化け物③
上段から繰り出される大剣の一撃。
―——疾い。
ライアと呼ばれた男は躱しきれないと判断すると、急停止して両手の短剣に魔力を注ぎ、クロスさせて大剣を受けた。
剣と剣のぶつかり合い。ひとつ前の衝突と違い、今度は剣の強度を限界まで魔力で強化したはずだった。だが、ライアの剣は二振り共無様に砕け散った。
「!?」
馬鹿な。
勢いそのまま迫る大剣。体を反るようにしてそれをよけようとする。幸いそれは掠るだけにとどまったが、ただそれだけでライアは後ろに吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられたが、何とか受け身をとってダメージを最小限に減らす。
「くっ」
まるで違う。先の闘いが嘘のようだ。思考が読めない。何も考えてはいないのか。ただ純粋に楽しんでいるだけなのか、本能のままに。
それならば厄介だ。そういう奴は恐れを知らぬが故にどこまでも無謀だ。だから厄介だ、止まることを知らない。
ゆらゆらと体を揺らしながら吸血鬼は近づいてくる。どうやら、こちらが武器を出すまで待っているらしい。
小細工は通じないだろうな。
ならばどうするか。
「簡単だ」
お前の得意で戦ってやる。
魔力を司る経脈をフル稼働させる。
「———開始。———analyze。———memorize。———glaze。———ooze。万物は我が手の内に。 真の一を為すために」
何もなかった空間に、光と共にそれが現れた。
「Copy」
一層激しい光の中から、ライアは掴んだ。目の前の吸血鬼の持つ大剣とまるで同じものを。
「へぇ。見ただけでマネできるんだ」
それほど驚いてもいない様子である。きっと、本能だけで動いていて頭が回っていないからだ。それとも、目の前の男があの英雄だと分かっているからだろうか。男はそう考え、
どうでもいい。
すぐに考えを一蹴した。
余分な思考をそぎ落とし集中する。
俺はただ。
魔力が高まる。
体がまるで自分の者ではないような感覚。
ただ、相手を始末するだけの冷徹な操り人形のよう。
そうだ、
「殺す」
一言告げた。
刹那。
血しぶきをあげながら、吸血鬼の体はバラバラに切断された。




