化け物①
二人の間には重厚な殺気が渦巻き、そこはまるで重苦しい戦場となった。
キュリアの戦士はこの感覚を懐かしく、不愉快なものとして意識の外に捨てた。
アンデと名乗る騎士はこの感覚を愉悦と気持ちを高ぶらせる。
互いに異なり、対となる二人。
だが、互いにいたって冷静であった。戦うものである二人は、どれだけ不愉快でも、愉悦を感じたとしても命取りとなる行動はとらない。
静寂。
風の鳴く音だけが暗闇の中で不気味に聞こえた。
びゅうびゅうとしつこいくらいに風は吹き続ける。
「———!?」
刹那。風に乗って弾丸のようなものがキュリアの戦士に目掛けて飛んできた。不意打ちで飛んできたそれを左手の短刀ではじくと、アンデはここぞとばかりに超人的な速さで男の懐に入り、胴に狙いを定め剣を振った。
「なっ」
驚愕は誰のものか。
男は片方の短刀でアンデの剣をいなし、そればかりかもう片方の短剣で騎士の体に傷をつけたのだ。
アンデはとっさに男から距離を取ると、傷ついた箇所を癒した。
「やはり、そうか。お前らは吸血鬼か」
「やはりだと。事前に我らが吸血鬼だと知っていたのか」
男はさも当然のように冷ややかに告げる。
「わかるさ。この国の在り方と事前に集めた情報で少し考えれば誰だってわかる。国を立て直すほどの魔術に、人の形をした夜にしか会えない太陽が苦手な王様なんて吸血鬼だと言ってるようなものだ」
「確かにそうかもしれない。だが、我らを吸血鬼だと知って戦いを挑むとは無謀だな」
アンデの体の傷がなくなっている。どうやらなかなかの再生力を持っているらしい。
「お前ら吸血鬼は人間にいいように使われてた劣等種じゃないか。そんな奴ら俺の敵じゃないね」
「傲慢だな。確かに我らは人間のもとで屈辱的な支配を受けていた。だが、それは一流の魔術師が我らが太刀打ちできないほどに大量にいたからだ。たかが人間一人なら、我らが後れを取ることはない!!」
叫ぶとアンデの剣が赤く光り、暗闇の中を照らした。
「血操術」
赤色の刀身が伸び蛇のようにぐにゃりと曲がると、巻き付くように騎士の周りを囲った。
「陀血」
男は思わず短剣を構えなおした。目の前にいる騎士から発せられる魔力が、およそ尋常ではないからだ。
「終わりだ人間。後悔は遅いぞ、その血で己の傲慢を洗い流すといい」
もはや、この戦場には誰だって介入はできまい。もし入ろうものなら、木っ端の如く吹き飛ばされるだけだろう。




