実るは檸檬とマルベリィ
はじめに
この文章は前書きです。
本編との関係はございませんので、読み飛ばしていただいて結構です。
この度は当作品を閲覧いただきありがとうございます。
感想等お聞かせいただきますと、大変励みになります。
今回、この作品は処女作ということで、まずは短編から挑戦してみました。
今作は物語の展開の緩急に工夫を加えております。
恋愛ものがお好きな方におすすめの作品です。
「はぁ…今日も可愛いな〜」
僕は、クラスメイトの檸檬さんが好きだ。
彼女の見た目も、しぐさも、声も、性格も全て大好きだ。
恋は盲目とよく言われるが、僕はそう思えない。
彼女に一目惚れしてから、世界が輝いて見える。
大嫌いな学校だって、彼女がいるから毎日通える。
でも、僕の一方的な好意だから、たぶん彼女は僕の名前も知らない。
「おい、お前檸檬のことじろじろ見てんじゃねーよ」
「きもちわりーな」
…またか。
大人数で一人をよってたかっていじめるだなんて、暇人にもほどがあるんじゃないか。
それに、彼女の名前を呼び捨てにするのも許せない。
「お前さ、檸檬のこと好きなのー?」
「こいつが檸檬に吊り合うわけねーじゃん、バカじゃねーの?」
汚い言葉遣い。
荒げた声。
乱れた服装。
全部が気に入らない。
彼女とは正反対だ。
「じゃあお前、罰ゲームとして檸檬に告白してこいよ」
「…は?」
「この前の写真ばらまかれてもいいならこのまま無視続ければいいんじゃねーの?」
「写真は駄目!」
「じゃあ罰ゲーム。今日の放課後な。」
あれがあいつらの悪いところだ。
人を脅して思い通りに動かそうとしてくる。
告白は、最高のタイミングでしようと思っていたのに…
仕方ない。
ダメ元で告白するしかない。
「…ごめんなさい」
やっぱり断られた。
分かっていたことだけど、何か心に来るものがあるな。
「…そうですね、変な事言ってごめんなさい。じゃあ、これで…」
「待って」
彼女の細く綺麗な指が僕の腕を掴んだ。
「わたしのこと、ほんとに好き?」
「…え、もちろんですよ。」
「じゃあ、ね、今週の日曜日、一緒に映画観に行こう?」
「…え、いいんですか!?」
「日曜日、校門集合ね」
「わかり、ました…じゃあ、日曜日に!」
あまりに急なことだったから、逃げるように帰ってきてしまった。
日曜日は、どうなるのだろうか。
あっという間に日曜日になった。
昨日の夜はなかなか寝付けなかった。
集合場所でしばらく待っていたら、彼女がやってきた。
私服姿も綺麗だ。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たとこ…です」
「…」
なんだか不満そうだ。
「ねえ、クラスメイトだから、敬語はやめてほしいの」
「あ、うん、わかった、檸檬さん…」
「『さん』も付けないで」
「れ、檸檬。」
「わたしも、桑真、って呼んでもいい?」
「も、もちろん、いいけど…あんまりかっこよくないよね、名前…」
「ううん、とっても素敵。」
僕は今、幸せの絶頂にいるかもしれない。
映画館に着いた。
電車に乗っている間は檸檬がとても静かだったから、少し気まずかったけど、降りてからはたくさん喋ってくれた。
「電車は苦手なの」
先に言ってくれれば、別の方法で行ったのに。
檸檬の好きなキャラメルポップコーンを持って、席へと向かう。
キャラメルよりも甘い香りがする。
檸檬が目を潤ませたり、驚いたりする反応があまりにも可愛くて、映画に集中できなかった。
檸檬が楽しんでくれたようで、僕も嬉しい。
映画が終わり、映画館から出ようと思ったが、ゲリラ豪雨で外に出られなかった。
「あら、大変。傘持ってないのに…」
「僕も持ってないな…ちょっと雨宿りでもする?」
「そうね。すぐ止むといいけど。」
雨が止んだころには、すっかり暗くなってしまっていた。
「わたし、こんな時間に外に出たことないわ」
「僕もだよ。ほら見て、月が綺麗だよ。」
「本当ね。綺麗だわ」
君の瞳に映る星空は、何よりも美しい。
「ねえ、僕、この近くで景色が綺麗な場所を知ってるよ。せっかくだし、ちょっと見て行かない?」
「いいわね。行ってみましょう。」
「ここだよ。」
「わあ…本当に綺麗。こんなのはじめて」
「足元に気をつけてね、崖があるから」
「ありがとう。今日は楽しかったわ。」
檸檬は満足したように笑っている。
「そうだね。ねえ、檸檬。」
「何?」
「愛してるよ」
ふわりと体が宙に浮いた。
星空じゃない、僕だけを見てくれている。
なのに、なんでそんなに怯えているの?
走馬灯が見える。
「付き合ってください!」
顔を赤くして告白してくれた彼。
ずっと前から、なんだか見られてるなあ、とは思っていたけど、まさか好意を向けられているとは思わなかった。
彼は優しいから、本当にわたしのことを想ってくれているのだろう。
でも、わたしにはお付き合いしている人がいる。
彼の想いを裏切るわけにはいかない。
「…ごめんなさい」
彼の顔がみるみる青くなっていく。
弱々しく笑って去っていく彼を、思わず引き留めてしまっていた。
確か、男の人は、女の人と二人で出かける「デート」が好きだと聞いた。
お付き合いすることはできないけれど、それだけならできるかもしれない。
彼はとても楽しんでくれた。
わたしに気を使ってくれた。
これほどまでにわたしを好きだとは思わなかった。
まだ死にたくない。
「昨夜未明、高校生と思われる男女二人が―県―市―の崖の下で発見され、搬送先の病院で死亡が確認されました。また、警察の調べによりますと…」
「ぐす、なんで死んじゃったの、檸檬…」
「あのストーカー野郎と死んだってよ。」
「あいつやりやがったのか。くそ、檸檬に写真見せておけばよかった…」
「ねえ、あいつ檸檬の着替えを盗撮してたって噂聞いたんだけど…」
「ずっとストーカー続けてたって噂も…」
「それなら証拠があるよ。あいつが檸檬の後をつけてる写真と、動画も」
「ねえ、私たちがいじめたせいなのかな…?私たちのせいで、檸檬、は…」
「おい、遺書が見つかったってよ!」
「誰の?ストーカー?」
「檸檬の!」
「檸檬が遺書を書いたの?」
「それがさ、内容が、彼氏の束縛が酷くて、愛想を尽かしてたときに、あいつのことを好きになったけど、彼氏がそれを許さないから心中したって…」
「え?檸檬の彼氏ってあの高橋でしょ?そんなことするわけないじゃん!」
「でも、実際遺書に書かれてるわけだし…」
「ねえ、もしかして…」
「いくらあのストーカーでも、まさか、筆跡コピーして、わざわざ利き腕も変えて…遺書を偽装した、なんてことは…ないよね…?」
マルベリー(桑の実)の花言葉…「彼女のすべてが好き」「ともに死のう」
さいごに
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
この一編が、あなたの記憶の片隅にでも残ってくれたなら幸いです。
それでは、またどこかでお会いしましょう。