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───また ここだ
気づけば 旧実家の布団で寝ていた
私は幼児だった
誰か来る
暗がりだが よくわかる 叔父だ
叔父は下半身が裸だった
叔父は覆いかぶさるように 私に迫ってきた
危険を感じた私は 露わになっている叔父の急所を 強かに叩いた
幼児の自分には対抗手段がこれしかなかったのだ
苦痛に身をよじる叔父をよそに 私は逃げた
そして 目が覚めた
しかし 親族に そんな叔父は存在しなかった───
安田は現地調査のために探偵を雇った
探偵の名は日影恭介
顔立ちは整っているが どこかくたびれて陰鬱な雰囲気を纏った男だった
安田は橘の言は伏せたまま 日影に住所や家の資料を渡すと こう言った
「できるだけ古い時代まで調査してほしい」
「古いとはどれくらいまで?」
「縄文時代や石器時代・・・とにかくできうる限りだ 調査方法はすべて任せる」
「・・・わかりました」
日影はまず 現地福岡へ赴き 土地の歴史を調べた
しかし 資料を辿っても 田舎のため 江戸のころまでしか記録が残っていない
土地の郷土に詳しい人物を訪ねたりもしたが そのような古代の時代を知る者はいなかった
考古学的には この土地では河川から土器が多数出土してること
かつては海岸線だったこと ということがわかった
他に目新しい情報も見つからないまま 時間だけが経過した
しかたなく 日影はある霊能者を訪ね ダメもとで件の旧実家を霊視してもらうことにした
地元では 見える人として有名な霊能者らしかった
待ち合わせ場所に向かうと 見た目は普通のおばさんが 日影を迎えてくれた
ここは 霊能者の住んでる家だった
リビングに通される
「よろしくお願いします」
日影は挨拶を済ませると 一枚の写真を取り出した
そこには平凡で小さな2階建ての家が映っていた
霊能者は写真を見たのち 空をみつめるような視線になる
「玄関入ってすぐ右に階段があるね 左は居間にキッチン 奥が洗面所・・・」
「二階にあがると3部屋あって 奥がベランダ」
と 家の構造を話し始める
日影もそういった能力については知っていたが 当事者として体験すると驚いた
まったく資料どおりだったからだ
「うーん・・・」
霊能者が唸る
「どうも異常な気を感じる 特に窓や地下から 異常な気が流れ込んでいる」
日影はやりとりをボイスレコーダーに録音していた
「地下を見れますか?」
「見てみよう」
「大きな穴・・・」
「白骨の山 複数の横穴・・・ 奥に祭壇のようなもの 気味の悪い像」
「一体ここはなんなんだい?」
霊能者が訝しがる
瞬間 霊能者の表情が驚きに変わる
「?! これは?! だめだ!」
霊能者は勢い目をつぶる
「大丈夫ですか?」
霊能者は少し落ち着くとこう言った
「・・・これ以上は見れない お代は結構です お引き取りください」
霊能者の顔には不安と恐怖がみてとれた
「え?! 何が見えたんですか?」
「なにか とてつもない 邪悪なもの・・・」
「これ以上は見れない 私は見るだけなので 対処できないものには 近づかない」
「見た瞬間に その存在と繋がってしまうのです なので ここまでです」
そう言うと 霊能者は そそくさと 奥へ消えてしまい
日影は 追い出されるような形で 家を去った
日影は いまいち釈然としない気持ちだったが 一種の手ごたえを感じ
二人目の霊能者を訪ねることを決めた
そこから1か月 日影は力ある霊能者を探していた
もし なんらかの 邪悪な存在がいるとするならば それに対抗できる力の持ち主を見つけなければならない
日影は 陰陽師の血筋を引くという ある霊能者に連絡を取り付けた
当日待ち合わせ場所に向かう
場所は都心の一角 商業地区のビル
しかし どうも今日はおかしい
目覚ましのアラームはなぜか鳴らず 電車は事故で大幅遅れ タクシーに乗り換えたが 運転手が道に迷う
結果 ビルに着いたころには待ち合わせ時刻を大きく超えてしまった
「遅れて申し訳ありません」
理由は電話で報告済みだった
「来てしまいましたか・・・」
陰陽師は体格がよく 覇気のある男性であった
しかし その表情は曇っていた
「?」
日影は訝しんだ
とりあえず 日影はソファの向かいに座ると 旧実家の写真を取り出そうとした
「出さなくとも 結構です」
陰陽師は遮るようにそう言った
すぐに 指で空を切ると 何か呪文を唱え始めた
「実は今朝になって よろしくないものを感じて 私の"守り"があなたの到着を妨害していたのです」
「え? 故障や事故はそのせいで?」
「そのとおりです すみません」
「なぜ このようなことになったかというと この件がおそらく 私の手に負えないものだからです」
一体どうやって そんな真似ができるのか 日影は気になったが 話を進めた
「私もここまできて 手ぶらで帰れませんので なんとか見ていただけませんか?」
「すでに見えてることでよければ お伝えします」
「それでかまいません」
「・・・家ですね?」
「そうです」
「その家からは 吐き気や悪寒を感じます」
「多くの・・・妖怪 見たことのない魔が その家にはひしめいてます」
「この存在達は おそらく地球のものではないでしょう」
「一つ一つの力も強大で 残念ながら 私では手に負えません」
「というより どんな能力者も 手を出せないでしょう」
「ここまでです 料金は前金だけで構いません」
「そうですか わかりました」
日影はボイスレコーダーを止める
「これは忠告です どういう経緯かわかりませんが あなたもその家には関わらない方が賢明です 人間の手に負えるものではありません」
「一体どんな因果で そのようなことになったのか・・・」
陰陽師にそういわれたが 日影は答えもなく立ち去った
日影は最後に密教僧を訪ねた
関西にある 知る人ぞ知る サイキックな力を行使できる
密教僧がいると寺に来ていた
住職に居間へ通されると 日影は切り出した
「この家です」
旧実家の写真を取り出す
しばらく写真をみつめた後に 住職は印を組むと
いくつかのマントラを唱え始めた
しかし住職は驚きの表情になる
「・・・おかしい」
「どうされました?」
「神仏の力が通らない というより動いてくださらない こんなことは初めてだ」
「どういうことでしょう?」
「わからない・・・ 神仏が動かないのには何か理由があるのだろうが」
「少し聞いてみます」
住職はそういうと しばし瞑目した
「・・・信じられませんが この家に巣食う者には 力が及ばないそうです」
「神仏の力を超えるような存在がいることが 信じられませんが・・・」
「とにかく 私にはどうしようもありません 申し訳ありません」
住職にそう力なく言われ 日影は立ち去った