4
───旧実家の二階
布団に寝ている
動けない 金縛りだ
足元から 何かが這い上がってくる
赤ん坊だ 邪悪な笑みを浮かべている
赤ん坊は 私の胸のあたりまで 這い上がってきた
しかし 赤ん坊の首から下は 骨しかない
あばら骨は 刃になっており 怪しく蠢き 私の腹を引き裂く
恐怖と激痛が溢れるが 私にはいつものことだ
赤ん坊は 邪悪な笑みのまま こう言った
これから よろしくな───
3か月後─
旧実家がある福岡に3人はいた
家の基礎部の撤去は終わり 採掘作業が始まった
地下を掘り出して5mのところで何本もの大きな柱が出てきた
柱を撤去すると大穴が顔を出した
「こんな穴の上に住宅を建てるとは・・・」
「この辺りは 明治から昭和にかけて 炭鉱が盛んで非合法な穴がたくさん走っているんですよ」
「なので 件の大穴かは まだわかりません」
日影は疑問に答えるように話した
大穴に降りていく作業員
しばらくして 戻ってきた作業員の言葉に3人は反応する
確認のために3人も穴の底に降りる
穴の直径は広いところで8mほど 下に行くほど広がっていた
底には報告通り 一面の骨が大量に折り重なっていた
"白骨化した 骨の山"
これは 橘や霊能者が見た光景と一致していた
穴の側面にはいくつかの横穴らしきものも見える
「・・・まちがいない」
橘が呟く
「この奥には きっと・・・!」
言い出すや 橘はまだ無事な横穴に入っていく
「おい 危険だ 調査を待て!」
安田は呼び止めるが 橘は穴の中へ消えてしまった
「安田さんは上に戻って作業員を呼んできてください 私が追います」
「わかった」
日影はそう言うと橘を追って横穴へ入っていった
横穴を進むこと10mほど 開けた場所に出る
左右には 悍ましい姿の像が立ち並ぶ
まるで見たことのない造形で 一言で言うと"邪神像"である
長い月日が過ぎ去ったことが この像の表面に刻まれていた
奥には朽ち果てた祭壇があり 橘はそこにいた
「橘さん!」
返事はない
橘は夢中で 祭壇を調べているようだった
「危険です 一度戻りましょう」
「待ってください ・・・もう少しでわかるんです」
橘は 祭壇の上に手をかざすと 目をつむった
「・・・やはり まちがいない ここだ」
「もういいです 戻りましょう」
橘は何かを確信すると 大穴のほうへ戻り始めた
橘は大穴に戻ると 今度は大量の骨を素手で掘り返し始めた
「何をしてるんです?」
「この下に あるはずなんだ」
「何がですか」
「何といえばいいか ある種の装置です」
「装置?」
「ここは "中心"であり "集積所"だったんです」
「?」
「あった!」
日影が覗き込むと 床石に掘られた なにやら読めない文字が見えた
「なんですかこれは?」
「さぁ?読めはしない ただ ここが"中心"であることは まちがない」
そこへ安田が作業員を連れて戻ってきた
「調査は任せて 一旦地上へ戻れますか?」
日影が橘へ聞く
「はい・・・」
橘の顔には 覚悟が表れていた
地上に戻ると 安田が口を開いた
「それで なにがわかったんだ?」
橘は神妙に話し始めた
「横穴の奥には 古代の祭壇 邪神像があった」
「間違いありません」
日影が答える
「そして・・・ 日影さんはわからないだろうが あの祭壇はポータルになっている」
「ポータル?」
「異次元をつなぐ穴だ」
「この家の窓が異次元に繋がっていたのは この装置の影響だったんだ」
顔を見合わせる 安田と日影
「・・・ポータルのことはわからないが 大穴 骨の山 祭壇 邪神像は 事実あったわけだ」
「そうですね 私が協力を仰いだ霊能者も言い当ててました」
「重要なのは "中心"だ」
橘が割って入る
「中心とはなんだ?」
安田が聞く
「ほかの横穴も おそらくポータルと繋がっているだろう」
「そして すべてのポータルの"中心"が あの大穴なんだ」
「異次元のポータルから 現れた魔物はどこへ向かう?」
「そう"中心"だ! すべての魔物は"中心"で出会う! そして食い合う!」
「・・・食い合う?」
「あの大穴は・・・ 異次元の魔物を利用した 巨大な"蟲毒"だったんだ!」
「蟲毒?」
「古代中国で使われたという呪術ですね」
日影が答える
「毒をもつ生物を 壷などに放り込み 互いに食い合わせ 最後に生き残った一匹を呪術に使うという・・・」
「・・・そんなものを 誰がいつ 何のために作った?」
「今までの話を考慮すると 数千年前・・・もっと古いかもしれませんね」
「・・・」
黙り込む安田
「あぁ! これは・・・ まだ生きてる まだここにいる・・・」
「橘どうした?!」
橘の目線はどこか遠くを見ているようだった
橘の体に何者かの念が流れ込み 橘の脳裏には映像が現れた