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エグゼキューター  作者: 結城 春
迷々編
23/24

傲慢判決⑤

 「!?」

 刹那の瞬間、視界から英雄の姿が消え右腕が切り飛ばされた。そして何が起きているのかを理解することもなく、胴体が真っ二つに切り裂かれた。

 化け物は瞬時に体を再生させて城壁めがけて駆け出した。英雄から逃げたかったのもあるが、なにより太陽の光が当たるのを恐れたのだ。

 日が昇るまであと三分ほど、万が一のために日の当たらない影のできている場所で戦おうというのだ。

 走る、走る。追撃はない。どこにいるのかもわからない。踊らされているのかもしれない。知性がある程度戻ってきている。今の一撃で魔力を消費しすぎたのだ、真・化が解けかけている。

 そうして城壁付近の影ができている部分にたどり着いた。

 「遅かったな」

 「な!?」

 振り返るとそこには英雄がいた。かつて戦争を終結に導いた稀代の英雄が。

 知性が戻りかけているが、何かを考えることができない。頭は真っ白で、ただ本能が恐怖を感じていた。

 「そう恐怖だ」

 「は?」

 抱く感情を見破られ、さらに気が動転する。

 「お前の抱いた夢、本来やろうとしていた戦争というものは世界に恐怖をばらまくんだ。お前の抱いているその感情、それを理解した今ならわかるだろう。それがどれだけ恐ろしいことか」

 恐怖を振り払うように剣をふるった。

 英雄は少し体をそらすだけでそれをよけ、手に持ったソレで四肢を切り落とした。

 「に、人間がどうなろうが、どれだけ恐怖を感じようが我々に知ったことではない。我々にそれを教えたのは人間だ、植え付けたのは人間だ。恐怖でしばりつけたのは人間だ。お前達がいる限り、我々はおびえて暮らすしかなかった、自由を得るためには戦って勝ち取るしかない!!お前達だって、」

 「それを哀れだと言っているのだよ。この世界を見ればわかるだろう、たとえ戦争に勝ってもその先にあるのは戦争だ、戦いは終わらないし恐怖は残り続ける。お前たちを縛り続ける」

 「ならば黙ってみていればよかったのか。我らはお前たちに支配され続け、服従を誓い、おびえながら過ごせばよかったのか」

 静寂。

 ライアはしゃべりすぎたと思った。化け物には何を言ったて無駄だ。初めからわかっていた、そのはずだ。

 ならば、これは‥‥‥。

 何のために。

 ———それは、行動を正当化するためだろう。

 頭を振って決意を固める。

 「何をしても同じなら。他者を巻き込むなよ」

 とどめを刺そうとソレをふるおうとする。だが、その寸前でドー・キュラーが言い放った言葉に動きが止まった。

 「この国の者たちはどうなるかな」

 「なんだと」

 ドー・キュラーは口元に笑みを浮かべ語りだした。

 「お前は知らんだろうがな、この国の井戸も、畑も、全部、我の術で成り立っている。消えればどうなるか、考えたことはあるか?」

 英雄は固まったままだ。

 「それがなくなったら、お前はこの国の民がどうなるかわかるか」

 「そんなことは、そんなことはわかっている。それでも、それでも俺は自分を曲げるようなことは」

 切り飛ばした右腕がライアの首めがけて飛んできた。反応できずそのまま首を絞めつけられる。

 その隙をついてドー・キュラーは体をすべて再生させ、魔力を血の剣にすべてを叩き込んだ。

 「いいや、お前では我は殺せない。先ほどの家でお前は、名前も知らない人間一人犠牲にできなかった。それがお前という人間を表している」

 上段から方めがけて振り下ろされる一撃。

 英雄は思う。確かにそうだと。それでも、俺は曲げられないものがある、戦争は止めなくちゃいけない。

 俺のような人をこれ以上、苦しむ人をこれ以上出さないために。

 「なんだと」

 その一撃は素手で止められた。

 「でも、それなら。この国の人にだって苦しんでほしくはないはずだ。でも、それじゃあ戦争は止められない。だから、俺は」

 吸血鬼は無理やりライアの手を振りほどき、後ろにとんだ。

 英雄はゆらりと立ち上がり剣を構える。

 「まさか我を殺すというのか。この国の民を見殺しにするのか、外の人間と同じ結末をたどらせるのか。そんな傲慢な‥‥‥お前の判断で死ぬんだぞ」

 「それが傲慢でも、俺はより多くの人を‥‥‥」

 少数を切り捨てて多くを救う。でもそれは、俺の願いに反することだ、正義ではない。

 ライアの武器が金色の光を放つ。

 でも正しいだけじゃ、それだけじゃ救えないものもある。俺は見たはずなんだ。

 昼間の光景が目に浮かぶ。

 「くぅ」

 ドー・キュラーの武器は赤く光る。

 「俺は」

 かつての記憶が、戦争の記憶がよみがえる。

 そうだ、正しいだけじゃ進めない。迷っていては踏み出せない。進まなきゃ救えない。そのためならおれは、

 「俺はぁぁぁ!!」

 両者は剣をふるった。それは剣の間合い外から放たれた。

 二つの光は振るわれると同時に質量を持ち、高速で進む兵器となって衝突した。

 爆音とともに、二つの光は拮抗状態を作り出したがそれも長く続かず。金色の光が赤の光を飲み込み、そのまま前方にあるすべてのものを飲み込んで更地にした。

 その跡地に吸血鬼の姿はなく。壁には穴が開いていた。きっとここから外の人々が侵入して、更なる困難を招くだろう。戦いになるかもしれない。

 きっとみんな死ぬ。

 昼間の光景がフラッシュバックする。俺はあんな光景を守りたくて戦っているのに。

 でも、それでも。

 彼は涙をその目に浮かべてしぇいのもとに向かった。

 戻ると幸いシェイに息はあった。回復魔術をかけて、そのまま担いでその国を後にする。

 城壁上って最後に国を見渡してみる。

 先ほどの音でこの国だったものは目覚めたらしい。人々は家を出ると異変に気付いた。壁は壊れ、あたりはボロボロ。

 混乱は広がり、皆が宮殿に押し寄せる。もぬけの殻の宮殿に。

 「?」

 三人の子供が壊れた壁に近寄って何やら話をしている。状況を理解できていないのかも入れない。俺はこの子たちの未来を‥‥‥。

 悲鳴が聞こえる。

 子供たちの。

 外の人々が、侵入する。

 襲う。

 崩れる。

 戦争を終結に導き、人々に救いをもたらした英雄はただ眼をつむる。そして国を離れた。

 ただ誰かに間違いじゃないと言ってほしかった。

 

 

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