閑話。ギャルというほどギャルじゃないんです。
ギャルちゃんからの視点を一つ。
ギャルこと、加藤 小雪は周りが言うほどのギャルではないと自負している。
髪の色は校則をギリギリ超えないライン。メイクだって徐々に派手にしていき、指摘されたらすぐに落としてランクを下げる。ネイルは勉強の邪魔なのでやらない、というかそこまで金がない。
バイトは両親の方針でやらせてはもらえず、お小遣いと称して渡される生活費で何とかやりくりをしている。
何故この令和になってギャルを装っているかというと、幼馴染みのお姉さんが強くて格好良かったからである。強気でいられるようになったら、ほんの少しだけ生活しやすくなったので、優等生なギャルをし続けている。彼女自身はただのひねくれ者で、親や世間にほんの少しだけ反抗しているだけ。
そんな彼女が、勇気を絞り出して告白をして、見事に玉砕した。
一ヶ月程度で知った気になるなと言われて、確かに正論だと納得しかけたというのに、続いた言葉で察した。
こいつ、自分が人に好かれるはずがないと思っている。
何度か告白をされて付き合ったら、期待外れと言われてフラれ。断ったら、罰ゲームだから本気にするなとでも言われた経験があるのだろう。でなければそんな発想が出てくるものか。
一ヶ月程度でも、彼がどれだけお人好しで、馬鹿で、面白いヤツなのか分かる。
そして、どれだけ周りの人を見ているのかも。
メイクの指摘をされて、確かにこのリップは似合っていないなとは思っていた。が、その指摘に「寒くても血色が良いみたいだから」はなんだ。リップを落としていた時の色までちゃんと彼は気付いていたということか。リップを忘れたのは一回だけ。その時を見ていたというのか。唇がややかさついてる気がしたので恥ずかしくて隠していたというのに!
これだけ人を見ていて、さらっと綺麗だなんて褒められる男。これはいつか粘着質な女に付き纏われた上で刺されるだろう。本人は何も理解しないまま。
だからせめてものアドバイスを投げてやったら、やっぱり理解していなかった。
大急ぎで出て行った彼を見送った後、ある程度クラスメイトが帰るのを少し待ってから、幼馴染みの百武に溜め息と共に疑問を投げかける。
「剛ー。あんたあれ、どう思う?」
「さらっと褒められるのは素だろうなー。両親がよく褒める人なんだろ」
面白いネタをメモする癖のある幼馴染みは、小雪から疑問が来ると思っていたか、スマホに文章を打ち込みながら笑いを含んだ声でスラスラと答えてみせた。
「あとはまぁ……向こうの学校がよっぽどクズばっかで、同年代間における自己評価を下げられまくったんだろうな」
続いた言葉には冷たい棘が含まれている。それには同意見なので窘めることはなく、溜め息をつくことで同意を示す。彼女が聞きたかったのはそちらではない。
スマホを叩いていた百武は、よしっと呟いて片付けて胸ポケットから手帳を取り出し広げた。使い込んだ黒革の手帳ケースに挿してあるペンを抜き取って指先で回し、握ってからノックしてペン先を出す。そしてまた回して、しっかりと持った。
生徒会長としてこの学校を是正してきた彼が、改善点を見つけて行動を開始する時の癖だ。
声には出さないが、やはりそうなってしまったかと小雪はまたも溜め息をついて、鞄を持って彼の近くに寄った。
突然始まった是正モードに動揺する同級生はいない。ここにいるのは中学からの付き合いがあるか、元生徒会のメンバーだからだ。
自然と彼の周りに集まり、座ったり立ったりと位置は違えど、彼に協力する姿勢を見せていく。
「はいはーい。かいちょーに報告~。あいつ、シャー芯とか蛍光ペンとか消しゴムがあることに感動してましたー」
「『元』会長なー。それ陰湿なほうのイジメじゃんよー。誰か、体育であいつの着替え見たヤツー」
「はーい。怪我はなかったし、部活やってないのにそれなり筋肉はあった。雪かき効果かね」
「筋肉はそうかもなー。怪我はなし、と」
「まぁ、細々とした盗難やってるなら、怪我なんて分かりやすい証拠は残さず、メンタルを壊すよね」
「そっちのほうがより『楽しい』しな」
「娯楽も少なそうだし、これ町全体でイジメが横行してそーですねー」
「村八分になってる家族かー。ありえそー」
元会計の女子と元書記の男子を筆頭に、周りからの報告を百武は手帳に書いていく。もう今後は使うことはないだろうと思っていた手帳に、新しい情報が詰め込まれていく様子を眺め、小雪は溜め息をついた。
自分が発端とは言え、あの転校生にはだいぶ悪いことをしてしまった。
ある程度を纏めたところで、百武は小雪を見上げる。
「あの告白、マジ?」
まるで天気予報を聞くかのように軽い調子で聞かれ、これで少しでもからかう様子があれば怒れるのにと思いながらも、息を吐いて憮然とした表情で頷く。
「マジもマジ。隣のクラスでクリスマスまでに告るとか言ってるのが聞こえて、焦ってやった」
「あっはは。小雪がそこまで焦るいい男なら、理由としちゃ充分だ」
軽快に笑われたが嫌な感じはない。こいつはいつもそうだ。明るいお調子者だが相手を傷つけるような発言はしない。
手帳にそれも書かれた後、百武はもう一度よしっと呟いてペンを手の中で回しながら手帳に目を走らせる。情報共有パートだと察してそれぞれ居住まいを正した。
「ミステリアスな雰囲気を持つ、遠い所から来た顔の良い転校生。人助けを一ヶ月の間に何回も行いながら、格好付けることもアピールすることもなく、『人助けは当たり前』と言わんばかりの生き方。
おそらく何度も付き合ってはフラれているため、自己評価は低そう。
先生に聞いたけど、編入試験でほぼ満点叩き出したらしいぜ、あいつ。つーか、前の高校名聞いて偏差値調べたら、よくまぁうちに入れたなってほどの底辺校だった。向こうじゃ文句なしの学年トップだろうさ。
そんぐらい勉強が出来て、馬鹿なノリには付いてくるけど下ネタには乗らない、清潔感ある男子。
クッキー以外にもある程度の家事はこなせるらしい。そして親孝行者。
その親は死別。今の親は母親の双子の姉とその旦那。職業は二人とも暴力沙汰もやる国家公務員。正直に職業言わないのは警戒してるからかな。まぁ、ぼかしてるならそこは尊重しよう。
あとは妹が居る。その妹はうちの妹と同じクラスでもうお友達。兄貴には似ずに社交的で活発的な明るい子だった」
整理され、並べられた転校生の情報は、あまりにもリアリティがなさ過ぎて漫画の設定を読んでいるかのようだ。どこからツッコんだら良いのかすら分からない。
もう何度目か分からない息を吐く。この三十分以内でどれだけの幸せが逃げただろう。
元会計はニヤニヤと笑っているし、元書記も楽しそうだ。中学からの友人に至っては音を立てないようにしているが拍手までしている。
中学二年生からずっととある夢を語り続けていた男――百武 剛は手帳を閉じて、ニヤリと笑って見せた。
「オレが待ち望んだ『主人公』だ。卒業までにあいつの自己評価を上げ、磨き上げる。
高校最後の大仕事。手伝ってくれる奴はいるか?」
中学二年生の始業式後。クラスでの自己紹介でこいつは言い放った。
『ギャルゲー主人公か、告白をよく聞き逃す主人公に、人間関係や恋愛についてアドバイスする親友ポジをやりたい!! そんな面白いヤツを知ってたら教えてくれ!!』
それ以降、学年が上がる度に言っているし、高校でも言い放った。初志貫徹していていっそ清々しい。
流石に大学までは続けられないとぼやいていた彼の元に現れた、転校生。何も無ければきっと、ポテンシャルは秘めているが足りないとして放っておかれただろう。
だが小雪の告白により、立ち位置を確定させてしまった。
申し訳ないなと思う反面、転校生はもうちょっと自分の価値について知るべきだなとも思う。
百武の協力要請にそれぞれ参加表明を終えて、最後の一人の小雪に視線が集まる。その視線は答えは分かっているが一応といった様子で、やっぱり息を吐く。
なんだかんだ、百武に協力要請されて、元副会長である小雪が断ったことは一度も無い。
「やってやる。…………あの程度の断り文句で諦められる程度の気持ちだと思われてるのは、腹立つわ」
参加表明し、腹の底に抱えきれなかった理由も吐き出してやった。
その理由を聞いた一同に驚いた様子はあれど、からかう気配はない。むしろ同情的な視線に切り替わる。まぁそうだろう。小雪もらしくない行動をした自覚はあるのだから、一年共に生徒会として校長を筆頭に教師陣・PTA役員と戦った戦友達も、小雪らしくないと思っただろう。
生徒会長が旗を振って注目を集める裏で、副会長が情報を集め、あるいは広め、必要なものを用意して実行する。下準備も無しに突貫なんてやった事などない。
一ヶ月たらずでも、恋するには充分なことを転校生はやっている証拠でもある。
「ジャージは貸すし、勉強のお礼にクッキー持ってくるし、野球部の暴投から守るし。ゴミ箱持ってくれるし。つーか、今日なんて寒がってたらブランケット貸してくれたんだけど、あれなんなの!? 自分用だったけど必要なかったから一日貸すってさぁ!!」
一ヶ月で転校生が小雪にしたことは、あまりにも非日常的で他の男子とは一線を画した。
「いや、まぁ。体操服はお前が他の子に上着貸すからだし、クッキーは誕プレで余った分の消費ついでだろうし、暴投はそこにたまたまいただけだし。ゴミ箱はお前だけじゃなくてオレも手伝ってもらった。ブランケットは……北海道じゃ標準装備なんじゃね?」
「だとしても!! ふっつーは脈ありかと思うじゃん!!!!!!」
「それは、そう」
百武に冷静にツッコミを入れられても、結論は変わらない。
転校生の思わせぶりな行動はクラスメイトなら誰もが喰らっているが、おそらく一番喰らっているのは小雪だ。クラスメイトの女子達も、小雪ならば致し方ないという空気になるほどに、転校生と接触が多い。
男子が女子に優しくする理由なんて、脈がなければ何だというのだ。
「なんつーか、あいつは男女平等に優しいよな。博愛ってあんな感じなのかね」
「ますます『主人公』っぽいな!」
中学からの友人が転校生の席を見ながら呟いた言葉に、百武は嬉しそうに拳を握る。こいつ、親友ポジに無理やりでも収まりに行く気だ。
それならば、小雪も一つ意思表明をする必要がある。
「難聴系主人公には一途なヒロインが必須でしょ。そのポジ、あたしがもらう」
「願ってもない申し出~。けど、いいのか? 脈は無さそうだぞ?」
「あんたが考えるヒロインってのは、脈が無いからって諦める子でいいの?」
喜んだ次の瞬間には小雪を心配する百武に、即座に切り返す。
目を丸くする幼馴染みに鼻を鳴らして、腰に手を当てて胸を張った。
「そんで、あいつがあたしが惚れたところでコテンパンにフってやるんだから」
そんなことできっこないと分かっているが、こうでも言っていないと恥ずかしい。
一同は呆気に取られたようにぽかんとしていた。が、一番に復帰したのは百武。まぁ、この幼馴染みにはこんな意地なんてお見通しだろう。
「ははははは!! ああ、それがいい! どーせ出来ないだろーけどな!」
「どっちがよ! 絶対に惚れさせて、絶対にフってやるんだから!!」
このやりとりを皮切りに、戦友達はそれぞれ笑ったり、苦笑したりしている。
「ゆきちゃん、それフラグだよぉ……」
「加藤、流石に無謀すぎる」
「うっさい! まだチャンスはあるでしょ!」
「いや、お前がそこまで惚れ込んでおいて、別れるなんて選択肢は取れねぇだろ」
「るっさあああい!!!」
人間、周りから無謀だと言われたら反抗心がわいてしまうのは何故なのだろう。出来るよと背中を押されるよりもずっと強く意思が固まって、何が何でもやってやると拳を握った。
ひとしきり笑ったところで、百武は手帳を胸ポケットにしまって手を叩いた。パンッという音は指示出しパートの合図なので、全員が彼に注目する。
「ま、ひとまずはお友達からってところだな。オレはあいつのフォローをして親友枠に収まる。
小雪はあいつにとにかく話しかけて、相互理解を図ってく」
「わかってる」
「田中と小川はいつも通り小雪のフォロー。浩二と翼は今回はオレのフォロー」
「任せて~」「今日みたいなミスはさせないよ」
「フォローっつーけど、オレはふつーに転校生と友達になりたいから適当に動くぞ」「左に同じー」
「それでいい。
拓也はあいつがこれ以上目立たないよう情報統制。ついでに、どっかから制服を調達してきてくれ。違う学校の制服は嫌でも目立つ。今回予算がないから、金が掛かるようなら諦める」
「上着だけだったら、明日でも持ってこれるぞ。去年、部活の先輩から制服の上着だけ貰った。俺とあいつ体格似てるし、いけるだろ」
「ナイス。渡すタイミングと理由は任せた」
「オッケー」
指示に対して各々が答え、その日は解散となった。
月曜日から動き出すとして、話題にするのは何が良いのか。考えた小雪は早速本屋へと向かった。適当にメイクについて載ってる雑誌の一つでもゲットしておくとしよう。
百武くんはモブでありたいと叫んでいるんだけど、君のようなモブが居てたまるか。
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