゴパンツは俺の提案。ニットとコートは潤からの希望だ。俺が貸した服が案外着心地が良く、一着ぐらいは大人びた服を持ってても良いと考えたらしい。

 まぁ、このニットとコートの値段を言ったら着心地の良さに非常に納得していたが。アラフォーになると高い物を買って大事に着たほうが楽なのだ。いや、おしゃれな友人達は毎年新しい物を買っているらしいので、買わないのは俺の性分か。

 なお、俺は服を確認した後、潤が風呂に入っている間に友人達にこそっとアドバイスを貰っていた。なんせ息子に頼られたので、ちょっといい顔がしたくて。


侍「というわけで、最新のファッションをご教授願いたく」

白魔「高校生のファッションをアラフォーの俺らに聞くなよwww」

ナイト「確かお前と俺達は同い年だろうwww」

侍「うるせー!w 俺だって見栄を張りたい時はあるんだよ!ww」

白魔「www」

白魔「あと数ヶ月だけなら、もう大学生の服で良いだろ。身長体格教えろー」

侍「身長は白さんより10cm高くてぇ~」

白魔「相談乗ってやらんぞ」

侍「すいません。175cmで、標準体型です。色彩センスは本人があるから、形だけでもアドバイスをもらえればと」

ナイト「それなら、長袖のTシャツを数枚程度で今は良いだろう。春先になったら新しくジャケットを手に入れれば良い」

白魔「カーゴパンツもあったらいいんじゃねぇか。春先でも使える」

竜騎士「買う店はジーウーかウニクロなら、無地だし変な色もないし、値段的にも高すぎねぇからオススメー」

白魔「あ、スウェットで外出する奴なら、パーカー一着あるといいぞ。スウェットと似た生地なのに外出に問題ねぇ」

侍「ありがとうございます! 参考にして本人に言ってみます!」


 そして、しれっと提案したわけである。俺がマネキン買いをしていることを知っている六花さんには呆れた目を向けられたが、息子と娘からは尊敬の眼差しをもらえたのでいいのだ。

 なお、俺にセンスがないことがバレたとしても「高校生のファッションは流石に分からないから友人に聞いた」と素直に答えるだけだ。嘘は言っていない。

 その後、どこに行くかを決め、皆それぞれ就寝となった。


****


 翌朝。

 潤は相変わらずスウェットで出ようとしたので、ひとまず外に出した。数秒で戻ってきて、ズボンだけジーパンに着替えた。それが良い。普段なら行けなくもないんだが、風が強い今日は寒かろう。


「ほら、風邪引きそうだろ」

「風邪は引かないけど、寒い」

「わかる。この程度の寒さで風邪は引かないが、寒いよな」

「お兄ちゃんもお母さんも頑丈すぎ。普通は風邪引くよ」


 ギャルちゃんの指摘は正しかろう? と言外に言ってみたら、潤は首を振って強がりのようなことを言う。その隣で六花さんも同意しているので、雪国出身だとそんな物かと納得しかけたが、美音が否定した。なるほど、この二人だけがおかしいのか。

 六花さんは確かに風邪を引いたところを見たことはない。むしろ俺のほうが風邪を引いて、世話をされたことを思い出す。

 美音はダウンジャケットにマフラー、足下はもこもことしたブーツで、店の中に入れば暑いだろうからと靴だけ替えさせた。


 電車に乗って少し大きめのショッピングモールへ。大きなおもちゃ屋も入っている所なので子連れが多かった。

 万引きや置き引きが多そうだなと、ついつい怪しい動きをしている人間に目を向けつつ、目的は服屋なのでそちらに向かう。

 その途中。モール内のベンチに座って携帯をいじっている高校生ぐらいの少女の隣に、青いダウンジャケットの男が座った。目深に帽子を被って周囲を見ながら、少女の鞄を気にしている。おーおー、開いた鞄からお財布が見えてるぞ嬢ちゃん。


「……斉藤」

「今はあんたも斉藤でしょ。……青いジャケットの男ですか」

「ああ」


 六花さんも気付いて、部下として俺を呼ぶ。それに対して今は休暇中だと言外に苦言を呈しつつ、同じ男かを確認すれば、彼女は頷いた。鋭い視線はわざと向けたもの。こんなにも分かりやすく見てやってるのに、男はこちらの視線には気付かず、少女の財布に手を伸ばした。


「あ、加藤さん」

「え? ――きゃっ!?」


 そのタイミングで、潤が少女に声を掛けた。驚いた少女が顔を上げ、男は舌打ちをして財布を掴んだうえで、少女を突き飛ばして逃げる。


「行け!」


 六花さんの号令が下ったのはその瞬間。既に飛び出し準備をしていた俺は号令と共に駆け出して男を追う。


「おにーさん! お話聞かせて――もらおうか!!」


 男を襟首を捕まえ、引きずり倒すのに10mもかからなかった。


「くそっ!!」


 が、引き倒される前に男は往生際悪く財布を投げ捨てる。証拠品がなければ現行犯とするには不十分だと分かっているようだ。今居るのはモールの吹き抜けの廊下のため、階下に向かって投げられた。財布さえ見つかれば証明は十分出来るが、ここからの回収は面倒だ。舌打ちしつつ男を押さえていたら、美音の声が響いた。


「あー!! お姉ちゃんのお財布ー!!」


 その声で階下の人間が彼女を見たのだろう。落ちてきた財布を拾ってくれた人間が居たようで、「これー?」と美音に向かって叫んでいるのが聞こえる。その人に礼を言って、美音と潤、あと加藤さんと潤が呼んだ少女が階下に向かってお辞儀をして、向かっているのが見えた。

 美音の機転により、落ちていた財布はこの男が投げた物だと周囲に周知できた。状況証拠も目撃者も充分。スリの現行犯逮捕でそのまま警察行きだ。

 六花さんが呼んできた警備員に男を引き渡し、警備センターで加藤さんと俺が事情を説明をしてる間に警察が到着。そこで調書も取られて、20分ほどで開放された。俺の職業が職業だったので、色んなものが短縮された結果だ。一般人だったらもうちょい掛かっただろう。

 開放されたと六花さんにメッセージを送り、警備員と警察に見送られて外に出る。


「助けてくださり、ありがとうございました」

「どういたしまして。鞄はちゃんと閉じとこうね」

「はい、気を付けます」


 センターから出てすぐ、加藤さんは深々と俺にお辞儀をした。髪の色は地毛と言えるほどの茶色。肩より少し長めの髪は毛先に緩いパーマをかけてあるようだ。顔立ちはややつり目に見えるように目元にアイラインを引いてある。六花さんと同じ感じなので、すっぴんはたれ目とみた。頑張って武装している感じが見えて危なっかしさを感じた。これはギャルに憧れている生真面目女子で、ギャルとは言えない。

 ていうか、この子見覚えがある。


「……あの。私の勘違いでなければ、夏休み前に高校に講習に来てくださった、斉藤さんですか?」

「あー、やっぱりそうか。副会長の加藤さんだね。今は元副会長か」


 潤が通う高校に、一度講習会のために赴いたことがある。講習自体は部下がやったが、うちに講習を頼んできた生徒会長と副会長には俺が責任者として挨拶をした。その時はもっと髪の色は明るくメイクがキツかったが、半年近くも経てば髪の色は落ち着くし、今日は休日なのでアイラインを引くだけにしてあるのだろう。


「改めて。潤の父親の斉藤光一です。潤は迷惑かけてないかな?」

「いいえ! むしろ周りをよく見て、言葉は少ないけど助けてくれてます。良い子ですよ。あと一年早かったら、一緒に生徒会活動をしたかったほどに」

「そっか。安心した」


 微笑みながら説明してくれる加藤さんはお世辞を言っている様子はない。本当に潤はあの学校に馴染めているようだ。

 この子が潤に告白したのかぁと思っていたら、複数人の足音が聞こえてきた。警備センターは人気のないところにあるので、足音はよく響く。


「加藤さん!」


 その中でも軽い駆け足の音と共に、周りに配慮はあるがそれなりに大きな声で呼んだ。潤だ。

 心配そうに駆けて来た彼に加藤さんは目を丸くしている。俺も息子の様子に目を丸くした。美音以外でもこんな心配そうな声を上げるのか、こいつ。


「怪我はない?」

「それ、さっきも確認したでしょ。ないよ」

「でも後から気付く怪我もあるって言うだろ」

「ないってば。突き飛ばされたけど、ベンチに倒れ込んだだけだし」

「百武から、小雪は隠す奴だからなって聞いてる」

「だーかーらー、今回は隠してないってば」

「……ならいいけど」


 まぁ、かなり強い勢いで突き飛ばされているように見えたから、潤が心配するのも分かるが。心配しすぎでは? と思わなくも無い。加藤さんはややうんざりした表情で潤をあしらっていた。

 いいけど、などと言いながらも全く納得は出来ていない表情だったが、ひとまず潤は引き下がった。そこでやっと俺に気付いたようで顔を上げる。


「父さん、彼女は俺のクラスメイトの加藤さん。昨日一緒に回った子」

「おお、さっき自己紹介した。良い子だな」

「うん。目が離せないのもわかるだろ」

「わかる」

「えっ!?」


 潤の台詞に深く頷きながら同意すれば、加藤さんが驚いた声を上げる。いやいや、自覚がないのか。ないっぽいな。あったらあんな無防備に財布を鞄から覗かせないし。

 小さなショルダーバッグは可愛らしいが、ちょっと彼女の持ち物の量が多いようで、今も閉まりきっていない。

 六花さんと美音も合流し、軽く自己紹介を交わして五人でモール内に戻る。先を俺と六花さんが歩き、後ろを子供たち三人が歩いている。


「昨日とは違うバッグだけど、やっぱ鞄は買い換えたほうがいいよ。金なら貸すから。卒業までに返してくれたらいいからさ」

「あー……」


 潤が心配して加藤さんに声を掛けているのが聞こえてくる。どうやら昨日も同じ鞄で、心配した潤が買い換えを勧めたようだ。そして金を理由に断ったとまで察する。対して加藤さんは困ったように声を上げ、息を吐いた。


「ぶっちゃけちゃうとね。お母さんの好みじゃないと許してくれないの」

「えっ。結構厳しい系なの?」

「そ。本当はこの格好も認められてないけど、社会人になった時に化粧やファッションが分からないと困るから、今のうちに予行練習って言い訳して何とかなってる」

「うわぁ……」


 美音の問いかけに加藤さんは溜め息交じりで説明している。

 子供は親の付属品ではないのに、自主性を認めずに自分好みの物で固めさせようとする親がいることを理解していたつもりだが、実例を見てしまうと苦い物がこみ上げた。これで加藤さんがワガママ放題で、高いブランド物を欲しがりそうな子だったらまた見方が変わったが、彼女は生真面目さが隠しきれない普通の優等生だ。親の束縛が激しすぎると感じてしまう。


「ねー、加藤さんが好きな形ってどんなのー?」

「え。んーと……あまり派手じゃなくて、落ち着いた色合いで……無地で、いっぱい入れられるもので、リュック型かな」

「わーお、真逆だぁ……」

「そうなの……」


 彼女が持っているのは金のチェーンに真っ赤で小さなバッグである。ダッフルコートに合っていないので、親のお下がりを使っている感が醸し出されている。美音の言うとおり、加藤さんの好みとは真逆だ。

 潤の言葉から察するに昨日とは違うようだが、昨日もきっと似たようなものだったのだろう。


「六花さん。俺、嫌な想像が」

「私もだ。口にはするな」


 もしかして、彼女の親は彼女に私用に使う鞄など与えてはおらず、自分の鞄を使わせているのでは。好みじゃないと許さないのは、自分も使うためではなかろうか。

 そんな想像が頭をよぎって、否定して欲しくて六花さんに言ってみたが、彼女も同じ想像をしてしまったようだ。二人揃って小さくひそかに息を吐いた。よそ様の家の事情に首を突っ込むつもりはないとはいえ、気分は良くない。


「あ。家族でお買い物だったんだよね。邪魔してごめん」

「いいよ。俺の服を買いに来ただけだし。加藤さんは何を買いに来たの? 文房具ならここまで来ないよね?」

「私は今度のクリスマス会でのプレゼント。まだ決まってないけどね」

「なら、俺も付き合う。父さん」

「私もー! お母さーん!」


 モールに入ったことで、加藤さんがはたりと家族でいることを思い出して離脱しようとしたので、潤と美音がすかさず捕まえた。俺たちとしても、彼女を一人でうろつかせるのは不安だったので、兄妹に声を掛けられて振り返り、一も二もなく頷いてやった。


「いや、でも、あの……」

「父さん、軍資金だけちょうだい。そしてデート行ってらっしゃい」

「お母さん、私たちに気にせずデート行ってらっしゃい!」

「「お前たち」」


 遠慮する加藤さんの前で、潤は遠慮無く手を出して、美音は屈託無い笑顔で送り出そうとする。思わず六花さんとツッコミが重なった。確かに俺たちは新婚ほやほやではあるが、子供に気を使われるほどいちゃつけていないわけではない。

 が。二人きりで歩けると聞いてかなり浮かれた心は否定できず。加藤さんを遠慮させないための言い回しであるとも理解しているので、照れ隠しの溜め息を落として、財布から服を買う軍資金に昼飯代も考えて多めに渡してやる。


「何かあった時と、帰る時は必ず連絡をするように。私たちも連絡を入れるが、17時には帰って晩ご飯の用意をしておくから」

「「はーい」」


 六花さんの注意に、兄妹は揃って了承の声を上げる。加藤さんは困った顔をしていたが、潤が財布に金をしまいながら、俺たちが新婚であることを説明し、親孝行をしたいとこそこそと言っていた。残念ながら俺の耳は高性能なので聞こえているが、聞こえなかったことにしてやる。気を使う必要は本当にないのにな。

 ひとまず、モールに入ったとは言えまだ端のため、途中までは一緒に歩いて行く。この辺りはペットやガーデニングのエリアだ。六花さんとデートするにしても、回るとしたら奥のエリアになる。


 先ほどとは違い、今度は子供たちが先導する形で進んでいくのを付いていく。加藤さんはこのモールによく来るようで、足取りに迷いは無い。

 最初は潤と加藤さんで美音を挟む形で歩いていたが、加藤さんが二度、人にぶつかられかけてからは潤がさり気なく回って、美音と二人で加藤さんを挟む形になった。いや、うん。そうなるだろうなとは思った。


「……なんだあの子。ぶつかられ率高くないか?」

「ぶつかりおじさんってモールでも現れるんですねー」


 ちゃんと加藤さんは会話しながらもぶつからないように気を使って歩いているというのに、当たりに行っている男が見ているだけで三人。ぶつかりおじさんと称したが、おそらく二人はスリだろうなとも思う。鞄から覗いている財布を狙っているように見えた。


「どうします?」

「……デートしていよう。あの子たちの気遣いを無碍にはしたくない」

「了解です」


 先ほどのようなことも起きないとは限らない。護衛として尾行するか六花さんに指示を仰げば、彼女は少し考えて首を振った。心配ではあるが、尾行していてはデートにはならない。


「しかし……あれは、うん」

「……六花さんの家系は見捨てられないタイプですね」


 靴が合っていないようで、加藤さんはよく躓いた。よくよく見てみれば、洗ってはあるようだが酷くくたびれたスニーカーだ。靴底はかなりすり減っていそうで、隠しているようだが歩き方がちょっとおかしい。潤と美音はさり気なく歩く速度を落とした。

 その内、三人並んでいると邪魔だと気付いた美音が後ろを歩き出したが、そうするとウォーターサーバーやら何かの体験コーナーやらの客引きに加藤さんが引っかかる。声を掛けられると無視が出来ないようで、困ったように足を止める彼女を潤が助けて先に進んだ。

 こういう、声かけを無視できず困ってしまう人間を六花さんは絶対に助けるし、六花さんにどこか似ているところがある潤も、見捨てられない。俺は職業柄見捨ててはいけないが、個人的には見捨てるタイプだ。歩くだけでトラブルに巻き込まれる狙われやすい人間なんて面倒なことこの上ない。嫁さん以外どうでも良いだろお前。なんて友人達からのツッコミが脳内に響いた気がしたが無視をしよう。


 巻き込まれないためにすすっと兄から離れた美音が「お姉ちゃんに来て!」と小さく楽しそうに呟いたが、六花さんと同時にツッコミを入れておく。


「まぁ、潤があしらい方を覚えているようだからいいだろう」

「美音。何かあればすぐに連絡しろよ」

「はーい」


 美音は少し離れて兄と友人を眺めておくことにしたようなので、トラブルが起きたらすぐに連絡できるだろう。一応念を押しておくが、先ほどのスリのようなことでもない限りは喚び出されまい。


「デート、いってらっしゃーい!」


 美音に明るく押し出されて、苦笑しながら道を逸れる。少し遠くなった潤がこちらに気付いて手を振ったので、こちらも緩く手を振っておいた。加藤さんは頭を下げていた。その二人の元に美音が軽い駆け足で向かう。

 彼女が合流するのを見守ってから、改めて進んでいく。


「ネクタイを買って、昼をどこかでゆっくり取ってから、本屋がいいところか?」

「そうですね」


 元々買いたい物があるわけでもない。のんびりと散策でもしていようと決めて、ネクタイが置いていそうな店に向かった。


 が。ネクタイを買ったところで仕事の呼び出しが掛かり、子供たちに連絡してから現場に行くことになった。六花さんは夕方頃には帰したが、俺の帰りは深夜となってしまった。

 せっかくのデートだったのに!!!!!!

どこかで見たことがある友人達。


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