3
───また ここにいる 旧実家だ
私の背には 赤ん坊が跨っている
赤ん坊は楽しんでいる
私はしばらく お馬さんごっこをしてあげた
ひとしきり 満足したのか 赤ん坊を背から降ろす
そこへ 妹がやってくる
「お兄ちゃん ありがとう」
妹はそういうと 私の手から赤ん坊を受け取った
私は妹に抱かれてる 赤ん坊を見る
赤ん坊は 生気がなく 死体だった───
東京 安田の事務所にて
安田は日影から 調査報告を受けていた
驚くべきことに 橘の妄言と思われていたことが 複数の筋からの情報と一致したのだ
ここにきて安田は日影に すべての経緯を話した
「・・・そんなことが」
「これをどう受け止めていいのかわからない・・・」
安田は困惑する
「整理してみましょう」
「彼(橘)の言と一致したのは ①地下の構造 ②魔物が存在していること ③それは神仏にも手に余るということ 合っていますね?」
「ああ まちがってない」
「ということは 彼の言う 異次元の世界や 彼の使命についても 信憑性が増します」
「・・・そういうことになるな」
一瞬 沈黙が支配する
「これは提案ですが・・・」
「もう一度詳しく 橘さんの話を聞いてみてはいかがでしょう? 私も同行させてください」
日影は 身を乗り出した
「・・・そうしよう」
安田はまだ 整理がつかないようだった
精神病棟にて
安田は日影を連れて 橘に調査の報告をしていた
「やはりそうか・・・」
橘は諦めの滲む なんとも言えない表情を見せた
「それで あの家について もっと詳しく教えてくれないか?」
「概要は話した通りさ あの家は 異次元と繋がっていて そこから魔物が入ってきてる」
「それらは 神々の力も及ばない 遥か遠く 宇宙の外からやってきた 異形の存在なんだ」
「俺は それらを押し止めるために あの家に生まれたんだ・・・」
「なぜそこまで言えるんですか?」
日影が問いかける
「・・・霊感とは "そういうもの" としか説明できません」
「ある日 不意に 真実を把握するんです」
「・・・」
「あなたには 魔物を止める使命があるといいますが 何かそういった能力があるんですか?」
「はい 私には戦う力があり 言ってはいませんでしたが 今もあの家から魔物が溢れないように封鎖してるのは 私の作った"式神"達なんです」
「・・・」
「これからどうしますか?」
日影が安田に問いかける
安田に答えはない
「複数の証言が一致したことは驚きですが まだ何も物証はない」
「・・・地下を調査してみませんか? 私も真相が知りたい」
日影は 思い切って提案をした
「あの土地を掘り返すというのか? それは冗談ではすまなくなるが・・・」
「橘はどう思う?」
「母が死ねば あそこは俺が相続することになる 遅かれ早かれ決着をつけないといけない」
「そうか・・・では 費用の心配はいらない 最後まで付き合おう」
安田は腹を決めたようだった
後日 安田は橘を連れて 入院中の橘の母親に面会した
橘の母は 死の訪れを待つ そんな独特な雰囲気を纏っていた
橘は言葉を選びながら 旧実家の調査の理由を説明していたが
橘の母は すべてを話さなくても 何かを察したようだった
「智樹がそう思うなら 何でもやってみなさい」
「安田君 智樹のこと よろしくお願いします」
そこから 橘は退院手続きを行い 安田は旧実家の撤去と採掘作業の段取りに奔走した