小説:夏の始まり
「せっかく夏らしいことしたいしさあ、祇園祭行かない?」
大垣香澄の一言により、男女4人で祇園祭に行くことが決まった。4人は同じクラスの友達だけれど、うち竹田由香と藤田涼介は付き合っている者同士だ。もう1人の永井真吾と香澄は小学校から中学校まで9年間同じクラスで、高校生になっても同じクラスの友達同士だった。香澄は真吾に興味があるわけではないし、真吾も今まで香澄を恋愛対象として意識したことはない。母親同士は授業参観で仲良く話していたけれど。
由香と香澄は浴衣で祇園祭に行こうと話していて、お店で浴衣をレンタルしてヘアセットもしてもらえるよう予約も済んでいる。涼介と真吾は私服で行くとのことだ。
いまは三者面談期間中なので授業は午前中のみで終わりだった。7月15日も三者面談期間中で早く帰れる。そういうわけで4人はいったん家に帰り、15時30分に駅に集合した。涼介と真吾は
「俺らはこの辺で適当に時間潰しとくし、終わったら連絡して。コンビニ前で待ってるから」
と言い、四条河原町のゲームセンターに向かっていく。香澄と由香は予約していたお店に向かい、由香が
「16時から予約している竹田です」
と受付にいた若い女性スタッフに申し出た。受付を済ませ、2人で浴衣を選ぶ。高校生なので学生割引も適用され、ヘアセット込みでお得に着られることになる。由香は薄いピンクのレース浴衣と白い帯を選び、香澄はくすんだ水色のレース浴衣と白い帯を選んだ。お揃いでパールの帯飾りとリボンのついたかごバッグを選び、後ろにつけるチュールも浴衣と同じ色味で選ぶ。
香澄は王道のアップスタイルにし、由香は耳の下の方で作るお団子ツインにした。髪飾りを選び、会計を済ませ、由香が涼介に今からコンビニに行くとLINEで連絡する。男子2人は約束通り、コンビニ前で待ってくれていた。
「2人とも似合ってるじゃん」
真吾がそう言ってくれ、由香と香澄は嬉しくなる。涼介はどう思っているのだろうと由香は気になったけれど、なかなか聞けずにいた。
「じゃあ、行きますか」
と涼介が言い、みんなで四条通を歩いて屋台に行く。人だらけでなかなか道を進むのが難しかったけれど、なんとか屋台にたどり着いた。4人は定番のベビーカステラや豚まんを屋台で買い、ベンチに座って食べる。香澄と真吾は追加で餃子も買いに行っていた。
「由香、かき氷食べる? 俺買ってくるわ」
涼介に聞かれ、由香はうなずく。涼介は由香にいちご味のかき氷を買い、自身にはメロン味のかき氷を買った。2人でかき氷を食べている時、由香は涼介に
「私きょう浴衣着てきたけど、どうかな?」
と聞いてみる。涼介は
「かわいいよ、似合ってる。あの時はみんないたから言えなかったけど」
と顔を赤くしていた。涼介にかわいいと言ってもらえて由香は嬉しくなる。しばらくして香澄と真吾が餃子を片手にやって来たので、4人で合流した。
「私たちがいない時に何の話してたの?」
と聞く香澄に、由香は
「ちょっとね、内緒」
と返す。ね、涼介。由香は涼介に話を振り、涼介はうなずいた。香澄たちは2人がどんな話をしていた気になる様子だったのだ。




